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春の芽
おばあちゃんからもらったモスグリーン色のセーターを身にまとう 向かう先は 最近できた近所の図書館で 幾何学的な形のオブジェが金属質な光を放つ 人影が木々のように見えた ひんやりとした空気が体を包み込む 天井まで届くほどに詰め込まれた本の中にいると 私は、子宮の中にいるようで、それこそ、知の子宮に 図書館の中央、真ん中のポツンと空いた席の椅子を引く やわらかい手触りのシートが太もものあたりを撫でる くすぐったいような、でも、頭がポーっとするような、くらくらするような 胸の奥がぎゅっとなる感覚、それだ 私は、羊水のあたたかさに包まれながらページをめくる 母の栄養を受けるように、少しずつ膨らんでいく私の脳内 ふと、横に目を移すと、そこにいたのは昔の私 お行儀よく座り、口元は弧を描いている お利口さんだね、お母さんの言うことをよく聞くね 母の喜ぶ顔を見たい、それだけの私 心の中ガぐちゃぐちゃに、それは、あの日のまぐわいの、秘密だよと囁かれたあの声のせいだろうか ここでは、心の声すら裸にされそうで、私は、呟くのをやめてしまう 横目に窓を見ると、新緑の青々とした木々がひしめき合って、図書館は養分にされ侵食された 春になると、また芽が出て、私たちは包まれる
春の芽 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 668.5
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2025-05-07
コメント日時 2025-05-11
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
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| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


大胆な作品なので、驚きました。 性行為を描写してる部分があるのですが、 幼い自分と成長した自分がオーバーラップしており、 >あの日まぐわい が、幼い自分のものなのか、成長した自分のものなのか、幼い自分と成長した自分のものなのか。 ラストの記述から想像すると、 幼い自分と成長した自分のもので、 しかもその性行為は、決して嫌なものではなく、甘かったのだと思わせるような記述です。 図書館が子宮となり、 母の胎内に戻ってきた感覚なのか、 記憶が誘発され、 さもいい子のようでいて、それが表面的なものであることは >母の喜ぶ顔を見たい、それだけの私 という記述に現れています。 だから、母に言えない秘密を持ち、 母の前では、大人になっても良い子だったのではないでしょうか。 秘密は新緑の木々に覆われ隠されるのですが、 丁度、妊娠と出産のように、 春になると秘密を思い出すのでしょう。 モスグリーンのセーターが、 新緑を暗示しているみたいだと思いました。 ありがとうございます。
1何故か適度な文化テロ感がある作品です。 梶井基次郎の「檸檬」が思い浮かびました。 奥行き、つまり、図書館の空間の広がりを感じさせるのも、上手いなと。
1コメントありがとうございます! あの日のまぐわい こちらに関しては、書いたときの私の心情として、幼少期の私というより、成長した自分が体験したことを示しています。ただ、あの日のまぐわいを、自分自身が生まれたきっかけの営みとして表すことで、子宮内という描写と組み合わすことができたらなと思っております。 表面的ないい子を演じる私を良しとする母という構図にもなっています。ただ、それだからこそ、レモンさんもおっしゃるように、母に言えない秘密もできてしまうということでもあります。 新緑と木々という、青々としたものも、同じく生命の力を示し、母と子を比喩的に表すことができたらなと思い描きました。詩に対して、向き合っていただきありがとうございます。 モスグリーンセーターを着た私もきっと喜んでいます。
1おまるたろうさん、コメントありがとうございます。 梶井基次郎さんの「檸檬」における檸檬としての役割が、この詩における私なのかな?とか思いました 図書館は知を守りゆく場所で、またその知識を使い新しいものが生まれゆく。それは、子宮内のようでもあるなぁという私の率直な心情を描いたものですので、そう言って下さり嬉しいです
0>心の中ガぐちゃぐちゃに ここで「ガ」となっているのが、より混沌とした感じを表せているという感じがする。
1空白から生まれる会話もまたあるよね つかれたときはすこしやすんで また、そこから芽生えるなにか 人を、厭んでも生まれるものは 私、本当は絵描きになりたかっ いや、写真も、文学も、期待に 応えたいし、何より、半端な自 分が嫌で、がんばろうって思っ てここにいるの、そうここに
1テイムラーさん、コメントありがとうございます 確かに、このガという1文字は、唐突で、でも確実に混沌を産み出すかもしれません 心の中とぐちゃぐちゃを繋ぐイコールとしてのものですね
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