日記 - B-REVIEW

日記

皆さんに我が家の恥を晒すようで恥ずかしいが、他に申し上げるところもなく、ここでお伝えをしなくては我が心持がどうしても治まらないので、恥を忍んでご報告する。私小説「ノラや」で、猫好き界隈で有名な内田百閒先生。彼は列車が好きだ。ある日、ふと大阪に行こうと思い立った。用事は勿論無い。金もあいにく持ち合わせが無い。しかし用事の無い汽車旅に使う金だから、貸す方も気が楽だろうと考える。つまり浪費をする訳だから、困窮しているわけではないのだと。返す当てがあるのだから、浪費ができるのだろうということだ。確か新聞社からその紀行文を書いて発表するからということで、前借に前借を重ねているところに更に前借し、彼は勇躍旅に出る。先生は一等車が好きだ。二等車とそれに乗る人の顔つきを嫌い、用事の無い旅に出るからには是非、一等で行きたいと言う。帰りは当然「帰る」という目的があるのだから三等で良いと言う。つまり、物を買う時、金を使う時は「一番いいやつ」がいい。買わなくてはならない時、金を使わなくてはいけない時は、「一番安いやつ」でもいい、そういうことかと我が同居人、兼ねて筆頭使用人は曲解し、常々それを念仏の様に唱えながら家を出る。勿論、彼は度を越した浪費家なので「一番いいやつ」がそうそう入手できるわけもなく、しばしば我が家にはゴミのような周囲の人からしたらなんの価値もない「こだわりの品」が運び込まれてくる。先日以来、彼は自分が入手した1970年代のエレキギターには、やはり同年代のアンプリファイアが必要だと騒いでいた。いつの時代もアナログ回路が最高な訳で、真空管の増幅器の音と言うのはそれは美しいらしい。そんなに、アナログが良いならアコースティックや弦楽器にすれば良さそうなものなのに、どうしても電気回路で何かしたいらしい。阿呆である。しかし勿論、金は左程に無い訳で何十万円もするデカい箱に支出をする余裕なぞ奴にある訳は無い、私としても場所を占有する物を、この陋屋にこれ以上運び込まれるのは全く閉口だ。そしたら奴さん、じゃあ三等車だということで、1970年代の日本製激安パチモン通販コンデンサーアンプを買ってきやがった。トグルスイッチやトーンとボリュームしかつまみが無いのがいいとか、ランプが渋いとか、ダセえ、音がしょぼくていいとか、やはり70年代は安くても造りが丁寧だとか、日曜、昼日中から近隣に笑われているのも知らず、色々やっている。こうして私の家にはゴミが増え、我が憩いのスペースが漸減して行く。それはもう、砂が波で洗われ自然と浜を去って行く様に止め処なく、我が老いと同じ様にしかし確実に進んで行くのである。

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作品データ

コメント数　： 7
Ｐ　Ｖ　数　： 641.1
お気に入り数： 0
投票数　　　： 3
ポイント数　： 0

作成日時 2025-02-12
コメント日時 2025-03-08

#現代詩 #縦書き