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記憶   

作成日時 2017-10-01
コメント日時 2017-10-31

高い、空は、 海に浮いた、油のよう。 熱の 残る路に、トンボが、ポッと落ちる。 オニヤンマの複眼に残る、 うねりを帯びた敏捷さで、 丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。 ふりむいたお母さんが、 四枚の薄羽根をひとつまみに、笑う。 僕はオニヤンマの歯ぎしりしている牙を凝視する。 鮮やかな黄色の胸の浮き出た筋肉は、 森の静寂さを気づかせる。 免疫細胞のように虹は 水銀や、コバルトブルーを食べる。 虹は、今、炎になった。 目をつむれば、 ピンク色をした、バスタブの排水口のイメージ、 ステンレス製のぎらぎらと光る縁取りから、深淵が覗けた。 オニヤンマの複眼に残る、 うねりを帯びた敏捷さで、 丸い小金虫らが、クヌギの老木に群れる。 トンボの、輝きに触れたくて 紙飛行機のように、空にかざす。 心に、 はじけるものがあり、樹液を 手につけて、 匂いを部屋に持ち帰ろうと、思う。 とり残されてしまった気がするから、 今はもう、道路脇の縁石の上、 ステップを踏みながら、唐突に、 走り出す。坂を越えて、 シャボン玉の内側に、この世はあって、 川を越えて。ぶーうぅーん。 空は頭上にだけあって、木々の隙間に刺しこむ虹に 向けて、群れは飛んだ。ぶーうぅーん、ぶーうぅーん。 ざわめく、アメジスト色が、 無数に映つる 太陽は、どこを探しても見当たらず、 空全体が、夕暮れのように、 羽音と、発光している。 羽音が、


項目全期間(2019/09/17現在)投稿後10日間
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2019/09/17 23時54分05秒現在
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コメント数(7)
まりも (2017-10-07):

句読点を多用した、ぼつぼつと切るような、力強いリズム、冒頭の丁寧な自然描写、そして、その後の飛躍。ユニークな作品だと思いました。 「お母さん」と書いている所を見ると、語り手はまだ少年の設定でしょうか。その母が、無造作にトンボの薄羽をつまんで、息子の鼻先に突きつける。オニヤンマの胸の筋肉、クローズアップされる牙、そして〈森の静寂さを気づかせる。〉獲物を取る肉食の昆虫の持つ迫力、動の美とでもいうのでしょうか、豹が獲物を狙う前の静けさとか、獲物に狙い定める猛禽の静けさ、とか・・・単純な静けさではなく、たわめた鋼を抑え込んでいるような、そんな緊迫した力を秘めている静けさ、を感じます。 高い空、大きな視野から始まって、トンボが落ちる、という、まだ距離のある情景、そこから一気にクローズアップしていくところ(母親が、オニヤンマをつかまえる無造作な動きの中に潜む残酷さのようなものに、敏感に反応する息子の視点も現れているかもしれません) 〈免疫細胞のように虹は 水銀や、コバルトブルーを食べる。〉ここからの飛躍が素晴らしいですね。 〈ピンク色をした、バスタブの排水口のイメージ、 ステンレス製のぎらぎらと光る縁取りから、深淵が覗けた。〉 喰うものと喰われるもの、その間に存在する緊張感。〈オニヤンマの複眼に残る、/うねりを帯びた敏捷さ 〉が 色を喰らって炎となって燃える虹の中にも、どこか肉感的な不気味さもある〈バスタブの排水口〉の中にも、見出される〈うねりを帯びた敏捷さ〉と同質のなにか。 〈シャボン玉の内側に、この世はあって、〉壊れやすいシャボン玉の内側にある、この世・・・という認識。シャボン玉の虹色と、先ほどの虹が響きあっていることを、この時点で知る、わけですが・・・樹液を手に付けて持ち帰ろう、という少年の思いと、樹液を吸うコガネムシに自己同化していく眼差し、そのまま虫になって〈ぶーうぅーん。〉と飛ぶ群れの中に、自分自身も混ざっていくような、混然とした感覚、最後まで響く〈羽音〉・・・ 幾層にも折り込まれながら、オニヤンマの複眼に宿るある種の力、喰うものと喰われるもの(死に喰われる人間、も含めて)の関係性、自在に虫の気持ちになって空を飛び回るような少年期の想い・・・夕刻の〈アメジスト色〉に照らされている、記憶。 映つる、など、表記の疑問がありますが、よく練り上げられた秀作だと思いました。

深尾貞一郎 (2017-10-23):

まりもさん、丁寧にお読みくださり、ありがとうございます。 誤字がありました。 無数に映つる× 無数にうつる〇

エルク (2017-10-25):

自分は映つるの表記にオニヤンマの複眼でみた景色を表現しようとして苦心した結果のように感じて引っ掛かりはしたものの意外と好きだったんですけどね。ついでに引っ掛かりでいうと、お母さんがと語る中で語りては少年だと連想したんですが全体の表現の(イメージの)重厚さに似つかわしくないなと。ここが「母が」ならば老いた母とオニヤンマと僕、静寂さのなかに満ちる力強いさまざまな<生>の色彩のイメージが、三者の眼が映つし出す世界をより自然なものにすると思いました。

深尾貞一郎 (2017-10-25):

エルクさん、お読みくださり、ありがとうございます。 心は玉ねぎのように、過去の自我が層になって形成されていると考えています。

おきらく (2017-10-26):

コメント失礼致します。 簡単な言葉で申し訳ないのですが、文章の硬さとやわらかさが絶妙でした。 オニヤンマの~(中略)~虹は、今、炎になった。の前半分が好きです。 そして、後半に擬音語をもってきたのも面白かったです。 御作に関してはとくに気になる荒はありませんでした。 媚びていると思われるかもしれませんが本当です。 これからも執筆活動、がんばってください。

深尾貞一郎 (2017-10-31):

おきらくさま、お読みくださり、ありがとうございます。 励ましのお言葉に感謝いたします。

エイクピア (2017-10-31):

ちょっと投稿できなくなっているようなので、テスト的にやってみます

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