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死線上のアリア   

岩垣弥生 
作成日時 2018-11-03
コメント日時 2018-11-12

 

悲しきものは造花の鬼灯 百均にて二本並んで売れ残っている 「まるで僕たちみたいだネ」 あなたはいつも淋しく笑う 小鳥 残酷な青さのなか囀り 少女 野蛮な光線のなか踊って ほほ撫でる風が古傷を奏でる 言ってしまったあの言葉 言えなかったあの言葉 海馬のアドリブが棘となって胸を刺す ただ痛いだけではない美しい旋律 痛いくらいに美しい旋律 『これは何色ですか?』 『綺麗な色です』 『これは何色ですか?』 『綺麗な色です』 『これは何色ですか?』 『綺麗な色……』 花束は未来の炎でなければならない 初恋は薫る淡雪でなければならない 「キリンの進化論を早送りしたら船を待つあいだに羽が生えたヨ」 あなたの冗談は不可思議で厭世の衣を着ているのがかなしくて  十六夜 射干のドレスを纏い光と闇の粒子を睨む かくりよの燐光浴みたわたしには夜空の背骨がはっきり視える 夜空の背骨を階段に、一心不乱に駆けのぼるのだ かつて手を伸ばした天体の世界にたどりつくため 琥珀の月に吠えるライオンは置き去りにして 全身に刺さる風は気持ちよく、どこまでも行けそうだ 駆けのぼるわたしの耳にJ.Sバッハのバディネリが聞こえる バディネリの跳ねるようなフルート演奏が加速するにつれ、背骨の階段はエスカレーターに変わる 体重を無くして浮遊するように、夜空の頂きに吸いこまれるように、どこまでものぼってゆく その途中で成層圏の番人に出会った 成層圏の番人は腰の曲がった羊飼いで、わたしに小さく手を振ると羊の影に隠れてしまった きっとメランコリーなのだろう さあ、いよいよ宇宙だ!闇に咲く宝石たちの世界だ! バディネリはもう聞こえない 一途に 一途な 天体嗜好症 電気の敵 あゝ、ついに月までやってきた! 弱者の感傷で夜毎に肥え太る月 強者の傲慢で夜毎に痩せ細る月 月の孤独に寄り添うように静かな月面に倒れこむ 『わたしの孤独と混ざって反応して…ここが終わりでいい…わたしは月と一つになりたい』 そんなことを願い目を閉じると、透明な睡魔に襲われた 少しずつ明かりが消えるように意識が暗転してゆく 抵抗できず、わたしは深い眠りに落ちた 瞼の裏側 さざなみ 鏡 月の裏側 まびさし 祈り ゆりかごゆれて あなたはいづこ ゆりかごゆれて またあいたいよ * 重い瞼を開くと白い光と見知らぬ天井があった 「よかった!意識を取り戻しましたよ」 若い男の声がする どうやらここは病院で、路上で倒れているところを救急搬送されたらしい 聞けば丸二日間昏睡状態だったという 転倒の際にできた軽い脳挫傷(後遺症はないらしい)のほかはまったく異常が見つからず、なぜ眠ったままなのか原因不明、医師もお手上げだったそうだ 喪失した時はリンゴ何個分だろう 日常に戻ったら「地獄帰りの」とか「不死身の」とか二つ名ついたらヤだな、などと呆けたことを考える  ため息も呼吸 わたしは生きている 頭部CT検査と血液検査をして異常はなかったが、経過を見るためにしばらく入院が必要らしい すぐに母が面会に来た 母は涙を流しながらわたしの手を握ってくれた どうして意識を回復しないのか原因不明のため、最悪の事態も想定するよう医師に言われたそうだ 母の手はわたしの手と同じ温度で、自分に手を握られているような感じがするから気持ち悪いなァ  家族 しがらみ 固結び でも愛してるヨ、なんて言わないけどね  人生という名の航海は続き  後悔という名の人生は続く 急に生き方は変えられぬ 後悔は絡みつく茨でも、美しい音を奏で、綺麗な色に彩られることもあるのをわたしはもう知っているから 不意に病室のドアが開く あなたは左手に幻獣辞典を持って、やっぱり淋しく笑っている そういう人なのだ 見舞いに花束でも果物でもなく幻獣辞典 きっとわたしが生死の分水嶺にあった時もザ・スミスの「ガールフレンド・イン・ア・コーマ」など口ずさんでいたに違いない 明恵上人と同じくらい月に憧れるわたしが月になり損ねたというのに 『あなたのおかげで帰ってこれたヨ』なんて死んでも言わないけどね、そうだな、とりあえず受け取った幻獣辞典の角で頭を小突いてやろう、ウン  人生という名の航海は続く


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沙一 (2018-11-07):

幻想的な世界観を感じさせる言葉に彩られていて、愉しみながら読ませていただいたら、黄泉返りの物語だったんですね。重たいテーマのわりには、暗い色調がまったくなく、ポップな個性が光っていると感じました。 …実は私も、この作品とよく似たテーマの掌編小説を書いたことがあります。重たいですが。笑

社町 迅社町 迅 (2018-11-08):

華奢ながら熱のある前半と、どことなく微かにギャグっぽい雰囲気が漂ってるような後半で、夢と現実のような落差を感じつつ、二重にたのしく読みました。

社町 迅社町 迅 (2018-11-08):

ごめんなさい、ギャグっぽいと言うか、他の言葉を知らないんです。気を悪くしてしまったらすみません。

オオサカダニケオオサカダニケ (2018-11-08):

この人ルミナスライン生む能力あるから短い方が良さがでるのでは?三日月に みたいに

岩垣弥生 (2018-11-08):

沙一さま 読んでくださりありがとうございます。 省みると救いのない物語詩ばかり書いていたので、希望のあるエンディングにしてみました。あとはなるべく難解さを避けて、小説よりも手軽に楽しめる物語詩を意識しました。 愉しく読んでいただけたなら幸いです。 黄泉帰りの話書かれたことがあるんですね。興味あります。 コメントくださり本当に感謝です。

岩垣弥生 (2018-11-09):

社町迅さま 読んでくださりありがとうございます。 愉しく読んでいただけたなら良かったです。 この作品はAパート、Bパート、Cパートに分けることができます。もともと「わたし」は死ぬ予定で、「またあいたいよ」が「ここまでおいで」で、「明日わたしは荼毘に付される」で終わる予定だったのですが、あまりに救いがないので助かる方向にしたらCパートが長くなりました。 余談ですが二回でてくる「言わないけどね」は「からかい上手の高木さん」というアニメのOPテーマです。 Cパートは笑いをとりにいってはいないですが、おかしみを出したかったので、ギャグっぽいという表現は的を射ていると思います。 わたしの気分などに留意せず、思った通りに社町さまの感想を聞かせていただいて結構ですよ。(未熟者なので、酷評されても怒りません) コメントくださり本当に感謝です。

岩垣弥生 (2018-11-09):

オオサカダニケさま 読んでくださりありがとうございます。 確かに本質的には短距離走者なので、短い詩の方が得意です。 ただ、物語詩も書きたい欲求があるので10日間くらいかけて頑張って書きましたが、やっぱり下手ですかね。 ルミナスラインは確かに意識していますが、目的ではなく手段だと思います。 オオサカダニケさまはルミナスライン自体を表現の主題にされているのだとしたら、それも一つの方法だし、そうやって出来た作品は素晴らしいものかもしれませんね。 コメントくださり本当に感謝です。

帆場蔵人 (2018-11-09):

読んでいて心地よい、詩物語ですね。適度な可笑しみもあって、絵本ではないですがイラストをつけて読んでみたいと思いました。最後なんですが、 小突いてやろう、ウン。 だけで終わった方が可笑しみ、はより余韻を残したのかなぁ、と感じました。堪能しました!

岩垣弥生 (2018-11-12):

帆場蔵人さま 読んでくださりありがとうございます。 リズムよく読めるように言葉を紡ぎました。読んでいて心地よいと言っていただき嬉しいです。 余談ですが作中に出てくる「天体嗜好症」 「電気の敵」は稲垣足穂の短編のタイトルです。 堪能した、と言っていただき2時間かけてスマホで打ち込んだ甲斐がありました。 ラストは三通りの終わり方を考えていたのですが、一番まずい締め方をしてしまったかもしれません。スマホでスクロールすると、最後の一行確かにいらないような。 コメント、ご指摘くださり本当に感謝です。

stereotype2085 (2018-11-12):

良いと思います。特に「十六夜」に入るまでが。中盤にあたる恐らく幻覚めいたものの描写が少し改行の仕方や長さの点で俗っぽい言い方をすれば「よれて」いる。この中盤がもっと整理されていれば、最後の病院での出来事もすんなり入ってきて、尚且つ幻覚から覚めた安心感が増したように思う。楽しく読めたことは確かだがやはり中盤の失速感が痛い。

鬱海鬱海 (2018-11-12):

『わたしの孤独と混ざって反応して…ここが終わりでいい…わたしは月と一つになりたい』 ここに感動の中心というかピークがあるように思いました。魂の浮遊を * までに見出しましたが、その浮遊の結末が月であり、それと一体化する。それが終わりでいいっていうのは切実ですね。作中冒頭の2本の売れ残った花と同様に、私たちはどれほどの思いを相手に抱いたとしても、2人なんですね。人間同士だとひとつにはなれないですから、その合一を月に求めるというのはすごく、月並みな言葉で言えばかなしくて、でも描写の美しさはすばらしかったです。 後半はまた日常に帰ってくるわけですが、前半や中盤が詩的によかった分、なんだか小説のような書き方になってしまっているような、全体としてのアンバランスを感じてしまいました。

岩垣弥生 (2018-11-12):

stereotype2085さま 読んでくださりありがとうございます。 この作品はAパート、Bパート、Cパートに分けることができ、Aパートが一番書き慣れた、わたし本来の詩に近いところです。 Bパートに問題があるというご指摘ですが、あまり書いたことのない文体ですので未熟なところがあったと思います。 コメント、アドバイスくださり本当に感謝です。

岩垣弥生 (2018-11-12):

鬱海さま 読んでくださりありがとうございます。 確かに詩としてのピークは月との一体化を望むところにあります。描写が美しいと言っていただき、身にあまる光栄です。 物語詩として普段詩を読まない人にも取っつきやすいように、現実パートは詩情を排して軽さを求めたのですが、一篇の詩としての完成度を考えたなら、生きていくことの不安や葛藤を詩的に綴るべきだったかもしれません。 前半、中盤は詩的に良かったとのこと、とても嬉しいです。 コメントくださり本当に感謝です。

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