見ていたものが消えた後も、目は残像を追いかける
残像がなくなる前に次のコマを映すと、止まっているものが動いて見える
一コマにつき光は二回
一秒間に二十四コマと四十八回の点滅
プロジェクターの中では認識できないほど小さい鏡が光を反射し
レンズを通って銀幕に投影されているらしい
映像は二重映し
ピントは次々ぼけていく
排気口から機械を覗く
中心には自分の振動で揺れる青い冷却水
巨大な映写室
暗闇に浮かぶ無数のライト
自然の光は届かないこの場所で
並ぶ映写機と映写窓
様々な光が映写機から照射され
窓の向こうの劇場からは
逆反射する映像の断面が映写室の壁で上映される
ネットワークスイッチに十六本のケーブルとその電気
山詰みのスピーカーと調光機
衛星通信機のランプが赤い
清掃用水銀燈は使用禁止
映写機からこぼれた光とだんだんにじんでいく点滅
誘導灯と非常灯
中古のデジタルシネマ一階は廃墟
なぜか映写窓は斜めに傾いてまっすぐには映らない
輝度値ゼロの暗闇の中
光線透過率八十八から九十八パーセントの映写窓
映写機からはまともに見れば失明するほどの光
直視して崩れる視界
排気にまみれたセリフを聞きながら
壊れた目で振り返っては小さな窓から盗み観て
映画を乱視がなぞっているだけ
ノーヒューズブレーカ―
過電圧表示
山積みの段ボールと機材
わたしは映写室を散歩する
映写室の窓越しにバック反射するすべてのスクリーンの前を横切って歩く
光のあとから影が追い越しては消えていく
サイネージ用備品
予備アンプのシールに壊れもの
土星色のライトの下に運転中の文字
七番ステップライト制御盤
電圧可変誘導灯用信号装置
よくわからない機械のゴミ捨て場
ほんとうは全部よくわからない
それっぽく並べているだけで
さっきまでは面白かった映画を退屈に変えたのは
スポットライトでもなく
あなたと目が合った時の
被ばくするほどのうらんの光
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 768.0
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-06-30
コメント日時 2025-07-04
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:768.0
2025/12/05 22時11分54秒現在
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大作をありがとうございます。
0初めまして。 とても良いと思います。 映像の仕組みや専門的なことは、 >わたしは映写室を散歩する この部分を効果的に際立たせており、 とても楽しそうです。 >さっきまでは面白かった映画を退屈に変えたのは >スポットライトでもなく >あなたと目が合った時の >被ばくするほどのうらんの光 うらん。ウランと怨んでしょうか。 凄まじい、目で誰かを殺せそうな視線を想像しました。 タイトルは「ポエマーへ」となっていますが、自分に分からない感情を憎悪するのは、 人間としての傾向ではないかな、と思いました。 ありがとうございます。
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