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フィラデルフィアの夜に 61
フィラデルフィアの夜に、針金が被ります。 少しの月明りだけが照る、夜。廃屋。 朽ち始めた廃墟に、四人の影が入り込む。 窓を割り、そこから入り込んだ。 棚を漁り、物をひっくり返す。 金が、宝石が、何かないか。 荒々しい音と声が、静寂だった部屋に木霊した。 歓声があがる。 一人が、見つけた箱。 ライトに照らすと、美しい小箱。 黒光りする、金と七色で装飾された小さな箱。 この黒はエナメルなのか、この貼り付けた七色チップはなんなのか。 ともかく開けた時だった。 針金が近くの三人の顔に飛びついた。 絡み、歪み、捻じり、顔を覆う。 仮面となって、張り付いた。髭を蓄えたそれぞれ違う仮面となって。 入り込んだもう一人。 その様を見、息を飲んで動けない。 そんなもう一人に、箱から飛んできた多くの針金が頭に刺さった。 それは後光の様に後頭部に広がった。 三人が動きます。歩きます。 ゆっくりと。 もう一人もゆっくりと。座り込む。 明るくなった月明りの下、演練を続けたような動きで。 「ユダの地よ」 仮面の一人が言います。 「ああ、ベツレヘムよ」 その隣の仮面が。 「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか」 もう一人が言う。 すると見上げます。 「空を見よ」 「光が」 「星が、西へと流れていく」 光が、月明りが仮面を被っていない一人に当たる。 「この馬小屋の、何もない藁の上。そこに我が子が眠っている。 不意に産気付き、こんなところで。 ああ、ヘロデ王の赤子狩りがなければ。ああ」 月明りが強くなり、静まります。 廃屋の一角に積まれた草の上に、針金の人形が眠るように横たわってました。 そこに光。強い光。そして消えました。 「星の光がここに導いた」 「誰かいる」 「あなたは誰だ」 「わたくしはヘロデの横暴を逃れた者です。願わくば、この子、我が子に祝福をお与えください」 仮面の三人は膝を付き、祝福します。 「おお、まさか」 「間違いない」 「この子こそがユダヤの王。王の中の王だ」 そして拝みました。 「わたくしは女のまま、処女のままでこの子を産みました。やはり、やはり神との子なのでしょうか」 「間違いありません。星が我らを導きました」 「これを捧げます。乳香を」 「没薬を」 「黄金を」 「我が子、神の子へお捧げ下さい。わたくしは、神の子を王の中の王となるまで育て、祝福し、賛美いたします」 どれだけ時間が経っただろうか。 気が付けば、外は薄明るくなっていた。 いつの間にか、顔に張り付いていた針金の仮面は取れた。 もう一人に刺さった後光の様な針金も、消えている。 草の上にあった人形もまた。 針金は一切が、ない。 この廃屋の中には、どこにも。 ただ、黒光りする小箱が現実離れして美しく思えた。 四人は、何も持たず廃屋を出ていく。毒気を抜かれて、どこか晴れやかに。 東方の三賢者を演じ、清らかな思いで。 あの小箱は、蓋を閉められ、あの廃墟の中でまだじっとしている。
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フィラデルフィアの夜に 61 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 660.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-11-21
コメント日時 2025-12-04
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


こんばんは。 針金が全体を通して物語をリードしている感じがします。 この盗賊のような四人が、針金によって毒気をぬかれた、という事は 針金はなにかこう、注射針のようなイメージなのでしょうか。 悪い血を抜く、と言いますか、 「針金の人形」というモチーフがかなり印象的です。それが消えていた というのも示唆的だと感じました。
0元ネタとなったのは「浦島太郎はどこに行ったのか」(高橋大輔 新潮社)にあった話で浦島太郎ゆかりの神社二か所で漆売りの小箱に能面の翁面が収まっていたというのがあり、そこから発想を膨らませました。 フィラデルフィアシリーズは針金が関係する不可思議な話の連作となっているので、針金がどうにも絡んできます。 演じたのは新約聖書のキリストが誕生した時の「東方の三賢者」のエピソードになります。 マリアがキリストを馬小屋で出産した際、流れ星に導かれ三人の賢者が現れ、乳香と没薬と黄金を捧げたとあります。 ですので、針金の人形はキリストですね。 いなくなるべくタイミングでいなくなっています。 一応、アメリカのフィラデルフィアが舞台なので聖書から題材をとってみました。 聖書になぞった演劇をやったから毒が抜かれたかなと。 ちなみに針金は、普通の針金のイメージです。
0お返事ありがとうございます。 解説をいただいて更に足掛かりになりました。 フィラデルフィア、 前に一度検索したらアメリカと出てきたのですが、合っていたようで良かったです。 針金が重要なのですね、 今度からはまた意識して読ませて頂きます。
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