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掲揚
この腹の中には深い沼地がある 光も届かぬ見るに耐えない沼地だ 蓄積した汚泥や廃棄物は地層となり 顔を寄せずとも鼻を刺す異臭、それは 燃えた髪の臭い、死んだ獣の臭い、腐敗した水の臭い 沼地は重い 体が動かなくなるほど 一歩たりとも足が進まず どろりとした液体が纏わりつく それでも私は! その沼地に腕を突っ込み引き上げる 海岸に座礁するマリンデブリより醜いものを 思い切り引っ掴んで引き摺り出す 素材も形も何もかも違う 目を逸らしたくなる醜い塊を 私は丹念にこよる 掌が切れようとも、素手でこよる ぬかるむ地面に腰をついて 背中を丸め これでもかと顔を近づけ 細く切れないように限界まで引き延ばし 右に捻り 左に捻り 一本の糸に仕上げていく 極端に細い箇所もあるだろう 塊が残ってしまっている箇所もあるだろう それでいい 斑なばらつきを愛しながら 自分で産んだ糸を一枚布に編んでいく 網目の大きさはどうしようか 色は何色に染めようか 幅も厚みも形さえも 全てがこの手から産み落とされる 完成した一枚布は高らかに産声を上げる 私は我が子を体に纏い 立ち入り禁止のテープを越えて歩き出す 沼地の在処を知る人よ どうか見てほしい この美しい衣を 沈黙の機織女が編んだのだ 深い森の中で この美しい言葉を
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掲揚 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 409.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-12-07
コメント日時 2025-12-10
| 項目 | 全期間(2025/12/14現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


こんばんは。 タイトル、調べました「掲揚」 旗などを高々と掲げることのようですが、それを >>マリンデブリより醜いものを >>思い切り引っ掴んで引き摺り出す そして、こよる。 なにかこう、並々ならぬ決意とともに作り上げられたそれを掲げる姿が浮かびました。 海底からのリサイクル 再生と言うんでしょうか。 >>幅も厚みも形さえも >>全てがこの手から産み落とされる という真剣な眼差しと 心意気が伝わります。 >>立ち入り禁止のテープを越えて歩き出す 詩文全体の中では、 特にこの一節が印象的でした。 一体、このテープを超えた先に何が待ち受けているのか しばらく僕は想像の岸辺で呆然と立ち尽くしてしまいました。
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