別枠表示
フィラデルフィアの夜に 62
フィラデルフィアの夜に、光が輝きます。 街々は莫大なエネルギーを投入して装飾を輝かせ、この世のすべてをまるで煌めかせているかのようです。 そんな寒い夜の片隅に、一人うずくまっています。 誰も気づかれず、たとえ触れてもいないものと扱われる存在でした。 好かれるわけでも、嫌われるわけでもなく。 見えないものとして。 街の光の中であっても。 その男はこの世にあって気にも留められないままです。 飢え。渇き。寒さ。絶望。 そんな言葉が軽く思える状況の中、ただ座り込んでいるだけでした。 無限に思える人々が行きかっているのに。 ずっと無気力に見ている地面。 そこに何かがあります。 街の光を浴びている人々には見えない、光を目に捕えました。 手を伸ばす。 なんだ。 一片のビニールの破片が、風に逆らって進んでいる。 摘まみ上げた。 その破片が酷く暴れ、指から落ちる。 どこに落ちたか。見渡すと。 歩く人々の足元。見もしない空間。 そこには無数の輝く光が、進んでいる。 一方向へ。 ビニール、金属片、プラスティック。 光を反射させる、破片。 それらが、気づかれることなく進んでいく。 男はポケットをまさぐる。 ゴミばかり出るポケットから、アルミ箔を取り出す。 転がしてみるも、ただ転がるのみ。 いや、何かが素早く飛びついている。 歩み出した。 男はもう一つアルミ箔を取り出し、その光と共に歩き始める。 人が走るより遅く、歩くよりは早く。 光は進む。 男を引き連れ。 街灯りの雑踏から物陰へ。 男と共に。 暗渠へ入る。 男を友に。 そして、漆黒へ。 反射して光るはずの破片たちが、闇の中で光り続けている。 真っ黒な狭い湿った空間を、男は腹ばいになって進んでいる。 どこからともなく集まった光の破片が集まり、光の大河となって、その中を男は泳いでいく。 広い空間に出た。 輝く光にあふれた世界に。 壁も床も、男の体さえも。 きらめ輝いている。 膨大な光は、それらの破片を蟻のように細い針金が持ち上げ、掲げているのを見せつける。 金属、プラスティック、ビニール、アルミ箔。 どこにも、どこからも光は差し込んでなんかいないのに。 それらが、光を放っている。 そして、一斉に。 わっ、と歓声を上げるかのように。 光が、天へ昇っていったのです。 青い空が、見えました。 男の目に、ようやく太陽の光が差し込んできたのです。 どれくらい、深い光が差し込んでこない下水の底にいたのでしょう。 男はずっとあの光の洪水を思い起こしています。 太陽の光もましてや街の光も及ばない、あのきらきらの光を。 指に挟んでいるアルミ箔だけは、事実だと伝えているように思えました。
ログインしてコメントを書く
フィラデルフィアの夜に 62 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 54.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-12-17
コメント日時 2025-12-17
| 項目 | 全期間(2025/12/18現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文

