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16番線から4番線
隣の御婦人は ソリティアをしている 小さな勝負の果てに カードの色が すこしずつ夢に溶け 眠りの直前の手つきが いつも美しい 全国版図柄入りナンバープレートの 軽自動車は運転が下手だと思う 偏見だと解っていながら 私も別の偏見で生きていて 人の目を借りないと その形がわからない 咳をする人を マスクの老人が睨む 信号が青に変わる音は 呼吸のように無関心だ 窓の外で 風景が入れ替わる いつもと同じように このカーブでは 運転手がハンドルを ゆっくりと2回転回す 私はいつも いちばん後ろに座る 理由はいくつかあって いろんな人を見たいとか マックの匂いをたどって まだ見ぬ袋の主を探すとか 何人がスマホを見ているか数えたりして スマホを見ていない人は 眠っているか 外を見ている バスには内側にも窓がある 誰が気づいているのかわからないけど 私はまだ見たことがない 窓際の人が次のバス停で 降りたいと言い出せずとも 通路側の人は 何となく気づいていて 少し腰を浮かせる 降車ボタンを押そうとして 先に押された人が それでももう一度、長めに押す 音が重なって、消える ――ふと昨夜の娘とのやりとりを思い出す 「中間テスト20位以内なら3,000円」 結果 21位 約束は軽いルールのようでいて 感情を区切る線になる 「わー残念!でも頑張ったね!」 「いやいやいや 21位だよ?!これはもう20位以内でいいでしょ?!」 「いやいや 違うでしょ」 「じゃあせめて2,500円!」 「…いや、違うよね。」 反省という言葉の中に 敗北と優しさが同居している 次は、迷わずにボタンを押すんだよ とも言えない バスはゆっくりと坂を上る 時間は動かない 動いているのは 私のほうだ そのあいだに 降り損ねた風景がいくつも残り 誰かのソリティアが まだ続いている
16番線から4番線 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 632.3
お気に入り数: 2
投票数 : 4
ポイント数 : 0
作成日時 2025-10-12
コメント日時 2025-11-06
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
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| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


バスや電車での人間観察って楽しいですよね。言葉を交わしたことはないのに、いつものルーティンだけは知っている。静かで不思議な距離感。 降車ボタンと回想のくだりの、 >>反省という言葉の中に >>敗北と優しさが同居している >>次は、迷わずにボタンを押すんだよ >>とも言えない ここが印象的でした
1コメントありがとうございます。 いつも同じ時間に乗っているバスだと、同じ人と出くわしますよね。でも言葉をかわすことはない。でもその人の癖や降りる場所は何となくわかっていて、ほんとうに静かな不思議な距離感ですね。 今回は何気ないバスの風景と、この日の心のもやもやを少し関連付けてみたのですが、印象的だったとのことで嬉しいです。ありがとうございます。
1時間と生活の中で、人同士の気持ちのやり取りが見えますね。娘は頑張ったけれど、ぎりぎり惜しかった、でも決めたことは譲るわけにはいかない、ソリティアのように。
1コメントありがとうございます。 ルールの中で揺れる心の細かい動きを書きたかったので、「ソリティアのように」と読んでいただけたことが、とても嬉しいです。 人の気持ちはいつも、見えないカードをめくるようですね。
1バスの場面がメインなのかもしれませんが、 「わー残念!でも頑張ったね!」 「いやいやいや 21位だよ?!これはもう20位以内でいいでしょ?!」 「いやいや 違うでしょ」 「じゃあせめて2,500円!」 「…いや、違うよね。」 こんな挿入されたやり取り。こんなところに真理は潜んでいるのかもしれません。誰かのソリティア。ゲームの世界。マックの匂いは、藤田田(ふじたでん)を意味しているのかもしれません。
0コメントありがとうございます。 すごく丁寧に読んでくださってありがとうございます。 バスの場面の途中に娘とのやりとりを入れたのは、ぼーっと外を眺めていると、ふと家族のことを思い出して、あれでよかったのかな…なんて考えることがあるからなんです。 エイクピアさんのコメントを読んでいるうちに、それが、私にとっては“バスの内側の窓”のような気がしてきました。 そして、「マックの匂い」に藤田田さんを重ねて読んでくださったのもとても興味深かったです。 藤田田さんは日本マクドナルドを立ち上げた方で、合理的でありながらも時代の空気を敏感に感じ取っていた人というイメージです。 そう思うと、あの匂いにはただのファストフードではなく、もっと大きな“生活の気配”のようなものが含まれていたのかもしれませんね。 コメントをいただいて、改めて自分の中の「内側の窓」が少し開いた気がしました。本当にありがとうございます。
0娘との軽妙なやり取り。確かに2500円と言うのは一理あると思うのですが、お金を出す側としては却下せざるを得ない。バスの中では人は万能選手のような空想家になるのかもしれません。
1コメントありがとうございます。 >万能選手のような空想家になる この表現、とても素敵だなと思いました。まさにあの詩では、バスの中の限られた時間と空間が、現実と空想のあいだをゆるやかに行き来するような場所になっていた気がします。 娘とのやり取りも、そんな曖昧な境界の中でふとこぼれる現実の重さと可笑しさを描きたかったので、その部分を受け取っていただけてうれしいです。
0読んでいて、人やモノの動き時間の起伏を感じる。 終わりに向かわせる流れが秀逸ですね。 特に台詞口調からラストに向けた感情表現が素晴らしいと思う。 人それぞれが人生というゲームの中で暮らしを営んでいて、 語り手のわたしには人生というゲームに組み込まれていく娘がいて、 それぞれが安定したバランスを保ちながら生きている。 という細やかな観察者を主体に綴られる作品ですが、 その語り手と光景との距離感が絶妙で、 「16番線から4番線」 ずいぶんと距離が空けられているのも、 ここに描かれている人々や、 これから成長していく娘との関係にも促されて、 跳躍力と遠心力にも読めてくる、 素敵なタイトルだな、と思う。
0コメントありがとうございます。 >人やモノの動き >時間の起伏 と書いていただいた部分に、まさに自分があの詩で感じていた「流れ」をすくい上げてもらえたようで、胸の奥が少し温かくなりました。 生活の中のささいな動作や言葉のやり取りが、いつのまにか時間のうねりとなって、私たちを次の場所や空間へと運んでいく。そんな感覚を持ちながら書いた作品でした。 >人生というゲームに組み込まれていく娘 という読みもとても印象的でした。 どんなに近くにいても、娘には娘のレベルやステージがあって、親はそれをただ見守るしかない。その少しの「距離」こそが愛情なのかもしれませんが、未だにその距離感がよくわからないままです。 >跳躍力と遠心力 と評してくださった言葉が、そのなんとなく自信のない距離感を肯定してくれるようでとても嬉しかったです。 丁寧に読んでくださり、本当にありがとうございました。
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