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星の海
漕ぎ続けた舟が辿り着いた処を 楽園にしようと約束をした 故郷も悪いところではなかった 時々人が怨恨で殺し合ったり 貧しさから奪い合いを始めた 「時々」の中から産まれた血筋が 俺達だったというだけのことだ 見たことのない花が咲いていた 聞いたことのない鳥の声がした 空の広さでさえ知らないものだった 名付けられても所有されてもいない そこは眩く輝く白の大地だった 辿り着くまでに何人が死んだかもう 俺には数えられなかった ここで生きていこうと約束した筈の女も ここで生きていこうと笑っていた筈の男も もはや過去から立ち戻ることはなかった いつまでも老いずに記憶の中で生きる もしかすると本当は彼らこそ楽園に 着いたのではないかという気がしていたが 俺には彼らと同じ処に行くことはできなかった 美しい化け物が隣に来て 穏やかな目で俺を見ていた 食われるのだろう、と思った 優しく草を食む獣のように 死んで何かになるのだ 一抹の覚悟だけを携えて 俺は逃げなかった、何も怖くない 悲しくて涙が出た 死の恐怖を感じれば 絶望を忘れられるかと期待していたのに 化け物は俺のおでこを舐めた ゆっくりと尾を振り 何かを鳴いた たぶん言語なのだろう、そう聞こえた 他にもそれと同じ姿の獣が出てきて 初めて見る という風に俺達はお互いに興味津々だった 戯れにまぶたに手を伸ばすと 化け物達はふざけて頭を垂れた 笑った、と俺は思った 常々俺は風が吹く日を好んだ 舟が帆を張るから 翼が飛翔するから 雲が流れるから 水が波打つから それと同じものを知っている 俺が化け物なのか それらが化け物なのか もう血の臭いしかしない体が 仲間を見付けた喜びで震えた 辿り着いた処を楽園にしようと思った 男は言った 死のうと思った時だ 人が本当に生きるのは死ぬことを覚悟した時だ 女は言った いつでも帰ってきて 待ってるから 気を付けて 俺はひとりぼっちだった 夜星を見上げながら 適当に死んだ誰かの名前を付けた そうしていれば 腐った自分の血を忘れることも 腐った自分の過去を忘れることもないだろう そんな気がしたから 辿り着いた処を楽園にしようと約束をした
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星の海 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 557.6
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-11-10
コメント日時 2025-11-11
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


この詩は、贖罪の詩なのかな?と思いました。 タイトルが、「楽園」でなく「星の海」だからです。 過去も自分のことも忘れたくない、忘れちゃいけない、というのは、 とても辛いのではないかな?と思います。 それほどまでに、絶望が深いということなのでしょう。 裏を返せば、「男」と「女」を、 とても愛してたのではないかな?と、ふと思いました。
0一緒に幸せになろうと誓った人達が、 周りでどんどん死んでいくのに、 これから自分は生きて幸せになる努力をしなければならないなんて状況で、 楽園に着いて良かった、俺って最高に運が良かったんだ! と喜んだりはしないですよ。 本当に悲しかったと思いますが、これから「仲間」と幸せになっていく強さがあって欲しいです。 彼は死んでいった人達のことを家族だと思っているんじゃないかなあ。 過去に地獄を作った原因が、自分達の中にあることを忘れたくない。 だから、タイトルは星の海なんです。
1「星の海」 ~辿り着いた処を楽園にしようと約束した。 読み終える前から、 感傷的な背景に、浪漫主義的な憧れが読み取れてくる雰囲気が伝わってきます。 星の海。死んだ人間の魂が星になる。 ギリシャ神話にも描かれている古来からある思想ですね。 浪漫主義的な背景のわりには呼称は俺。 なので硬質な文体になります。 構成的にも、よく書かれてある。 化け物、化け物、と美しくない表現だな。 妖怪とか怪物とか使い分けれないのか? とは思いもするが、 しかし呼称や文体がこうなればそれも有りかと諦める。 女性的な語りならば、ここはギリシャ神話に出てくる化け物の名称ですな。笑 よく書けている、 のですが、終わり ~辿り着いた処を楽園にしようと約束した。 これをもう一度もってきたのでは余韻は薄れた。 〆としてもってくるのならば、 ~辿り着いた 或いは、~約束した。 既に充分伝わっているので、空白感に置かれたほうが語りとしては余韻が残ります。
0・死んだ人間の魂が星になるという空想ではなく、彼らとの航海を忘れないように意図的に星に名前を付けている ・ギリシャ神話に出てくる、文献を元にしてそこから発想する、という教養が彼にはない ・辿り着いたところが再び凄惨な事件で地獄と化さないように、何度も自分達の過去を思い出し省みるための最後の「死者との約束」 ・ロマン主義的なものを感じるのは俺と「化け物としての未知の彼ら」の邂逅の場面で、あれは写実的に描くなら殺し合っていた ・「俺」にとって迫害と負の連鎖から逃れる為の死の航海は覆しようのない現実で、センチメンタルとは無縁の世界なのだが、深刻さが伝わらず芝居がかって受け止められている気がする 細かく補説するとこんな所です ご講評ありがとうございます!
0贖罪ではありません。 彼が周りの人を守れなかったと自責の念に駆られることはあると思いますが、 その責任はそれぞれに自分自身が負うべきものだったからです。 誰かの屍を乗り越えて生きていることを罪だと思うようなセンチメンタリズムは彼らにはないということです。 舟に乗った人々は、誰かが、もしかすると全員が死ぬかもしれない覚悟で、 それでも未来に希望を抱いて新天地を目指し発ったのです。 決して、不幸な旅路ではなかったと思いますよ。
1最初、レクイエムと書いて、贖罪に変えたのです。 >死の恐怖を感じれば >絶望を忘れられるかと期待していたのに とあるので、 なぜ、絶望したのか?を考えたときに、 自分だけ生き残ってしまった罪悪感かな?と思いました。
0↑ 201さん、きみの言ってること自体が既にセンチメンタリズムだよ。 幸か不幸かなんて関係ない。 ~辿り着いた処を楽園にしようと約束した。 センチメンタルが働かなければこんな情動は起きることもない。 きみの考えはまだ子供のようだ。 という感想を持ちました。
0家族に対する鎮魂歌でも、葬送曲でもないですね。 記憶の中で生き続けている、と作中俺は振り返っているので。 家族と同じ処に行きたいという死後の世界への望景、 「俺」というキャラクターの、現実の人生への絶望、 人として極限状態で起こるであろう生への衝動に最後の救いを求めていたのに、 死に瀕しても恐怖すら感じない、と知って泣いているのです。 生きることがもはや自分の手を離れて、ただ運命に生かされているということに気付いた。 見下ろしても、見上げても、星しか見えない夜を、彼は寂しいと思わないでしょう。
1なるほど。納得しました。 ありがとうございます。
0子供というか、もう大人になれない大人という感じですかね。(笑) たぶん詳しく話していただければ分かると思うんですけど、 この辺りにします。 ありがとうございます。
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