北緯33度から東経139度の地点で、
華氏68度の外気の中。
雲は途絶えることなく
はるか異国へ、
牢獄から解放された
僕の歓喜の声を、
運んでいく。
教室の窓から覗く、
運動場の笑い顔や
憎まれ口を叩いた仲間の顔も
閉じられた瞼の奥で
薄れていく。
手に粉をまとわりつかせるだけの、
チョークで黒板に書いた落書きは、
二度とは見たくならない代物。
ノートをぎっしり埋めた、
ゲームブックのヒントも、
今ではペテンにも似た
空回りの魔法の言葉だ。
人生の道筋は教えてくれない、
だが幼い心に灯りをともした、
ただそれだけの産物。
銃口を僕のこめかみにあてる化け物は、
十代の頃の自分自身で
世界は意外と美しい、だなんて
イカれたことを平気でのたまう、
今、この一瞬の僕のことが、
たいそう気に入らないらしい。
憎しみの対象が
恋慕の拠り所となり
愛し慈しんだものが
ガラクタと化していく。
許せないことばかりだが
赦しに満ちた世界へと
変化していく。
僕の手元で、僕の掌の上で
何かもが。
桜色に染まる行燈が並ぶ、
川のほとりを
首から恍惚ぶら下げて、
ただ粛々と歩いていく。
全てがトリックで
化かしあいのゲームの出来事だったとしても、
案外悪くない、興味をそそる生涯だった。
銀色に染めた髪が瞬く間に、
白髪の混じる初老の髪に戻っていく。
僕は空砲を一発、空へ撃ち鳴らすと
過去の亡霊とさよならして
褐色に染まり、
ビリビリに破れてしまっていた
地図をもう一度開いてみた。
一切の雲が、僕から遠ざかっていく。
川は青く淀みなく流れ
空は澄みきり遠いあの日のままだ
これほど自由に
どこへでも行けるなんて
子供のころには、
知らなかった。
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 771.7
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-12-08
コメント日時 2025-12-13
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/14現在) |
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:771.7
2025/12/14 18時38分42秒現在
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上手いですね。 しかも、一連の物語みたいに、すらすらと流れるように読めてしまう。 旅行先は、冒頭の2行で、外国かな?と思いました。感覚的には、中国とか台湾の、列車の旅。 自分を縛っている思い出たちからも抜け出して、自由を謳歌しているのが、素敵。 詩も、進行するにつれ、どんどん自由になっていると思いました。 >これほど自由に >どこへでも行けるなんて >子供のころには、 >知らなかった。 このラストも、旅の余韻と相まって印象的です。
0レモンさん、コメントありがとうございます。この詩における旅は、場所よりもむしろ時間の旅であるように思います。 幼い少年期から老年期へと、変わりゆく過程の旅。それが上手く描けたかなと思います。ラスト周辺からこの詩は出来上がったので、僕自身、最終連はとても気に入っています。嬉しいです。ありがとう。
1内面の機微と俯瞰する視点の遠近法が描く一幅の絵画を見たような世界観に惹き込まれました。
0榮翆さん、コメントありがとう。一枚の絵画のような詩というのは、僕の理想系の一つなのでとても嬉しい。時間芸術で空間芸術を体感したように感じてくれるのがとてもありがたい。僕の詩の理想系の一つとして、言葉のフォルム、スペースの使い方、配置、総じて視覚的に美しく優れているというポイントがあるのだけど、この詩はかなりクリアしていると思う。空間芸術、絵画などを見た時、その美しさに魅入られ、なおその後細部の意味に気づく。そういう詩は理想の一つだ。詩は時間芸術でありながら、空間芸術たりうる瞬間がある、数少ない文学の一つ。これからもそういう作品を作って行きたい。見た目、初読で魅了され、あとで深い意味に気づいていく、そんな詩、作品を。
0十代の痛みと自己否定を背負いながらも、過去を撃ち放ち再び地図を広げる瞬間の解放感が鮮烈でした。 憎しみと赦しが交錯し、世界の美しさをようやく掴み直す過程が静かに胸を揺らす詩です。
0樒さん、コメントありがとうございます。ちょっと名前を存じ上げなかったので、作品を拝見したのですが、智慧の実の方でしたね。ちょっと注目というか、この方は他の人の作品で、どういうものを評価するのだろう、と興味もあったので嬉しいです。 十代の痛みや感覚、感受性って背負って生きていくのがとても大変なものなんですよね。よもすれば年を重ねていく自分に危害をも加えうる。そういった10代あるいは20代前半までかな、痛烈な感性と現在の自分が和解し、そして世界が赦しに満ちていく。この詩はそういう詩になっています。読解、とても嬉しかったです。
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