「ワッツアップ?」というのがハルコの口ぐせ。ハルコは今日も朝に目を覚ます。ハルコは宝石をくだくための方法を探している。朝はそれが見つかる気がするけれど、ミルクを飲んでそれが今日も見つからないことに気づく。丘のうえに住んでいるハルコ。
ハルコォ、と遠くで自分を呼ぶ声がするので、玄関の扉を開けてみるハルコ。声の聞こえる方向に眼球を動かす。よれよれのシャツに、カーキのベスト。丘まで走ってくるのはバトだ!村のなかでいちばん若い。息を切らしながらこちらまで来て
「今日はフルーツおばさんの機嫌がとても悪いよ!」
と言う。フルーツおばさんは、村のいろんな人にフルーツを配っている。
「なんでそんなことを知っているの?」
ハルコ、単純な興味が旺盛で困る。
「今日はフルーツをくれなかった」
と不満げなバト。当たり前になることが世界のゆがみ。けれどハルコもきっと抗えない。
「重力のようなものね、トーストでも食べていく?」
ハルコ。
バトはトーストを食べていった。いちごジャムをべちゃべちゃになるまで塗った。
久しぶりにミナといっしょにご飯を食べたハルコ。デザートまで食べ終えて、ひとつ教えて、とハルコはミナに聞く。
「宝石をくだく方法を」
「そんなの知りえっこない」
とミナが言う。ミナ、ブルーの大花柄のワンピース。
「ええ」
と言い、ティーカップをかちんと皿へ戻す。ハーブティーはすこし苦いが、顔をゆがめずに飲めたことに優越感を覚えたハルコ。よい気分で絶対を口にしてしまった。
「けれどね、わたしにひとつ考えがある」
とミナは言う。
「パンセのところに行けばいい」
そうしてパンセのところに行く準備をするハルコ。緑のチェック柄の鞄を持っていく。着替えもなにもかも詰めて。
そうして旅をする…。
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パンセは静かに言った。
「きみは、風を知らないの」
伏し目がちに言う。
「もう風は過ぎ去ってしまったのに。」
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 772.7
お気に入り数: 3
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作成日時 2025-07-17
コメント日時 2025-07-20
#現代詩
#縦書き
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| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
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2025/12/05 19時43分32秒現在
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繊細な描写が、心に浸み渡り、宝石について考えさせられます。過ぎ去った嵐は、もう宝石をくだく 必要がなくなったということでしょうか。不思議な内容ですね。引き付けられます。
0こんばんは。 不思議な作品です。 大人版の絵本を読み聞かせてもらっているような、楽しい気分になりました。
0宝石をくだく方法という言葉の響きが象徴的だと思いました。 読み進めると、書いていないこと(それは書かれなかったことかもしれないけれど)が、知りたいと思う欲求を容赦なく刺激してくるようであり、物語はとても読みやすくあるのですが、しかしもっとじっくりと読んでみたい、そんな気持ちにさせてくれる作品だと思いました。
0その場を覗くような、映画的な場面構成として、すっと読ませ、そこにいることを立たせることが上手いなと、思った。そのなかで「宝石を砕く方法」「もう風は過ぎ去ってしまったのに」この二点をつなぐ、ハルコの過ぎ去っていく青春のようなものがなにか、書かれていはない、旅そのものに、かんじられるのかなと思いました。良.
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