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コミュート
光で薄めた暗闇の中心をボールペンみたいに水平に滑っていく銀色の電車の窓ガラスから広がる青白い明かりを同じ速さで走るもう一本の電車から見てる、直方体の空間を効率的に満たす人たちはそれぞれのやり方で自分の重さを場所にあずけて音にならない微弱な思いを右手につながる卵みたいな端末から発信する、絶えず都市を行き交う信号のいくつかをこの電車の誰かが受信してたとして相手は夜を挟んだ対岸で吊輪をつかんで移動するあの人かもと思うのは肩まで切られた胡桃色の髪のせいかもしれない、単調な線路の振動が足から伝わりエコーになって縦方向に巡るうちに心拍に同期して穏やかな低音はからだを流れるリズムに融けていき同じ距離を保ちながら端末と向かい合う彼女を見つめる、あの萌黄のラインの電車の震えも彼女に響いていくらか気持ちを揺らしてるかもしれないって思ったとき前髪が上がり生まれたての視線が瞬時に夜の河を渡る、わたしはゆっくり両目を細めてそのスピードをやり過ごす、並んで移ろう電車の鼓動に耳を澄まして彼女の呼吸を考える、斜め後ろに意識を薄めてわたしの居場所を明け渡す、ミルクみたいな靄が濃くなる中でふと彼女はそのままわたしなのかもしれないって思いが隅の方から沁みてくる、それは静かに全面に広がり若しくはわたしが彼女なのかもしれないって色合いに近づいていく、やがて電車の距離が縮まり歩いて渡れそうになったとき、結局どっちも変わらないかもって急に気づいてわたしがすうっと軽くなる、徐々に速度を落としながら電車が離れて河幅は広がる、その姿がプラットホームの向こうに消える寸前、彼女はまた端末に目を落とす、電車が停まり雑踏をやり過ごしてからわたしは携帯に手を伸ばす、気を許して腰かけたきれいな機械を見回すと、わたしの意味をしるしに託して遠くの方へと流れていく
コミュート ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 921.7
お気に入り数: 1
投票数 : 4
ポイント数 : 15
作成日時 2024-04-11
コメント日時 2024-05-10
項目 | 全期間(2024/11/09現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 10 | 10 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 15 | 15 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 10 | 10 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 15 | 15 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
感覚を、丁寧に拾って文章にしてあるので、秤に乗せて重さをはかってみたいなと思いました。 「俺の髪型が、何だってぇ!」(東方仗助)
1電車を待つ夜のプラットフォーム。上り下りとすれ違っていく線路の、通勤電車の音と光だけが眩しく交錯する。人々は下を向き無言で携帯と交流している。つり革を持つ彼女たちも、私と同じように仕事を終えて帰宅するのだ。こんなことが日々くり返されていく日常。並行して奔る光の中で、彼女は携帯を手に立ち尽くしている。私はそれを見つめながら、今日という一日を平行に思い返している。朝早くから電車に揺られ、昼間忙しく仕事にも追われ、夕にはまたこうして電車に揺られて帰っていく、彼女たち。どんな思いで毎日を通勤電車に明け暮れているのだろうか。ひょっとしてそれはわたしと同じような思いでもあるのだろうか。答えは携帯の、画面の中にもあるのだろうか。 そう見つめながら、こちらを意識しない相手の想像は尽きません。混み合うにぎやかなプラットフォームから、ひとたび電車内に移ればそこは孤独な空間です。通勤電車で通うサラリーマンはみんな同じような思いでしょう。縦横無尽に輝く鉄道の雑多な電車内の中では、誰しもが垂直に閉ざされた時間という空間の中で孤独を装っているのです。 僕なんかは逆に深夜のほとんど誰も居ないプラットフォームや電車内でよく考えますね。明日も変わらない一日が待っているのだ、と。 田舎では考えにくい状況だと思うので、たぶん都会の駅構内にみられる忙しない通勤電車の光景でしょうね。 誰しもが胸に秘めている孤独感。 /錯綜するようにその瞬間の光景を見事に閉じ込めていると思いました。言葉を使った詩という表現の中で… …
1丁寧に読むとやはりよく書かれていると思います。「コミュート」が通勤/交換という意味を持っていて、詩の中で表現されていることと、とてもよく合致していると感じました。「前髪が上がり生まれたての視線が瞬時に夜の河を渡る」というイメージが好きでした。「彼女はそのままわたしなのかもしれないって思いが隅の方から沁みてくる、それは静かに全面に広がり若しくはわたしが彼女なのかもしれないって色合いに近づいていく」は、彼女との対比する主体が“ぼく”ではなく“わたし”にされた意味があぶりだされた絵のようにそこで解き明かされた感じがして面白く感じると同時に作品の核心みたいに思いました。ほのかに残ったあかりがじんわりと消えていくような締め括り方も、作品の雰囲気と調和していると思います。 情景描写が独特な言い回しで表現されているので、それを適切に感じ取るためには、丁寧に読む必要があるということが全体の印象として残りました。僕は好きなのですが、それを冗長ととられるかもしれない、ということを頭の片隅に置かれた方がいいと思います。それからトーンが同じなので、絵のように、遠くはぼかして近くは鮮明に書く、みたいな、表現に強弱をつけられるといいかもしれません。どちらかというと小説にも近いので、共感を簡潔に可視化された小説などから、(表現の)ヒントを得られるのが一番確実な、次の段階に進める方法かと思います。
1「しっとり」してて、 ことばでは言い表わせないと言うほかはない感性がある。 うらやまC
1言葉、意識、文章、電車、全てが流れていく感じがとても好きです。 句読点の使い方もその流れていく感じをとてもよく反映しているように思いました。
1コメントありがとうございます。一言では表せない心象風景を書いてみたいと思っています。 髪型についてはそんなに言及していませんが笑
1丁寧にコメントいただきありがとうございます。褒めていただきうれしいです。わたしも夜の人気のないプラットフォームや電車でそのようなことを感じたりします。通勤はやっぱり面倒だしテレワークもよいのですが、コメントいただいた孤独感、それもまた自分の一部のようで嫌いじゃなかったりします。
0じっくりと読んでいくと想像できます、それが流れるような書き方、心象風景だと思います。ここまで丁寧に書けるひとは見ないねえ。みな詩とは?小説とは?と考えてしまって型にハマってしまうのでね。1,5Aさんが指摘している、表現の強弱をつけずに同じトーンで書くこと。これは特色のように思います。ですから、むしろ逆に、今見えている文体、小説のような書き方、ですよね。それをかたちてきにもっと、一般的にいわれる詩のように整える。そしてじっと眺めてみるということ。今書いてある光景は簡単に崩れてしまうけど、同じ調子で置くのならそれを活かす方へ、ただズラズラと書くのではなく、文面、見え方にも気を使ってもいいかなと思いますが。まあでも自分がいいと思う方向で、納得したものを出すことが創作にとって一番大事なことですからね。とかく今を楽しみたいのか、今よりうまくなりたいのか。大いに悩んでください。あと、まえからきになっていたのですが、〝かもしれないって〟よく使っているけどこれはわざとなのかな。何度も続くから活かせるならそうしたほうがいいかなとおもった。
1コメントありがとうございます。自分で書いてても冗長に思うこともあるので、これから、表現の強弱みたいなことも考えていきたいと思います。もともとずっと小説を読んできていて、ただ小説だと自分の書きたいことには長いなと思ってこのようなかたちになっているのですが、そこにも凝縮した形での濃淡があった方がよいと思いました。
1コメントありがとうございます。1.5Aさんの返信にも書いたのですが、ずっと小説読んできたのであまり詩のかたちのことがよくわかってないという問題があります…。コメントいただいて、詩も色々読んで、見え方をいろいろ模索してみたいと思います。1.5Aさんとともに、毎回丁寧にコメントいただきありがとうございます。 かもしれないについてはわざとじゃないです。わたしがかもしれないって感じの人間だからだと思いますが、そこもこれから気を付けてみます。
1褒めていただきありがとうございます。しっとりしたものが好きなのかもしれません。
0ありがとうございます。そういうものが書きたいと思っていたので、うれしいです。
1コメントありがとうございます。
0読点が続き、途切れないセンテンス。電車の窓から見ているのかと、視点を確保してもある種の不安が払拭できない詩内容だと思いました。ああ、違う電車が二両出て来て、視点が入り組んで私の中でこんぐらがる。都市を行き交う信号。線路の振動がエコーとなって。「そのスピードをやり過ごす」?「ミルクみたいな靄が濃くなる中でふと彼女はそのままわたしなのかもしれないって思いが隅の方から沁みてくる、それは静かに全面に広がり若しくはわたしが彼女なのかもしれないって」 こんな視点。彼女が私で私が彼女で?詩に入り組んだ視点を持って来たと思いました。流れて行く私こそ詩なのかもしれません。
1丁寧に読んでいただいてありがとうございます。確かにその安定しないわたしの流れなのかもしれないって思いました。
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