彼女は独りであり未熟であるだろう
彼女は現代史の講義に出席するだろう
彼女はクラス討論に参加するだろう
彼女は太宰治の全集を買うだろう
彼女は「朝日ジャーナル」を読むだろう
彼女はアジビラや立看を見るだろう
彼女は北京放送を聞くだろう
彼女はインターナショナルを歌うだろう
彼女は生協の食堂で友達と話すだろう
彼女は四回生の追い出しコンパに行くだろう
彼女はショートピースを喫ってフラフラになるだろう
彼女はレッドの角瓶を一杯半飲み嘔吐するだろう
彼女は試験をボイコットするだろう
彼女はカミソリで左手の人差し指を切るだろう
彼女はFMでベートーベンの「英雄」を聞くだろう
彼女は図書館で本を借りるだろう
彼女は小田実や高橋和巳を読むだろう
彼女は「第二の性」を読むだろう
彼女はベ平連に共感するだろう
彼女は「現代詩手帖」の石原吉郎の文に惹かれるだろう
彼女は伊達眼鏡をかけるだろう
彼女は自分の手で自分の首を絞めてみるだろう
彼女はメーデーに参加するだろう
彼女は授業料の支払いを拒否するだろう
彼女はホテルでウェイトレスのアルバイトを始めるだろう
彼女は四六テーブルの客を好きになるだろう
彼女はパーマ屋へ行き髪をカットしてもらうだろう
彼女は風呂屋へ行くだろう
彼女はサイクリングをするだろう
彼女はパチンコで百円スるだろう
彼女は病院へ行き診察を受けるだろう
彼女は私服や機動隊につきまとわれるだろう
彼女はウェブスターの辞書と学生百科事典を売るだろう
彼女は「資本論」を買うだろう
彼女はカミソリで切った指をマッチの火であぶるだろう
彼女は電気ポットのコードを首に巻き左右に引っ張るだろう
彼女は小突かれ蹴られ殴られるだろう
彼女はヘルメットをもぎ取られ武器を奪われるだろう
彼女は「建造物破壊及び器物破損」で逮捕されるだろう
彼女はパトカーで署に連行されるだろう
彼女は身体検査をされるだろう
彼女は父母と決裂するだろう
彼女は恋人と訣別するだろう
彼女はアルバイトを馘首されるだろう
彼女は大都会をあてどなくさ迷い歩くだろう
彼女は電話する相手すらいないだろう
彼女は宛名のない手紙を書くだろう
彼女は煙草を何十本も灰にするだろう
彼女はホワイトのオンザロックで酔い潰れるだろう
彼女は化粧もせず身なりにもかまわなくなるだろう
彼女は五十センチ四方の檻の中の犬を見るだろう
彼女は血文字で「私」と書くだろう
彼女は首に巻いたコードを思いきり強く引っ張るだろう
彼女は睡眠薬を二十錠飲むだろう
彼女は深夜に土砂降りの雨音を聞くだろう
彼女は独りであり未熟であるだろう
彼女は未明に轢死体として発見されるだろう(享年二十歳)
作品データ
コメント数 : 9
P V 数 : 780.2
お気に入り数: 1
投票数 : 4
ポイント数 : 127
作成日時 2025-08-01
コメント日時 2025-08-07
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
| 叙情性 | 40 | 40 |
| 前衛性 | 15 | 15 |
| 可読性 | 10 | 10 |
| エンタメ | 7 | 7 |
| 技巧 | 20 | 20 |
| 音韻 | 20 | 20 |
| 構成 | 15 | 15 |
| 総合ポイント | 127 | 127 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 40 | 40 |
| 前衛性 | 15 | 15 |
| 可読性 | 10 | 10 |
| エンタメ | 7 | 7 |
| 技巧 | 20 | 20 |
| 音韻 | 20 | 20 |
| 構成 | 15 | 15 |
| 総合 | 127 | 127 |
閲覧指数:780.2
2025/12/05 16時10分52秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
言葉や表現がシンプルで淡々とした文体が読みやすく感じました。 文を追っていくごとに純粋だった「彼女」が堕ちていく様子がじわじわと伝わってきてビビりました(゜o゜; これは怖い!怖すぎる!(褒め言葉)
0明らかに高野悦子ですね。僕も、読みふけりました。彼女が可愛そうで仕方がありません。 僕も、ひもで首を絞めてみましたよ。軟弱な力と意志で。何かがおかしい、何かだけは正しい。 「人間が、何のために生きてきたと思うか!愛もしたことなか、恋もしたことなか。水俣病がさせた」 良心に従って、貪瞋痴を排せねばなりません。そのためには、他者と向き合って話し合うこと、 自分が過激な発言を他者にぶつけることを、避ける弱さが合ってはいけません。その上で、穏やかな 批判へと、人格を陶冶していくのが、人の道だと思います。
0すみません、上のコメントの引用文を間違えました。 「人間が何のために生きてきた」→「人間が何のために生まれてきた」と差し替えて読んでください。
0涙がこぼれる作品でした。 最後は >彼女は血文字で「私」と書くだろう(享年二十歳) だともっとグッときたかもしれません。死んで享年だと、それまで続いていた意外性にブレーキをかけてしまうような気がします >彼女は独りであり未熟であるだろう 最初と最後に出てきますが、それでもいいとおもうのだけど、例えば >彼女は孤独であり未熟であるだろう というように、それまで色々なことがあって独りであることを悲しいと思うようになった変化があると最後の寂寥感に襲われていく様を引き締めるような気もするけど いや、このままがあえていいのかもしれませんね 心を打たれました
コメント、有り難うございます。 独りの女性が身を持ち崩し、次第に自滅してゆく……。 いかにも田代さん好みのテーマだと思っていたのですが、案の定ドンピシャだったみたいですね。 「怖すぎる」とまで言ってもらえて本望です。
0コメント、有り難うございます。 ズバリ、高野悦子です。 「二十歳の原点」は何度読み返したことでしょう。 ちなみに、「天使のはらわた」というタイトルは石井隆の劇画からです。
1コメント、有り難うございます。 ごめんなさい! ラスト1行はコレだと最初から決定していたものですから。 (もちろん提案して頂いたエンディングでもぜんぜん問題はないのですが) ポイントまでつけてくださり恐縮です。 励みになります!
0こんばんは、 図書館に行ったり、伊達眼鏡をかけたり、風呂屋へ行ったり、一見平穏を生きながら >>彼女はカミソリで左手の人差し指を切るだろう >>彼女は自分の手で自分の首を絞めてみるだろう >>彼女はカミソリで切った指をマッチの火であぶるだろう >>彼女は電気ポットのコードを首に巻き左右に引っ張るだろう と何かが次から次へと悪化していく気配を感じさせる。 極めつけは、 >>彼女は父母と決裂するだろう >>彼女は恋人と訣別するだろう 繋がりが希薄になり、 >>彼女は電話する相手すらいないだろう >>彼女は宛名のない手紙を書くだろう ここなんて、現代だけの孤立に留まらず徐々にひとりきりになって行く過程がしっかり描写されているなと感じて、辛い気持ちが致します。 >>彼女は血文字で「私」と書くだろう ここで助けが入れば、と願ってしまいますが… >>彼女は独りであり未熟であるだろう 始まりと終わりに二度繰り返されるこのフレーズに、色々やるせなさを感じます。介入の難しさを詩で表してくださったなと思いました。
0コメント、有り難うございます。 丁寧な分析と感想に感謝です。 これは60年代末の学生運動の話で、学生運動のことは前半意識的に伏せてあります。 そして、一行だけさりげなく「病院で診察を受けた」とあるのは、彼女は何か持病を持っているのでしょう。 そんなこんなで、最終的に自死に至るわけですが、ご指摘のフレーズを前後に挿入することで効果を高めてみました。 (上手くいっていれば良いのですが……)
1