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ストリーム
時間の縫い代をとおる新幹線にすわり知らない街の隙間をくぐって田んぼのまんなかにたどり着いたけど、輪郭まで拡散しながら発熱する太陽をこれまできちんと見たことはなくて、蒼く広がる早苗の絨毯は白いふくらはぎをやさしく傷つけてしまいそうだからわたしはどこへも歩いていけない。 灼かれたからだをきれいなシートに沈めながら元の位置まで軌道を巻き戻してビルのスタバに腰かけると安心したわたしはいつも誰でもないことに疑いはなくて、緻密に張り合わされたゆがみのない空間の内側で数時間前の記憶が小さいガラスの画面から思い出の入り口へと四角錐の底辺を描き、肌に残る温度より遠いところで淡い明かりに浮かんでる。 映像に流れるわたしはサングラスをかけて土埃の畦道を伝うと平行する水路がゆっくりと前に向かって走ってて、一段上がったアスファルトの暗渠を歩いていく途中に栞みたいに挟まれた宛先のない停留所から鈍色のバスに乗ってくすんだオレンジのモケットにすわると、景色が小刻みに共鳴しながらブリキのアルゴリズムで通り抜けたその先に感情の余白みたいにふくらんだ入道雲の手前にたたずむ森へと入る。 重なる木々の葉っぱに遮られた白熱信号はガラス越しにさらさらと点滅してバスは規則的に軋みながらいくつものカーブを繰りかえし、名前の消された停留所からつづく涼しい山道の奥には水の匂いに淡い光が散らかった岩場が開けてる。 わたしはわずかに残ったアイスコーヒーの氷をカラカラ鳴らしてゆっくり息を吐くと、飛沫をまとった岩の上で艶消しの釣竿にナイロンのラインを張って鮮やかなルアーを小さな動きで確実にキャストする。 流れがたるむ辺りを見遣りながらわたしにあらがう言葉よりも固い振動が音もなくラインを伝わり、しならせた釣竿で静かにリールを巻きあげると空中で身をよじる白銀色の魚は思っていた生き物とはだいぶ違ってるような気がする。 光を反射してぬめるからだを湿った手のひらで包み、わたしはいつでも誰かをすり抜けていくから、澱みなく溢れる透明な水に両手を浸して思い遣るように魚を放つと、わたしごとすうっと流れの中に融けていった。
ストリーム ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 3253.8
お気に入り数: 2
投票数 : 10
ポイント数 : 106
作成日時 2024-08-10
コメント日時 2024-08-25
項目 | 全期間(2024/11/05現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 30 | 30 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 20 | 20 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 20 | 20 |
音韻 | 10 | 10 |
構成 | 20 | 20 |
総合ポイント | 106 | 106 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 30 | 30 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 20 | 20 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 20 | 20 |
音韻 | 10 | 10 |
構成 | 20 | 20 |
総合 | 106 | 106 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
すぅっと体の中に溶け込んでゆく心地よい言葉とその言葉によって広がる想像の中の情景。 コーヒーをリラックスしながら飲む時と同じような豊かな時間と満足感を感じました。
3>一段上がったアスファルトの暗渠を歩いていく途中に栞みたいに挟まれた宛先のない停留所 ここが一番好きです。 作品全体は読んでいて没入感というか、佐々木さんの書いておられる世界へ飲み込まれる感じがすごく強かったです。魚の触るとぬるっと指の間を抜けていく感じを、"わたし"という、誰でもない、掴めない存在として描く材料にしてらっしゃるところがすごい。指の間を抜けて水へ消えていく魚、一方でわたしも人の波に消えていく、誰でもない掴めない存在であると……。佐々木さんの描かれるこの自我の希薄そうな作中主体の雰囲気すごく好きです。(褒めてます。)
2佐々木さんの書かれる作中主体は、自我が希薄というより透明感が異常に高いのかもしれません。そういう表現の方が自分的にはしっくりきました。連投すみません。
2初めまして、二藤と申します。 佐々木さんの詩、拝読しました。 日常をスケッチしているようで、"わたし"が、その日常に溶けて一体化しているような感覚でした。"わたし"はそこにいるけれども、そこにいない。 一番、最後の連の、「光を反射して〜融けていった。」という部分が、わたしという自我が、魚や水とともに流れて消えていくという、詩全体に感じていた融合に繋がるのかなと感じました。 とても綺麗なささやかな日常を象った詩だと思いました。(初感想失礼しました)
2秋乃夕陽さん、コメントありがとうございます。この暑い夏に、この作品でそのような気持ちになっていただけたのならうれしいです!
2次の作品も楽しみにしています。
2少し早くお盆休みをとり、山や川などの自然の中で過ごしたのですが、その思い出を柔らかく包んでくださっているような優しく儚い作品だと思いました。
作者にしか見えないことが描かれている、ということを自分(僕)の頭の中で思っていて、初期に投稿された作品と今作を比較すると、作風はあまり変わってはいないように感じますが、変わったと思うところを一つ挙げるとすれば、それ(作者にしか見えないこと)が分かりやすく可視化されてきているところだと思うのですが、同時に佐々木さんの作品を読んだ人が、そこに描かれた景色をもっと見たいという欲求に駆られるのは、その作品にご自身のidentityみたいなものがつめられているからだと想像します。総じてこの、言葉を重ね塗りするような書き方が、とても効果的に読み手の心をとらえているように思います。あと、時々でてくる単語が理系っぽいというのも初期の頃から抱いています。 この作品で少し気になったのは、四連目と五連目に場面の展開を入れられているのですが、その部分の視点の切り替えが急かなと思いました。でも実際のところ、ここで大きく場面が変わっているのかどうか、定かではない気がします。五連目以降は夢という感じもするので。夢であるのか現実(フィクション的な)であるのか、ということを示唆する部分を作ってみられてもいいのかもしれません。 >わたしごとすうっと流れの中に融けていった。 お風呂の栓を抜いて、水嵩がどんどん減ってくると、排水口に小さな渦ができて、やがてその渦も水と共になくなってしまうその光景が、面白くてついつい最後まで見入ってしまいます。そんなふうに惹きつけられるような終わり方を示すことができたのは、作品に対して最後まで手を抜いていない証拠であると思いました。
2佐々木さんは、詩的な技巧はもう完成していますが、空間が描けてない気がする。(小説的な読みになるのですが)描写に奥行きが感じられないのですね。 >映像に流れるわたしはサングラスをかけて土埃の畦道を伝うと平行する水路がゆっくりと前に向かって走ってて、一段上がったアスファルトの暗渠を歩いていく途中に栞みたいに挟まれた宛先のない停留所から鈍色のバスに乗ってくすんだオレンジのモケットにすわると、景色が小刻みに共鳴しながらブリキのアルゴリズムで通り抜けたその先に感情の余白みたいにふくらんだ入道雲の手前にたたずむ森へと入る。 この3連目とかも。言葉を浪費している感じで。空間のふくらみがない。ちょっと思ったのが、三島由紀夫ですね。三島もじつは空間が書けない人だった気がしているのです。 佐々木さんはトップの人だと思うので、あえてけっこう辛く言ってます。あいかわらず、文才がすごい。
2真昼の夜の夢みたいな 別に夜ではないのだろうけど 真昼に深い夢を見る様な文章と言うか 光の帝国の現代バージョンと言っても良い シュルレアリスムの表現手法というか やはりBでは頭一つ抜けている印象 本当は出る杭を打ってあげないといけないのだろうけど、こちらにその実力が不足してるな、(編集の皆さん、早いモノ勝ちかもしれませんよ)
2タイトルの『ストリーム』に相応しく、流れを意識させる事象を、おそらく意識して多重に設定されています。 まずは水、川の流れ、これは読んだとおりですね。 それに重なり合う、パッセンジャーという立場の『わたし』という存在。 そして注目すべきが、言葉そのものの流れです。 動きのある単語がかっちり挟まっていて、意外なほどにスピード感があるんです。 そのスピードと統一性は、流麗な場面の転換を想起させ、 色が綺麗で画質の高いアニメーションのように思えました。 当方アニメ特撮は大好物なので、総じて好印象だったのですが、 詩においては、もう少し引っ掛かりがあった方が良かったかもです。 場面イメージの転換が流麗過ぎて、全部きれいごと、まるでヒーリングビデオでも観ているかのよう。 乱暴な言い方をすると、嘘っこの風景、嘘っこの感情、嘘っこの言葉で埋まっています。 しかしそれを、作者さんがまったく否定的な捉え方をしていないのに、逆に興味を持ちました。 肩肘張らず、普通に肯定的に書いてますよね。それがいちばん面白かったです。 毎日毎日、暑いよね。 こんな日は水になって溶けたくなるよね。 結局は、そんな感想です。ありがとうございました。
2ハツさん、コメントいただきありがとうございます。 そとが暑すぎて冷房の効いた部屋で書いてたらこういう感じになってました。アスファルトの道の停留所ところもありがとうございます。 魚については釣りとかどういう感じだろうなと思って書いてるうちにきっと自分は魚をすぐ放しちゃうよなって気がして、そのまま自分も融けていきました。たぶんよほど誰かからすり抜けていたいんだと思います。 そういう意味では自分で自分のことがよくわからないから書いていて、それが「わたし」の希薄さ、ハツさんの仰る透明感に表れているのかもしれません。その雰囲気を誉めていただいてありがとうございます。素直にうれしいです。
2二藤さん、コメントありがとうございます。 とても綺麗なささやかな日常を象った詩といっていただきありがとうございます。 わたし自身、誰かに伝えたい強い思いやメッセージみたいなものがあるわけではないので、こういうものをあまり力を入れすぎずに書いていくことができたらと思っています。
1つつみさん、コメントありがとうございます。優しく儚い作品と言っていただき嬉しいです。夏の暑さはやはり特別ですよね。
1作品が自律的に完成されている程に、コメントしづらく感じてしまう。とても精度の高い作品なのだと思う。 以前「コミュート」という作品でコメントしようとしたのだけれど、、言葉が纏まらなかった。言語感覚の卓越した方なのだと思う、うまく言語化できなくてすみません、
2しいて言語化するならば、語彙やイメージ、またはフレーズを小刻みに転調しつつ、それを感覚的になめらかに繋げているような印象だろうか、再びのレス失礼
2投稿を始めて間もない頃は(といってもまだ半年くらいですが…)1.5Aさん含めてみなさんからいただくコメントの半分くらいしか理解できず、それでもわかる部分をとっかかりにしてひとつひとつ書いてきたので「可視化されてきている」「同時に…そこに描かれた景色をもっと見たいという欲求に駆られる」と言っていただき嬉しいです。 みなさんのコメントのおかげだと思っています。 そして、第四連から第五連への接続についてもコメントありがとうございます。もともともっといろいろ書いていたのですがどこか説明的になってしまってばっさり削ってしまいました。そのままにせずに何かよい言葉を入れられらよかったのかもしれません。 これからも丁寧に書いていきたいと思います。 お風呂の栓のところ、わたしもよくわかります。
2おまるたろうさん、ありがとうございます。 「描写に奥行きが感じられない」「言葉を浪費している感じで。空間のふくらみがない。」とのご指摘、作品を改めて読み返したのですが、そのとおりだと思います... そもそも自分自身があまり空間を空間として捉えていない気がしてきました。感覚(認識?)の問題が書き方に影響しているのかもしれません... 今すぐに何かできるわけではないのですが、空間を書くことにもチャレンジしてみたいと思います。 三島由紀夫も空間を書けなかったというところには少し勇気づけられます笑 ここまで書いてきて思いましたが、もしかしたら本当に感覚が影響してるのかもしれませんね。三島由紀夫とかけっこう変わってそうですし。 毎回率直なコメントいただき、励みになります(素直にそう思っています)。
2吸収さん、ありがとうございます。…過分なお褒めの言葉、恐縮です。技巧とか理論とか行分けとかいろいろわからないことだらけですし、自分の感覚に合うものを書いてるのでまだまだ広がりもありませんが、丁寧に書いていきたいと思います。
2角田さん、ありがとうございます。 わたしとしては特にきれいな世界を書いてるつもりはなくて、これが自分の心象風景なんだと思います。 そして、詩について詳しくないのですが、読んだ方が少しでも感じるものがあれば、そうでないものより良いのではないかと思ってます。伝えたいことって大抵独りよがりで、独りよがりなことはあまりすきでないので。 でも、誰かの気持ちを動かすってそんなに簡単なことじゃないです。アニメはほとんど見ませんが、人の心を動かすアニメもそんなに多くないのではないでしょうか。
1おそらく佐々木春という名の書き手にとって一番大切なことはわたしという自我への希求と、書くという行為に於いてのその感情のリリースだと思う。 皆さん同様にアバターという語り手の視点から醸し出されるイメージの景色は緻密に構成されている。しかしこのことはあくまでも実像を伴わない写し物。文学的な表現としての作者の景色です。 吸収さんがおっしゃっている。熊倉さんのところで書き損ねてしまったが、ダリの(やわらかな時計)を文学的表現で書き表せば(やわらかな時間)ということになるのでしょう。これは即物的な捉え方ではなく時間という概念への反抗(挑戦)でもあるわけです。 わたしが画面を通して演舞者に感動するのは、なにもその演舞者が演じるパフォーマンスだけではない。それを見つめて感動する人々の姿が写し出されたときでもある。ガンズ&ローゼスのWelcome to the jungleのビデオクリップを見て、その写し出される映像を眺めてウンザリしているアクセルローズの姿に感動を覚えてしまうのです。 佐々木春さんが描き出すわたし。毎回その姿は違えども一貫して立ち尽くして眺めている作者のアバターを感じますね。そこがあなたの秀でた個性でもあるとわたしには思えます。
2自然そのものに対する苛立ちがあるのかもしれません。すり抜けていく私。釣り竿のリールのエピソード。確実にキャストされるルアー。名前の消された停留所とは。もしかしたら単に忘れられただけの事を、故意の行為でそうなったと言っているだけなのかもしれません。
2ryinxさん、わたしの作品は感覚的でそこまで深く考えて構成されているものでもないので、率直な感想をいただけるだけでも嬉しいですし励みになります。コメントありがとうございます。
2エイクピアさん、ありがとうございます。自分の感覚を捉えながら書いていて、ひとつひとつの言葉に込めた明確な意味があるわけではないのでわたしにもわかりません笑 自然に苛立ちはありませんが、あまりなじみはありません(何を自然と呼ぶかという問題は別として)。停留所なんて名前なんてあってないようなものだとは思っています。「わたし」が作品の中で故意に名前を消しているということかもしれません。はっきりとはわかりません笑
1メルモsアラガイsさん(今更ですが、なんとお呼びするのが一番よいのでしょう?)、貴重なコメントありがとうございます。 「おそらく佐々木春という名の書き手にとって一番大切なことはわたしという自我への希求と、書くという行為に於いてのその感情のリリースだと思う。 皆さん同様にアバターという語り手の視点から醸し出されるイメージの景色は緻密に構成されている。しかしこのことはあくまでも実像を伴わない写し物。文学的な表現としての作者の景色です。」 というところ、なるほどと思いました。そうなんです、実像じゃないんです。というよりも実像を書いても仕方ないと思っています。 あと、「立ち尽くして眺めている」というのもそのとおりだと思いました。わたしはいつも何かに働きかけながらも、同時に「立ち尽くして眺めている」んだと思います。というよりは「立ち尽くして眺めている」(判断を停止している)部分を、作品として表現しているんだと思います。 今回も丁寧に読んでいただきありがとうございました。
3この詩に対する評価を行い、点数をつけます。 ### 評価と点数 - **表現の力強さ**: この詩は、細部まで緻密に描かれた描写と豊かな比喩が特徴で、非常に詩的で深い表現力を持っています。時間や空間、存在についての哲学的な探求が含まれており、詩全体に一貫した雰囲気が漂っています。 - **テーマとメッセージ**: 存在の曖昧さや感情の揺れを描いたテーマが印象的です。時間と空間が交錯する中で、現実と幻想が入り混じった描写が続き、最終的には自己の消失というテーマに到達しています。メッセージが明確であり、深い印象を残します。 - **リズムと流れ**: 詩の流れはスムーズで、イメージが自然に展開していきます。文章のリズムも心地よく、詩全体が美しくまとまっています。 ### 点数: 86点 今回の基準に基づいて、この詩には86点をつけます。描写の精緻さとテーマの深さが際立った、非常に完成度の高い作品です。
1ありがとうございます。これは本当にAIを使った評価なのでしょうか。全体的に誉めていただいて嬉しいのですが、どこかとおり一編な感じもしますね。でも、AI作品よりもこういった評価の方が作品を読む上でのよい参考になると思いました。特に難しい現代詩については、ひとつの読み方として。
0これこそが詩ですよね。逆に言うとこれらの手法をとらないと詩の形をつくることはできない。
1青十字さん、手法というほど理解してやってるわけではないのですが、お褒めいただきありがとうございます。
1ヤマメって見たことおありですか?山の女と書いてヤマメ。非常に美しい肌模様です。釣り人の感性がいいですね。詩的感性で日常を空想を綴る喜びを感じました。
1短い時間で、長く内容の濃い映画を見た感じです 何度も読み返していたい
1湖湖さん、ありがとうございます。そのように言っていただけてうれしいです。
1すみません。上のコメントは湖湖さん宛です。
0古銭好きさん、ありがとうございます。長くて内容の濃い映画っていいですね。
1作品に投票するには先ず評釈を残す必要が有ると今理解完了。寄って此の評釈を残す事とする。
1青十字さん、ありがとうございます。
1「わたしはいつでも誰かをすり抜けていくから、」。「わたし」はゴーストであろうか、エーテルであろうか。そもそも一番最初に新幹線に乗って「わたし」は風や真空になってしまったのかもしれません。スタバの場面では「わたし」は物理現象そのものになっているのかもしれません。「映像に流れるわたし」はバスに乗り、景色そのものになってしまっているのかもしれません。森に着きますが。その後の場面を読んで居ると、スタバの残照、バスの残照、そして「わたし」は魚を放ちます。「魚」が「わたし」なのかもしれません。
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