「2022年N市内の駅北口にある書店」
わたしは部下のA子を連れて歴史書の調査のために訪れていた。
数段ある棚に眼をやれば、土地柄なのか、古い書物は多く眼につくが、その多くは遺跡関連のものが多かった。
~係長!ちょっとおもしろい本めっけ~
A子が眼鏡を掛け直しながら本を開いたままやってきた。
~見て!見てください。「文学をなめす」 っていうタイトルですよ。
? へえ~
わたしは本を差し出すA子の言われるまま手に取ってみた。
先ず巻頭から最後に記されてある作者名を見てみた。
「文学をなめす」著者鳥貝源治郎。
うん、?聞いたこともない名前だった。
~鳥貝って、係長、聞いたこともないですよね。これって寿司ネタのレシピでも載ってるのかしら?
A子は笑いながら冗談半分で言った。
~鳥貝って、その人が貝なら芥川は烏賊かしら。夏目漱石はさしずめ深海魚ね。
じゃあ蛸は誰だい? A子は少し間を空けて
~森鴎外じゃないかしら?
わたしは鼻をならして笑った。
*
2年前、地中海に沿うギリシャのレストランを訪ねてみた記憶が急によみがえる。
ごつごつした岩だらけの海岸の上のほうにテラスはあった。
見渡す限り深い青緑色が空の青さをぐっと薄めて、
季節はまだ春先だというのに、眩しいばかりに太陽は輝いていた。
~バシッ!バシッ!グチャ~
その音は200メートル先からも鳴り響いてきた。
テラスから見下ろせば、波しぶきがあがる岩場の上、
体格のいい年増の女性が何かを叩きつけている音だった。
花柄の薄いワンピースが、腕を振り上げて下ろす度に大きなお尻が持ち上がる。
逞しく筋張りのある白い太い腿に、やや弛みのある力強い腕。
ボタンを外した胸元から、大きく割れた二つの白い山がゆらゆらと見えてくる。
~バシッバシッ!年増の女はその振り下ろす手を止めない。
わたしは興味を引かれて近づいてみた。
彼女はすぐにわたしに気がついて振り返った。
~おや、何処から来たのかい? ここのレストランに食事に来たんだね。ここの蛸は美味いよ。もうちょっとお待ちよ。すぐに食べさせてあげるから~
彼女は額からほとばしる汗を拭うと、そう言ってしばらく手を休めた。
見れば大きな蛸だった。
もっとも蛸は平らな岩場に打ちつけられてぐにゃりと伸びきっていた。
干した掛け布団を折りたたんだような頭。
吸盤のある太い腕は一本途中からちぎれていた。
~もう30分くらいは叩きつけているよ。もう少しだね。やわらかくやわらかく、
そう言いながら蛸を振り上げて下ろす度に白い巨大も揺れる。
叩きつけられてはゴムのように撓る蛸を尻目に、実はこの女性の胸元に眼は奪われていたのだった。
~やあ!ミセスアニータ。
そこへ地元の人間らしき少年が笑顔でやって来た。
少年は上半身裸で、色濃く日焼けしていた。
この年増の女の名前はアニータというらしい。
~ほら、ボクも捕まえてきたよ。
日焼けした少年は、何やら白い大きな物体を手にしていた。
~ボクも叩いてやる。えい!えい!
そう言いながら歯を食いしばり、アニータの如くその物体を岩場に叩きつけた。
~おまえ、あら~ダメだよ、それは、烏賊じゃないか。そんなに叩きつけたらいまに墨を吐くよう。
岩場が烏賊の吐き出す墨で真っ黒に染まる。
少年が烏賊を振り上げて思いきり打ちつけた。そのとき、ピュー。
たちまち少年は烏賊の墨を全身に浴びて墨絵になってしまった。
~ほらほら、ヒャハハ、嫌だわこの子ったら、まるでアフリカからやってきたみたいじゃないか。ヒャハハ~
アニータの笑う声は止まらない。
叩きつけられて烏賊は岩場から海に転げ落ちた。少年も一緒に笑い合いすぐさま岩場から海に飛び込んだ。
深い青緑の海が真っ黒に染まっていく。
少年の姿はそこで途絶えてしまった。
わたしも一緒に笑った。
~もういいわね。見て!こんなにやわらかく伸びて、アンタのアソコはどうよ。
そう言うとこの年増の女性の眼がニヤリと微笑んだ。
彼女の背中越しに蛸を眺めていた、わたしの股をグッと掴んできた。
ああ、たまらない。
少年の姿は深い海の中に消えたままだ。
わたしは彼女の豊かな胸を後ろから掴むと、その大きなお尻に下半身を密着させた。
アニータは前屈み少し背中を丸め、蛸のお尻を左右に振ってきた。
その青い眼を細めて囁いた。~ねえ、あとでタップリ飲むわよ。 と言った。
真っ黒に染まる岩場。そして、
海は水墨画の襖絵のように、滲んでいた。
*
~係長!ちょっとこれ見てください。
A子が持ってきたのは何かの資料だった。
わたしはデスクにゆったりと腰掛けて、昨日買い求めた「文学のなめし」をぱらぱらと読み流していた最中だった。
~ちょっとこれ酷すぎますよね。いくら歴史的に貴重な資料だって、ただのモリカケ蕎麦のレシピですよ。
開いて差し出してきた頁を見ると、そこには真っ黒に塗りつぶされた箇所ばかりだった。
山のように豊かな
作品データ
コメント数 : 14
P V 数 : 568.7
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作成日時 2025-12-20
コメント日時 2025-12-22
#現代詩
#ビーレビ杯不参加
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| 項目 | 全期間(2026/01/14現在) | 投稿後10日間 |
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| 可読性 | 0 | 0 |
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| 技巧 | 0 | 0 |
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| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
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2026/01/14 22時25分07秒現在
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あら~書いてるとスクロールできないから、跳んでるね。何処の箇所だろ。笑
0夢落ちでもないので詩というより小説ですかね。 小説の才能はあるのでしょうとそのむかしiと 名乗る人に言われたことを思い出しましたけど、 時が過ぎるのは早いものです。
0らどみさん、コメントありがとう。 もともと外面を知的に標榜する詩は書けないのですが、 年齢とともにそのことを強く意識するようになりました。 何を書いてもエロゲバですかね。 デフォルメされたイメージの中には 常にフェリーニの映画に見られる異質な祭りへの憧れと反抗精神が渦巻いています。 もうエロゲバしか残されていない。それで勝負します。 これからは象徴的にそのことを磨いていきたい。 そう思います。
0黒い贈り物を確かに受け取りました。 手元にある黒いものを どう料理しようかと考えるだけで 下の口から垂れる粘る液状の思考が 止まらないです。
0白い影法師さん、コメントありがとう。 推敲不足でしたね。 もう少し読み返していたら、もっとおもしろい表現を載せられたのに、と。 あたまにあった文言も書き忘れてしまいましたし、最後はミステイク。 まあ、どのみち僕の書き物が選別の対象に成るとはおもわないので、 手を休めてしまいました。 今度はもう少しいい詩を書きたい。
1メルモsアラガイsさん返信ありがとうです。 完成に近い未完成な好物(面白い文)ほど 何より思考を刺激すると感じています。 メルモsアラガイsさんが思い描く作品と 似ても似つかない作品へと形を成そうとしているかもですが そこは読み手の我儘と寛大な気持ちで許して下さい。 蛸にも烏賊にも成れない者の戯言でした。
0>モリカケ蕎麦のレシピですよ。 開いて差し出してきた頁を見ると、そこには真っ黒に塗りつぶされた箇所ばかりだった。 風刺ですかね。テンションが高い文章だったので、ぽんぽんと読めました。
0「フェリーニの映画に見られる異質な祭りへの憧れ」は 読み返してみると解りました。エロスや暴力については 北野武監督のどうしょもない生き方をこれでもかと出す 迫力みたいのは今回のどこかはわかりませんでしたけど、 このへんはたぶんだけどtakoyoさんのほうがイカれてて 凄みがありますね。ああ、ごめんなさい、単なる読者の 褒め言葉です。それでは、今後とも宜しくお願いします。
0そうですね。再度コメントありがとう。
0ハツさん、コメントありがとうございます。 はじめから終わりまで風刺です。
0らどみさん、takoyo2氏の目線は肥溜めから眺めているぶんぶん蠅だよ。下劣でしょうがない。 大方そうだ。 なんとかならないものか、な、と思っていたのだが、 こればっかりはどうしようもないですね。 なにしろ本人が持ち前の劣等感を押し出しては、 それを個性として売り物にしようとしている。 北野の中のたけし? 確かに反動的なところは似ているかも知れないが、 あたまのキレるぶん、奴のほうが質がわるいと思うね。
0面白かったです。
0類くん、ありがとうございます。
0あ、いけねえ。 奴って言うのは北野中のたけしのことじゃないんだ。もちろんtakoyo2詩人のことね。
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