別枠表示
空飛ぶ毛虫
茶色い風船が 夏空に浮かんでいる 灼熱のアスファルトを這う 不自由な身体で 焼身自殺をするように 全身の毛を焦がしながら 安住の地であった松の枝は 今では遥か遠く 深い眠りの中で見た 青空の夢は今何処 醜い毛を蓄えた身体は いつの日かすっかり形を変えて 世にも美しい羽が生えるのだ、 そんなお伽話があるけれど 私は何十年、何百年 四つ足の獣に蹴飛ばされながら 先の見えない長い道を 這い続けている気がする どうやらここは 運命の分岐点など存在しない ひたすらに続く一本道 出口すらない 堂々巡りの平坦な道 「もしもし神よ 神さんよ 世界のうちに お前ほど 無情で 無慈悲な 者は無い どうしてそんなに 惨いのか」 生まれ落ちる前に植え付けられた 大空を羽ばたく夢は 踏めば飛び散る肉の中に べっとりとこびりついたままで それなのに どうしても、蛹になる方法を思い出せない まるで誰かに 目隠しをされているかのように 飛蝗は言う そういうものだからと 蜻蛉は言う 口答えをするなと 生まれ変わりは どうやら許されないらしい ならば私は 全ての生き物の目を盗んで ヘリウムガスを吸い 毛むくじゃらの風船になって 遠い街へ逃げ出そう 桑の葉を食んだ口に プラスチックのストローを刺し 己の声色を変えてまでも 羽のあるどんな生き物より 高い空を飛ぶことが出来たなら あとはこの身など蟻にくれてやろう この愚鈍な生き物の反逆は 高を括った神様の 鼻を明かしてやれるだろうか 「あなたはここに居ればいいの」 ——私はここに居たくないの 「あなたの為を思って」 ——それは私が決めることよ 願わくば 今も尚 土の上を這う仲間には 永遠の安寧と 退屈な毎日を 神を裏切った私には 終わりのない苦しみと 新しい物語を ああ 世にも醜い風船が 気持ちよさそうに浮かんでいる
空飛ぶ毛虫 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 492.3
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-06-15
コメント日時 2025-06-17
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


とても苦しく感じました。 今、毛虫さんは空に浮かぶ風船になって、 新しい冒険を始めたのだと思います。 だけど、誰だって、(私だって)、美しい外見の、美しいから美しいこころを持ってる筈と思って貰えるような生き物に生まれたかったです。 だけど、神という存在が、もし本当にいるのなら、 私をガラガラ蛇に創ったようです。 誰が毒蛇に生まれたいなどと望むのでしょう。 毛虫が毛虫である残酷さと、 >「あなたはここに居ればいいの」 > ——私はここに居たくないの >「あなたの為を思って」 > ——それは私が決めることよ 呪文のような束縛と呪縛。 そこから自由になりたい複雑な意志を感じました。 ありがとうございます。
1幼虫ファン同士(→きめつけ)のわかりみがありました。おもったのは、全編にみなぎる太陽への憎しみみたいなものですかね。朝はおぞましいからなくなってしまえ、陽キャ東大生も通勤ラッシュも廃棄処分しろ、と。世界が夕暮れになればいいのに。
1