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スズラン
陽盛りも物憂い九月の午后 ノスタルジーにまどろむアーケード商店街 仄暗い静寂に浸る喫茶店内奥 遺影を背に偲ばせ店主の老女は客を待つふうでもない 窓越しに川辺の柳が揺れそよぎ陽光との戯れにまなざしを泳がせる 残されし者の愁いを含んだ佗びしげな笑みが口元に漂う 木陰を透過する幼子の手を引く、急ぐでもなくゆったりとした足どりの母子の姿を遠く眺める その背にふと妖精の面影を見る 霖雨の後は川面に水浅葱の空色が映る 柳の葉ずれのささやきと泡沫のつぶやきが聴こえる いつぞや立ち寄ったスズランデパートのトイレ それはそれは小さな便器があったと思い出す 妖精用に設えたかのような、何かの冗談のような 前橋の片隅で妖精の棲むべき暗示を拾ったのだった 季節はずれのスズランの香りがかすかに鼻先に触れたようにも… 夜気の暗闇に朧気になる前に心象フィルムに写しておかねばとやおら立ち上がる
スズラン ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 550.4
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 105
作成日時 2025-05-28
コメント日時 2025-05-31
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 25 | 25 |
| 前衛性 | 15 | 15 |
| 可読性 | 10 | 10 |
| エンタメ | 10 | 10 |
| 技巧 | 20 | 20 |
| 音韻 | 10 | 10 |
| 構成 | 15 | 15 |
| 総合ポイント | 105 | 105 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 25 | 25 |
| 前衛性 | 15 | 15 |
| 可読性 | 10 | 10 |
| エンタメ | 10 | 10 |
| 技巧 | 20 | 20 |
| 音韻 | 10 | 10 |
| 構成 | 15 | 15 |
| 総合 | 105 | 105 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


とても不思議な作品です。小さな便器と妖精、とてもおもしろいです。妖精は老女を残して旅立ったものの魂なのか、それともこのアーケード商店街に棲む亡くなったものの魂なのか、色々想像が膨らみます。それにしてもトイレの登場が本当にいいです。 >前橋の片隅で妖精の棲むべき暗示を拾ったのだった ここだけ過去形なのがインパクトあると思いました
つつみさん、素敵な解釈ありがとうございます。少しだけ滞在した前橋での小さな旅の印象を綴ってみました。
0情景描写がいつもながら見事で、 人物が特別クローズアップされているわけではなく、自然と溶け込みながら、更なる残暑のどこか気だるい暑さを増幅しているように感じます。 妖精の例えより、ご自分のお子さんを亡くしたのではないか?と思いました。 >それはそれは小さな便器 が、お子さんの記憶と重なり、お子さんは妖精となって、存在していると思われたのでしょうか。 私にも、妖精となった幼子が小さな小さな便器で用を足している様子が思い浮かびました。 ありがとうございます。
1レモンさん、いつもありがとうございます。励みになります。
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