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洗濯物曰く、コーヒーカップ曰く
冬の寒さは窓の隙間からやってきて 部屋の粒子をおとなしくさせていく 洗濯物のすだれがいくつも釣り下がった窓際は 眠る身体を見下ろしている ――お前の祈りは酔っぱらいの寝言とそう変わらないよ。ざらついた時間の砂に埋もれていく自分が許せないんだ。俺は親切で言ってるんだぜ。窓の外の静けさとおまえの部屋の乱雑さとはまったく何の関係もないのさ。ただ、沈黙が窓の外からやってきて、お前の足を冷たくするだけだ。尻を蹴飛ばされたって気づかない奴は気づかないだろうね。目が覚めれば冷たい朝がお前におはようを言うだろう。 洗濯物を月が照らせば 机の上の飲みかけのコーヒーカップに魔法がかかる 今日がくたびれた経帷子を纏えば 布団の重みが僕を石にするだろう ――お前が今日洗わなかったカップは、明日もそのまま机の上にあるのさ。今日の忘れ物が明日には昨日の負債になって、お前の魂を取り立てに来るだろう。今日の明日が昨日になる頃には、昨日のお前は首の落ちたメデュウサのように過去に横たわるのさ。お前は死ぬまで祈り続ける。机の上のコーヒーカップを忘れるためにね。 昨日の洗濯物は明日も昨日の洗濯物で 僕だけが今日の僕のままで 月が用済みになるころ 夜が真っ白な――悲しい――光に追い出され 朝が来る そうあるべきだから
作成日時 2021-01-11
コメント日時 2021-01-11
洗濯物曰く、コーヒーカップ曰く ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 419.6
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 3
項目 | 全期間(2021/04/17現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 3 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
洗濯物とコーヒーカップからの声を聴くことができるこの詩の語り手は、多分、とても心の優しい人なんだと思います。そうでなければ、洗濯物を取り込まず、コーヒーカップを洗わない、自身の至らなさを省察したり、そうした省察を洗濯物やコーヒーカップの声として意識できないでしょうから。 >夜が真っ白な――悲しい――光に追い出され >朝が来る >そうあるべきだから この詩の語り手の「祈り」に反するのでしょうか、「――悲しい――」と形容された「朝」は、「そうあるべき」形でやってきて、詩の語り手を「夜」とともにこの世界から追い出していくようにも見られますね。そういう、「詩の語り手が自分自身を『そうあるべきでない人』だと思っている」感じの孤独が、この冬の寒さとともに、身に染むように感じられました。
0換喩の遣い方が巧いと感じました。片付いていない洗濯物やコーヒーカップに、疎かになっている生活が窺えます。 ──お前の祈りは酔っぱらいの寝言とそう変わらないよ。これらがタイトル通りに洗濯物やコーヒーカップに語らせているとしたら、喋らないはずのモノに空想的に喋らせている、モノをみつめる主体の存在が浮かびあがってきます。モノをとおして鏡のなかの自分自身をみつめるように、自分語りに依らずに感傷的な人物像が描けていると思いました。 メデュウサのように、という直喩、ここだけ大袈裟に神話的になってしまっているのが惜しかったです。洗濯物、コーヒーカップ、そうした生活感あるイメージを主にしている作品ですから、せめて現実生活と神話をリンクさせる伏線があれば肯けますが、雰囲気を崩してしまうような違和感がありました。
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