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ヤキソバ
僕は一人、喧騒から逃れて緑の土手に腰を下ろし、 屋台の群れを眺めながら、こう思う。 音っていうのには、味があるのだ。 じゃないと何故あんなにも貧相な肉なしヤキソバが 「ドーン、ドーン」という響きの中で、 500円玉一枚の重さを持つかなんて説明はつかない。 「ドーン」 ほら、またやって来た。 そいつは鼓膜をくすぐり下っていき、腹の中を一周する。 そこから空へ帰ろうとするかのように喉を駆け上がり、 その切れ端が舌の先の粘膜へと絡みつく。 こうして単なるこげ茶のブルドックソースと紅ショウガの固まりに 何らかの作用を引き起こす。 「ドーン」 その証拠に、眼下の奴らだって、 もののみごとに見慣れてしまった空をしりめに、 ごてっとしたワタアメやらチョコバナナやらジャガバターへと首を傾け、 ワイワイやっているじゃないか。 どれも大味な自己主張を延々と繰り返すこいつらには、 平時だったらとても満足できるもんじゃないのに。 「ドーン」 顎を上げれば花、 見下ろせば密集した屋台の灯、 たぶん子供が光る棒を握りしめている。 カピカピのキャベツと千切れたメンの残がいを箸でかき集め、 一気に流し込んだ。 今年は幸い、 「またぁ、いけないことするんだから」 なんてツレの間延びした声に、遠慮することはない。 中身無くして存在意義も無くした プラスチック容器と割り箸は、 この際ほっぽってしまおう。 僕はまた夜空なんかに目もくれず、 群衆の渦巻きへと、蛾のようにふらふらと飛び出す。 「ドーン」 この音をトッピングに、次は何を征してやろう。 いつものタコヤキにしようか、カキゴオリにしようか。 思いきって、タイラーメンやチキンステーキとかいった、新参に挑戦してみるのもいいな。 「おいしいね、これ」 なんて澄んだ声でくすくす笑う浴衣美人なぞ無くとも、 僕はこうして今年も祭りを味わうのだ。
ヤキソバ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 656.6
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-08-02
コメント日時 2025-08-09
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


こんにちは、 >>音っていうのには、味があるのだ。 というフレーズが印象的です。 確かに肉のないヤキソバが500円はなかなか 高い 屋台価格、花火大会価格でしょうか。 お祭りの映像が浮かぶユニークな詩だと思います。 夏祭りに行った気分になりました。
0ぼんじゅーるさん ありがとうございます。 夏祭りの空気が出てれば嬉しいです。 花火は音を味わうものだみたいなのは、なんか町役場の偉い人がスピーチで言ってたのが印象的で、広げてみました。
0音の味覚化という発想が興味深かったです。 焼きそば、ワタアメ、チョコバナナ、ジャガバタ、どれも大味な自己主張で普段なら500円で食べたいとは思えませんが、音と祭りの魔法でついついに買ってしまいますね、私も。
0ありがとです。 なんか祭囃子と花火の音って、なんか独特で味わいがあるのですが、実際に味があるんじゃないかと思ったりして。 ワタアメとかジャガバタとかは、お祭りだから美味しい味ですー。
0こんにちは。 この作品は、空間の使い方の上手さに唸りました。 これが、空間の凸凹なしに、キッチリ揃えられていたら?と思ったときに、 揃っていたら、如何にも堅苦しく、このラフさと陽気さと、お祭りの屋台のチープで堪らなく美味しい雰囲気、 花火が打ち上がって、「ドーン」と開く様子は表現できていないのでは?と思いました。 良い作品だと思います。 ありがとうございます。
0レモンさんへ ありがとうございます。 本当は軽い挿絵を添えて書ければいいなぁとも思うのですが、絵心が無いのです。 ゆるい間ができてたら、あるていど意図通りなので、嬉しいです。
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