あなたは病を
人質に取れると
ライターに火を点け
冷たい瞳を
恥の中へ
ゆっくり
煙草の烟に燻らせた。
笑って。
笑って。涙を
献上
します
微笑みは風
涙は賄賂
泣け
泣け
–
親指を羽撃く先に
すべてのわたしを
撃ち拭いて
何かを期待している
なにもかも
かも
しれないが
–
あなたが
わたしの墓に
落ちるのを期待する
妬くなら能動的に
焼け─灰はいらない
腸はわたしが接吻
–く、ち、づ、け
数珠が揺れる音が空に舞った
囁き────
点滴の匂いがした
モルヒネ零点二グラム
あなたがわたしと
同じ
染色体を持つ
乳房四つを
分かち合い
動の静
モティーフ
くだらない
透明な糸降り注ぐ、夢の途中で
………………………………
あなたはレースの手袋を嵌め
ウェディング・ベルの
鐘の音を聴くのだろう
祝福を霧雨に変える
〈わかってるくせに〉
一秒の静止も待たず
崖から飛び降りる。
血肉、白いカーテンが搖れるたび
とうめいに戀う
眼差しの奥のチュール
裸のあしあと
黒い革靴の吐息
カッ、カツ、、カツ、、、
カツ、、、、
静かに遠去かる。
二つの耳
ロ──────
─ハイ
ヒールの音に泣くだろう。
理屈を捨てたわたしは豚の瞳より惨め
…………………………だった
破顔でいる
背顔でいる
かたつむりになろうと
した夏の
汗ばむ釦
朝露に、
「見せて」
と声がして
わたしぱっと折り紙を緩め
あなたにバ─ラした
「ア、リ、ガ、ト、ウ」
蝉の悲鳴が鳩尾の影へ堕ちた
………………………………
あしをひらくのと何が違うんでしょう
………………………………………
心を開くのって?
寒気が空を駆けていくのを
男子生徒が階段から見つめてる。
真の殺意に、
遭遇した、
気がした
………………………………
刈られていく羊の毛
雲はいつから白かったの
あなたの息はいつから暗いの
………………………………
身震いの夏は、
一、分かもしれない
二、秒かもしれない
六月十三日未明零時零分。
這いつくばりながら、
麻のシャツを少しだけ捲り
腹の赤い肉を
指で掬って
左へ─右へジャムの勾配
–頬擦り した
ジッパー、クロッチ、ブレーカー
あなたが
落としたんでしょう
鼻水こそわたしを抱いてくれる
…………………………
側の、絆創膏、
あきれた
ぺら
この香りは何だ
天使の悪巧み────────
………………………………
すべての愛の
原油を撃ち拭く
傷くて透明で
青くて、惨めで、
針の先端のように
わたしの指先を
几帳面に刺激する
–
わたしかもしれない
あなたを撃つのは
撃ち拭かれるのは
わたしかもしれない
親指が微睡みに眠る─────
「もう一度熱く
あなたの犬歯が欲しい」
そうたとえば
臙脂のリボンで眼球を
きつくしばって
午後のプレーをわすれたの?
処置室での
〈ああ
何もわかり
あえない
病気だった〉
………………………………
白い毛布をまいてあげましょう、と
看護婦さんが遠くで笑っている。
あなたにとても似ていた
撃たれた背中を
嬰児のように丸めて
背中の深淵へ
–針を動かして
あわがひとつ、ふたつ息を失くしたまま
沈んでいくのを
側の葉脈が
みつめていた
炎が呼吸に煽られてゆくスロウ
じゃ、
振り返らないで────────
…………………………
いつか
買い物の度に
手をひくの
夕映えに
「見せて」
バラ─した折り紙
〈いちばん
恥めに
あの蕾へ
親指で触れたのが
わたし
そんな顔をして〉
書いて─────
中で、できるだけ中で
冷たい銀が横たわる。
消毒が死に絶える綿の海
………………………………
蜂の巣がこちらを見つめている
羽の音を素手で閉じ込めた
赤い蜜、
とろり
もう溶かさなくていい───────
歯
これはなんの香りだ?
カッ、カツ、、カツ、、、
コツン…
カツ、カツ、、カツ、、、
コツ… 。
鋏が手を離れ
椅子から落下して行くように
締める必要のない首が
だらんと動く。右に左に顔を動かす。
紺色のロープをぎぃと
ギィと
あなたの手、湿ってる
………………………………
あなたの耳、湿ってる
手汗 唾液 よ、だ、レ
………………………………全ぶ
涙みたいだったでしょう?
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 582.3
お気に入り数: 2
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-05-09
コメント日時 2025-05-10
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
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閲覧指数:582.3
2025/12/05 21時14分20秒現在
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力作ですね。冒頭からの数行で惹きつけられていきます。 この行間にこれくらい長さのある作品だと朗読で聞いてみたい。 もちろん朗読にも力量は問われるでしょう。 立ち位置が読めてくるのはわたしだけでしょうか?病室の白い空虚なベッドに横たわる語り手が見えてくるような…印象。 声にして皆さんに読まれてほしいですね。どこに出しても評価の変わらない素晴らしい作品だと思いました。
1ありがとうございます。 ふふん、少し鼻高々です。 (失礼) 嬉しく思います。 冗長覚悟でやってるので、 通じる部分がすこしでもあれば 非常に幸福です。
1そうですね。 モダンバレエに男二人が延々と異質なポーズのみを淡々と決めてゆくものがあるらしいのですが、 その印象を持ちました。 異質で異様。 ですが目が離せない。 これが女性絡みのダンスではダメなのです。 それほど柔らかく肉感を感じさせるように絡みつく感じではない。 男二人のダンサーの、鍛えぬかれた鋼のような筋肉の美しさがある。 もちろん詩中には、エロスを感じさせる表現が多々あるのですが、 不思議に清潔です。 タイトルは「わたしたちが病を愛する」。 (は)ではなく(が)。 ここには「選択」という強い意志を感じます。 なんといいますか、 押し殺した声から情が漏れてしまうような緊迫感とでも言えばよいのでしょうか、 そんな削ぎ落としたシャープなエロスは新感覚です。 そして、これだけの長さを書ききる技量と、これだけの長さを読んでも長いとかんじさせない技量は、見事です。 尊敬いたします。 ありがとうございます。
1ありがとうございます。 清潔えろすは 僕が目指してきたものの、 一種かもしれません。 わたしから病を愛していく という心意気はあったでしょう。 熱いコメント、励みになります。
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