まだ明けきらぬ朝に
ひざまずき仔虫をついばみ
無邪気に首を傾げて
猿の眷属として空の下で生きる
わたしとあなたの服を哄笑の火花で焚こう
二人は裸で生きてゆこう
皮を剥いた林檎の白で
二人は横たわり目を閉じる
鼓動が肉体のドアをノックする
熱い肌と呼吸 原初の音節
あなたは空に向かい叫んだ
それは、二人が浴びた雷鳴
声は意味解釈を持たぬ力で
弓矢のように二人を貫いた
夜の衣が剥がされてゆく
しののめ あけぼの 明るい空へ
はたして わたしは そこにいた
あなたが そこに いたからには
朝が塗り替えた空に鳥が飛び署名する
瞼を開けた朝は直立した眩い裸体だ
鳥たちは今日も空で生きる
わたしたちは 君は 笑うだろうか
野辺に咲く花のように香るのだろうか
霧が晴れた
あの人たちの犬が遠く吠えている
旅立ちの時だ
季節の風を身にまとう芳しいあなたと
野茨の靴で戸外へと歩き出す
元気よく手をふって歩いてゆく
足を交互に出す
唇には歌を 歌いながら
あなたのために歌おう
地の輪郭に沿って 隆起の丘を超えて
窪みに沿って 森を抜け 小川を渡り
途中までしか書かれていない小説のような
開かれた頁の上を踏む
読めない展開を進む
何者かが肩ごしに身を翻す
輝く瞳の揺籃期は
見るものすべてに意味があった
魚が蛇が、蝶が、翼のある種族が
花開き ひとつの世界に組み込まれてゆく
巣箱をすり抜ける冷まじき風と
朽ちた落葉で作られたわたしたち
反り返り宙をトンボ返り
あなたの白い胸に散る雀斑の数さえ
宇宙の星と繋がる
さあ行こう 滲み広がる赤
夕焼けを飲み込み
半開きの空が閉じてゆく
太陽が最後の瞬きをする
二人を掴み揺さぶる色彩
ひととき山裾を燃やして空は暮れてゆく
夜を歩いてゆく
今日の公演はお終いと劇場のカーテンを引き
人々が犬とともに眠りについたそのあとで
川に沿って海までゆこう
海はいいね
眠る海の胸は上下し
海の底冷え 風はぴいぷうだ
渚 足を水に浸し
あふれ 広がるものを前に
胸を張るものを前にして
注ぎたそう千粒の涙を
幾億粒の砂より掘り出そう
埋もれてしまった なにもかもを
樹々を その果実を
季節を 想い出を
わたしたちの恐怖を
明滅した夜と昼を
草木の茂る丘陵に吹く風
移動する雲が地を悲しませ
やがて湧き上がる雨のリズム
ほら 雨上がりの針葉樹をぬければ
肌を刺す陽が差し込む
空はこんなに高く誘う
火を放たれ燃えあがる木の葉 が散り
雪が天と地の間を占める
春の歌を唄え 冬の歌を
ここにわたしはいる あなたの傍にいる
春 雲は胸のあたり 半身を出し淡い色彩を歩く
夏 夜と朝の間で いまだ二人は砂に埋もれて
秋 絡まる橙と青の静脈の毛糸 ほころびてゆくとき
冬 狼の横顔 馬の尻 あなたの歩く影に雪が降る
歩きつづける 二人は旅人
空の下 地平の彼方からやってきた
わたしたちのことは忘れていい
幾多の昼と夜を超えて
遠くまだ見ぬところへ歩いてゆくのです
巡る大空 雷のドラムロール
光を孕んだ夏がまた訪れた
暮れかかる夕景の体内で
二人は薄く汗を着て
いまだ物語が始まる
ずっと手前にいる
空の下で眠り 空の下で起きる
二人は夢をみる 大抵は悪夢を
でも、ときおり
美しいものがちらりと見えたりするのだ
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作成日時 2020-11-13
コメント日時 2020-11-29
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 809.5
お気に入り数: 3
投票数 : 7
ポイント数 : 17
#現代詩
#縦書き
#受賞作
項目 | 全期間(2021/01/28現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 4 | 4 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 17 | 17 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2.5 | 2.5 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 0.5 | 0.5 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 8.5 | 8.5 |
閲覧指数:809.5
2021/01/28 22時01分22秒現在
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構成がしっかりとしていて 読みやすかったです。
0嬉しい感想でした。 書き上げてから、連をあーでもない、こーでもないと動かして 現在の形になりました。 可読性は大事ですね。
0これは力作ですね。 こうまで明るく力強い失楽園もない。 きっとこの林檎に原罪の意味もない。 この地上は二人のための壮大な舞台なのだろう。 ちゃんと読み込む必要がありますね。
0読んでいただければ分かるとおもうが、これはキリスト教的な教養とは別物の作品である。聖書は部分的にしか読んだことがない、創成期は読みましたが、ミルトンの「失楽園」も未見である。二人の出奔という冒険を楽しんでもらいたい。
0「瞼を開けた朝は直立した眩い裸体だ」の1文で雲ひとつない晴天の青空が目に浮かびました。2人の通った道筋に四季の思い出が足跡となり浮かんで文字になっているような感覚。静かであり、新しいものに向かうエネルギーを感じ、胸にすっと風が吹いた気がしました。散文失礼しました。
0読んでいただき、感想を感謝いたします。 朝って裸体ですよね。明るい日差しの中に惜しげもなく全てを見せてくれる。 書いていただいたように、晴天の青空の下、二人は出発します。二人が見たものは少し書き記しましたが、これからどこまで行くのかは、私にもわかっていません。 コメント、嬉しかったです。
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