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カフエ
普通や常識ほど疑わなくてはならないものがあるのに、どうして人はもっと先を見つめてしまうのか。 この上ないほどの静謐さ、心に波紋を打つようにおとなしく流れるオルゴールの音。 僕のお気に入りのこのカフェ。いつもは僕以外には人なんていないのに、今日はたまたま先客がいた。 僕のお気に入りの席に、僕のお気に入りのメニューお頼んでいる。なんとなくだが癪に障る。 この店には不似合いな、変わった着物を着ていて、病的なまでにやせた君。何を思ってそこに座ってるんだ? 僕はこの上なく頭にきて、彼の隣につっけんどんな態度を取りながら座った。でも君は一切驚かないどころか、手をたたいてけらけら笑って見せた。その時ふと、彼の小指がかけているのが目に入った。不謹慎だけどそういうものほど目に入ってしまう。 「欠けてるの、わかりますか?普通じゃないですよね。」 思わず、どきりとした。 僕は脳天を弓で射抜かれたようにこくりと力なくうなづいた。 すると僕のなかでパラドックスが起きたようだ、自然と彼のことが気になってきた。 「僕も欠けてるんだ。」 と言って髪をめくり、耳があるはずであろう側面を見せた。 彼はまた手をたたいて笑ってくれた。 「欠けてるって何なんでしょうね。」 笑顔の中の瞳にはその逆説的な表情をたたえて、彼は言う。そしてそのまま続ける。 「あそこのガラスの花瓶、奇麗ですよね。もしあれがどこかしら欠けていれば、普通じゃないねとみんな言うでしょう?けれどアリが強化ガラスだとして、内側のみ欠けているならば、それはアートとして称賛のものになります。不思議ですよね。あのガラスは欠けていなければみんな綺麗と呼ぶでしょう、それが普通なのですから。不思議ですよね。」 僕は話を聞いているうちに彼と同じ表情になっていった。そうしてこういう。 「じゃあ、普通とは完璧ということなのか?」 「そうでしょうね。」 彼はコーヒーを一口飲んだ後にそう言ってくれた。
カフエ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 373.6
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-09-26
コメント日時 2025-09-30
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


おはようございます。 興味深い内容で、読み応えがありますね。 >>「じゃあ、普通とは完璧ということなのか?」 この一文がとても 腑に落ちました。
0欠けていることの意味。小指がない。耳がない。普通とは完璧と言う意味。カフェでの談笑。淡々と進む詩ですが、深い意味が隠れているに違いないと思いました。
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