I
どの、骨で
鳥をつくらうか。
どの、骨で
鳥をつくらうか。
手棒てんぼうの、骨で
鳥をつくらう。
その、指は
翼となる。
その、甲は
胸となる。
鳥の、姿に似せて
骨を繋ぐ。
白い、骨で
鳥をこしらへる。
白い、骨の
鳥ができあがる。
その、骨は
飛ばない。
石の、やうに
じつとしてゐる。
石の、やうに
じつとしてゐる。
首の、ない
鳥だ。
Ⅱ
どの、骨で
蛇をつくらうか。
どの、骨で
蛇をつくらうか。
傴僂せむしの、骨で
蛇をつくらう。
その、椎骨は
背骨となる。
どの、椎骨も
背骨となる。
蛇の、姿に似せて
骨を繋ぐ。
白い、骨で
蛇をこしらへる。
白い、骨の
蛇ができあがる。
その、骨は
這はない。
石の、やうに
じつとしてゐる。
石の、やうに
じつとしてゐる。
首の、ない
蛇だ。
Ⅲ
どの、骨で
魚をつくらうか。
どの、骨で
魚をつくらうか。
蝦足えびあしの、骨で
魚をつくらう。
その、踝は
背鰭となる。
その、足指は
尾鰭となる。
魚の、姿に似せて
骨を繋ぐ。
白い、骨で
魚をこしらへる。
白い、骨の
魚ができあがる。
その、骨は
泳がない。
石の、やうに
じつとしてゐる。
石の、やうに
じつとしてゐる。
首の、ない
魚だ。
Ⅳ
どの、骨で
神殿をつくらうか。
どの、骨で
神殿をつくらうか。
骨無ほねなしの、骨で
神殿をつくらう。
その、肋骨あばらぼねは
屋根となる。
その、椎骨は
柱となる。
神殿の、形に似せて
骨を繋ぐ。
白い、骨で
神殿をこしらへる。
白い、骨の
神殿ができあがる。
この、神殿は
不具のもの。
この、神殿は
不具の者たちのもの。
来こよ、来たれ
不具の骨たちよ。
纏つた、肉を
引き剥がし。
縺れた、血管ちくだを
引きちぎり。
ここに、来て
objetとなるがよい。
ここに、来て
objetとなるがよい。
V
それらは、分骨された
片端かたわの骨鎖ほねぐさり。
その、生誕は
呪ひ。
その、死は
祝福。
その、屍骨しかばねは
埋葬されず。
糞の、門の外に
棄てられる。
或は、生きたまま
火にくべられる。
片端かたわの骨鎖ほねぐさり、
骨格畸形のobjet。
骨を、割き
骨を砕く。
骨を、接ぎ
骨を繋ぐ。
白い、骨で
objetをこしらへる。
白い、骨の
objetができあがる。
その、骨は
動かない。
なにを、する
こともない。
なにを、する
こともない。
神に、祈る
こともない。
神に、祈る
こともない。
石の、やうに
じつとしてゐる。
石の、やうに
じつとしてゐる。
首の、ない
objetだ。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1216.6
お気に入り数: 2
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-02-02
コメント日時 2025-02-07
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:1216.6
2025/12/05 17時36分55秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
今朝方、私家版の『陽の埋葬』のページを捲っていて、そのなかに挟み込まれていた用紙に、作品の執筆時期が第二詩集の『The Wasteless Land.』の執筆時期より前に作成されたものであるとの事が書かれていて、すこし驚いてしまいました。『陽の埋葬』を手にしたのはこの『骨。』という作品が「陽の埋葬」の作品群のなかに入り込んでいたさまざまなイメージが同時に想起されたからです。ある作品が別の記憶に繋がり、連鎖的にさまざまな感覚を呼び起こすという事があるのですね。 『骨。』という作品については、最小限の言葉で造形的に刻む鋭利な爪痕のような鋭さを残しつつ、「白」という色彩や的確な余白によりイメージが詩的に浄化されているような印象を受けました。
0お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0落語の小話のようなよくできた起承転結と、皮肉や風刺の効いた詩世界。 老成した高みから愚かなものを見下ろしているような視点の中に、内なる高貴なものを感じました。 欠落を抱えながらそれを埋めることもなく、埋めようとする気もない。その怠惰こそが、一番の欠落ではないか? と。 石にないものが水気と思えば、欠落の自覚を促す成長に欠かせないものは、水気や色気の様なものではないか? 現代における煤けた色気を封じられた社会の中で、この内容は強烈な怒りの様なものさえ感じました。
0万太郎さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0音もなく、動きもない。 静かなものですね。 「骨」っていうくらいだから、 音があってもいいのに、 そういう描写がないことに、なにか意図があるようです。 「首がない」=「意思がない」 それは、決して決定することのない存在で、 動かず、音もなく、ただそこにある。 「首のない鳥」「首のない蛇」「首のない魚」 もまた、意思や主体性を持たず、ただ物として在る。 しかし、それは単なる「無」ではなく、 むしろ意図的に形づくられたもの。 骨をつなぎ、 鳥や蛇や魚の姿の似姿をつくる。 しかし、それらは飛ばず、這わず、泳がない。 「首がない」から、「意思がない」。 そして意思がないものは、動かない。 けれども、それは「死」を象徴しているとも 思われない。 石のようにじっとしているが、 完全な無ではなく、形として残り続ける。 これは、命を剥奪された後に残る 「形の亡霊」である。 objet。 最終連で「objet」が、言葉としてはっきりと現れる。 単なる死のメタファーではなく、 「意味の失われた形」そのものを主題にしていることが強調される。 それは祈ることすらしない。 神の前でさえ、沈黙を守る。 では、この「首のないものたち」は、世界のどこへ向かうのだろうかといえば、 動かず、音もなく、意志もなく、 それでも形を変え続けること、でしょうか。 「進化」ではなく「変容」そのものが、 無限に繰り返されるかのように。 ユートピア的な、何か。
0岡本太郎的世界観というかな。
0ちょっとその感想はズルいと思いましたが笑 すごくいい感想ですね。
0おまるたろうさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0