ハロー!ビーレビュー。作品、批評文の投稿発表、加えてコメントいつもありがとうございます。現在、8期運営において、月の作品を全て通読した上で、毎月選考も兼ねてこうした形で、優良作品、佳作作品にコメントを寄せて公表させて頂いているのですが、どれも力ある、そして心のこもったポエム、批評文でありまして、そうした作品をこの場に展開することこそ「ポエム・ファースト」、当初掲げていた理念に他なりません。

 しかし8期運営ではこの「ポエム・ファースト」の理念も保ちつつ、加えて謙虚に「皆様と、詩を、批評を、文学を、共に学ばせていただく」姿勢を持ってゆきます。

 それでは一月の最多得票数作品から。続いて優良4作品、佳作4作品を賞します。

【最多得票作品】

 蛇雲   

花澤悠

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12148

 最初に通読して思ったのが、「夜に見えるものの単語ばかり使われている」と思いました。ですが、森、樹木、椰子の実、月などの単語があるため、間違っても太陽が存在しない世界ではなく(光が存在しない、盲目ではない)、ただ単に話者が夜行性だとか、人目に触れるのが苦手、という要素が見えます。

 第一連「森と月が〜浜辺で」では、自身を取り巻く世界の様相を舐め回すように描写しています。この世界の様相、どうも大地のものや地平のものが多いので、話者は低身長もしくは土を這い回っている存在とみなすこともできます。語彙からして、おそらく動いてはいないのでしょう。

 第二連「僕は〜だろう」において、自分と他人の境界線を理解するようになります。『正しい』よりも『違う』が先に来ているため、おそらく話者は正しさに執着するところがあると見受けました。

 第三連「海底と星〜揺蕩っている」では、とにかく遠い存在の言葉が頻出しています。海底と星、宇宙のような、わかりやすい遠さの中で、命や人々といった言葉が一緒に並べられると、話者が心配になります。過去に命を扱う場面で信頼すべき人から裏切りを受けた、とか。

 第四連は第二連の内容を逆転させたリフレインとなっています。第二連のときになかった句読点が追加されることによって、疑念は晴れ、自らの中の信念に沿って動く、決意が芽生えたように読めます(この詩中で句読点が出てくる行はおよそ真実の出来事と思われます)。

 第五連「ときめき〜ぶちまけるよ?」において、まず相手の意志を確認してから『好きなんだ』と云っている、わたしはここが一番の盛り上がりだと感じましたし、ここで話者が他人の気遣いができる優しい存在であることがわかるので、とても良いです。

 第六連「それがおそらく〜無口であっても」、ここはおそらく読んだ方の全員が同じ感想、情景を抱くはずです。なぜならば、第七連「街と月が〜転がる」において、『深夜に生きる、泣く蛇がいて』の後に「切なさ」「夢幻の罪」といった言葉が来るからです。

 これはわたしの推察なのですが、話者は「好きになる対象」を慎重に見定めていて、ようやく手にしようとしたところを、その対象に拒否され、夢幻の罪を転がしてしまった。よく『好き』というワードを検知すると「恋愛のことだな」と思ってしまうホモサピエンスが実在しますが、この詩の場合では別に生物でなくても成立してしまうんですよね。こういった、対象の種族をあえて曖昧にした詩は万人向けであり、読者が自由に代入でき、感情移入できてしまうので、2024年1月の最多投票作品として、もしくはユーザーの選ぶベストとして申し分ないと感じました。

 ところで、蛇といえば、自分の尻尾を咥えて円形を描く『ウロボロス』が存在していますが、死と再生や不老不死といった意味があります。たぶんこの話者、誰かに「ダメだよ」と諭されないと同じことを繰り返すと思います。【Frater Eleayin】

【優良作品】

どこ輪郭

うののさらら

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12239

 言及されている事象が多様で、想像力が自由だ。心の緊張の具合が良いので、詩文においてここちよさを感じさせる。題名だけに一考の余地があるように思われるが、このさきどれだけでも良い詩を書けるようになられるだろうという、成長の予感を感じさせる。【黒髪】

透ける

完備

https://www.breview.org/keijiban/?id=12290

 インターネットの世界、ワイアードに於いて「わたし」はどうなってしまうのか?について、真剣考えなければいけない時期に差し掛かっている。個人的に。まずネット上に「わたし」の存在する、プラット・ホームが多すぎるような気がするので、スマートフォン、デスクトップの断捨離を行って「わたし」の拡大を、ここにいる、確固とした「わたし」に近づけようと試みた。しかし結局のところ、反対に潔癖症のようになってしまって、スマートフォン、デスクトップ周辺機器との、付き合いまで考えると、うん、やっぱり、「わたし」よりもはるかに「わたしたち」という言葉の方が強くなっている昨今だな、と思う。そうして、「わたしたち」という語を念頭に置いたときに、ビーレビューでも、そう、「ウーマン・リブ」の流れというのはあるな、と去年の歳の瀬くらいには考えていたような気がする。そこで、この作品だ。その、過去自分が見た印象的な、それこそ世界を、詩に落とし込もうとするとき、そこに厚みというか、適当な重さを加える為に、もっと過去の世界を持ってきたり、或いはほんの数分前の世界をそこに加えたり。その根底には通奏するイメージが流れているだけなのだけど、過去、もっと過去、そして数分前の「わたし」を定置に置いてゆく感覚。大体、のっけから、林檎の語が入っているけれど、どこまでいっても、林檎は、知恵の実、罪のイメージを負っていて、そこから、二連目、セクシャルな方向へ流れるのですけれど、うん、美しいのはやっぱりラストで、キラーフレーズで収めるところなどは、理知的な書き方で良いのではないかと思いました。【田中教平】

光/ひかり

ハツ

https://www.breview.org/keijiban/?id=12274

 太陽の光は何色っていうか白(?)っぽい透明色だが、プリズムを透過すると虹色になる。虹色になるというか、最初から虹色なのが一枚一枚わかれたのが七色で見えるということ、だそうである。俺は化学のテストを128点中(選択肢問題とかもあったのに)奇跡の0点を取った益荒男なのでくわcことはよくわからないがそういうことなのだ。太陽の光が雨をみていて、そのビジョンが虹なのだ。文系なんてのはそれが分かっていれば充分なのはずなのだ。そんな意気込みを感じる(?)この作品は、吸収氏がコメント欄で言及する通り、文体がすごいな〜って思わせるポイントでもあり、そのジャムを並べるという虹の解体的なイメージ展開とともに、やさしくもどこか不気味な雰囲気のある語り口が魅力です。ポエムとは語りである。そして語りとは騙りである。言葉は全部ウソなんだけど、色んな種類のウソがあって。特にこの作品は現実とひとつだけ層のずらされた、美しくも切ない世界の似絵のようだと思いました。【天才詩人2】

雪国

鯖詰缶太郎

https://www.breview.org/keijiban/?id=12282

 ニーチェの至言を収集した「超訳ニーチェ」なんて本を読むと、ニーチェは「生活をデザインせよ」なんて事を書いている。コロナ禍も明けたんだが、明けていないのだかわからない、インフルも流行しているという。皆さん、気をつけて下さいね。といってコロナ以降の「あたらしい生活」を送ってゆく上でも、またグローバリズムによって、マクドナルドでポテトのSサイズしか提供されない、となると、そして戦争を思えば、SDGsを考慮すれば、私はこの「生活をデザインする」というニーチェの言葉を非常に重く捉えなければならないなぁ、と考えている。その鯖詰缶太郎さんを語ろうとして、どうしてこういう話をしているかというと、失礼ですが、非常に年齢のいっている、きっと男性詩人さんとして「生活をデザインする」上で、詩を書くことに対して、非常に重きを置いてらっしゃるのが素晴らしいというか、まあ、詩を書くという行為は非常に繊細な行為でもあるわけですが、以前にエンタメ作品も書かれていましたけれど、それは「大人」として若い方に愉しんで貰おうと思って書いてらっしゃる、自負、が見受けられて、しかもそれもやらしくない自覚であって、「雪国」というタイトルから、ああ、やっぱり川端康成の「雪国」で私は、按摩さんの登場するシーンから、これどーなってんだ?って、なったんですけれど、やっぱり「雪国」読み直そうかな、と思うわけじゃないですか。「どいつも こいつも 激安気取りやがって」の部分から、これは町田康さん、となって、ええと、町田康さんの最新刊は何だ?となるじゃないですか。憎いですね。作品として非常にわかりやすくありながら、どこかひねってあるというのがやっぱり、運営内から熱い支持を得た理由の一つには当たるのではないでしょうか。【田中教平】

【佳作作品】

生まれたての力なき詩

那須茄子

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12242

 いままでB-REVIEWでは見たことのないタイプの詩。少女というのは、いろんな芸術において主題となるが、特に現代日本で、よく扱われる存在。その救いへの道をつけている所が素晴らしいのである。「埋め尽くされた夢の端に 少女の夢をおいて元の世界に下りよう」と、脱少女宣言。全体に、洗練されている。【黒髪】

悲観と諦観、そして時間への葛藤の末、永遠を希求する

Manacuba

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12256

 最初に通読した時、理知的な切り口を持って、自身の感情を整理しようとしているなという印象を持ちました。この詩中の「優生学」についてですが、この部分についてわたし自身も思う部分があって。反出生主義ではなく優生学というチョイスに、まだ「諦め切ってはいない」と読めますし(本当に諦めているのであれば反出生主義という言葉を使うはずです)、まだこの話者……作者さんの魂は詩を読む限り熱く燃えているよ、と言いたいところです。

 そして、時間についてですが、実は時間というものは人間が勝手に作り出したようなものなので、そこまで気にしなくても良いんじゃないかと思ったりしています(何かに集中していれば、瞬く間に一日が終わっています)。

 最終部分の「私たちが永遠の到来を待つのなら、一人一人が存在を運命づけられたその場所で、来るべきその時のために、時間による制約の形態について考えるべきなのだ。」ここ、すごく良いです。ただ、ここだけを抜き出すよりも、できれば全体を読んでほしい、そんな詩でした。

 余談ですが、公開日時が2024年1月21日。何の話かと思われる人も多いと思うのですが、実はこの前日、冥王星が水瓶座に移ったんですね。水瓶座は太陽が弱めに出やすいので誰しもが変わっていて個性的に映る(褒められない場合もありますが、褒め言葉として受け取ってください)のですが、じっくり観察して得た知識を世の中に役立てようとして、自身の理論に従って確立しようとする星座となっております。ロジカルな面もありますが、水瓶座は風の要素を持っていて、風の要素は「熱と湿」でできている、要するにホットでウェットな方々なのです。作者さんがどの星座かは正直わからないのですが、世界的にこのような大きな変化があったので、もちろんB-REVIEW上の詩作スタイルも変わってくる気がします。「人をたった12種類で分けるな」という声が聞こえますが、ホロスコープで検索してみて、ご自身のデータを作ってみてください。白色よりもバリエーションが豊富です。【Frater Eleayin】

悲しみまでの距離

墨野みどり

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12217

 最初に通読したところ、関係性を示す言葉が(「あなた」「私」「おまえ」)印象深く見受けられ、また、一行分けの書き方からも、どことなく堰き止めていた感情がどうしようもなく溢れ出る様子があります。

 最終行で「あなた」が「おまえ」に変わってしまうのは、なにか不可逆な別れ方をしてしまった、別の世界へ行ってしまったような無力感を、呼び方を変えることでどうにか発散しようとしているのかもしれません。

 このユーザーさんがどの入力デバイスを用いているか不明なのですが、タイピングの音が明らかに聞こえてくるように感じています。つまりそれだけ、詩に籠ったなにかが明白に存在しているが、それを読み解くには、蟹の甲羅をきれいに剥がして味噌を得るような、繊細な作業の下でしか見出せないと思っています。直感ですが、このような詩は手書きの方がより鮮明に感情が乗ると確信しています。【Frater Eleayin】

写真

azul2010

https://www.breview.org/keijiban/?id=12271

 他者といっしょに過ごすとき、それは顕著なのだけれど、人間というのは、そのふるまいをとても「編集」している。例えば、ナーバスになっており、他者にその思いをつたえる前に深く溜め息を吐いて「そのさぁ・・・」なんて身体的にも言語的にも何かしら「編集」を加えている。非常に生理的なものでもありながら、時に大胆に、仕事の休憩時間に手の上でライターを巧みにくるっと、回転させて笑う、お気に入りの帽子だと被って、何度も手でしっかり被れているか、似合っているか、確認してそれを表現する。

 この作品は、個人的なことの記述ではあるけれど、詩作品として発表する事は前提で、前述した人のちょっとした動きというもので読ませる。

 というか、その、動き、所作といったもの以外極力排す形で、後半のブリッジでは人間の複雑な感情をピークまで持ってゆくように書いているようだ。

 その、作中の主体、話者が限りなく、ふるまい、という点で、生理的な、その編集的な動きをしつつ、その筆致にあっても、しっかり後半でピークに達するように書かれているので短いテキストでありつつも、好感を持ちました。【田中教平】

【キラーフレーズ賞】

数式で説明される世界が

 数式など抜きに 眼の前に立ち現れる不思議に打たれていた

完備「透ける」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12290

なんてトウロウノオノかしら

湖湖「夢見るなら怒濤の雨垂れも」

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12288

埋め尽くされた夢の端に 

少女の夢をおいて元の世界に下りよう

那須茄子「生まれたての力なき詩」

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12242

 あとがきに雑感などを添えます。一月は完備さんが集中されて書いて投稿して下さった月であり、受賞された「透ける」とは別に、「nonequilibrium」も素晴らしいという声が上がりました。(https://www.breview.org/keijiban/?id=12135

 早期に投稿された作品として、takoyoさん「愛よりもやさしく」が良いという声が挙がりました。(https://www.breview.org/keijiban/?id=12230

 このあとがき、雑感を書いているのは田中なのですが、私は、万太郎さん「平和イデオロギー」(https://www.breview.org/keijiban/?id=12153)が面白いと思い

又、地震の影響もありまして

 おなかすいたさん、「能登半島地震からよせて」、「能登半島から」の「から」という言葉に深く考え込まざるを得ませんでした。

https://www.breview.org/keijiban/?id=12177

 他にも、1.5Aさん、「ジョン・レノンは女だった」、タイトルを覚えてしまいますね。15歳さんがまた投稿して下さり、「見えないもの」という良作を残して下さいました。А・O・Iさん、5or6.(ゴロ)さん、鈴鳴さん。あこさんの「しょっぱいお握り」も良かった。まさに百花繚乱。代表の目指すところの、「まるで動植物園のような空間」が現出された、素晴らしい月であったと思います。