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仮に、A地点からここへ線を引いてみると、あいだにいくつもの小さな星とぶつかってしまう。植物園は〈コ〉の字型をしており、左右一方がふさがっているため、出入りが難しいとされるが、この構造上もっともすぐれているのは、片方がふさがっているから植物が根を張りやすい、ということである。本来、下へとのばしていくはずの根を、壁に伝わらせることによって、植物の管理は簡単になる。
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昨夜から発光しているt(仮の名前)についてのレポートによると、観察員fによれば、発光の予兆がなかったというわけではなかった。植物というのはそもそも発光しない、という前提の上、tは種子繁殖をするが、菌類に近い種であるということが発見される。つまり、キノコ(種類は不明)と交配し、生育した種であることが判明したのである。
庭先を見ていた婦人が偶然、妖しく発光するtを発見し、植物園に持ち込むと、それが新種である可能性はあるのか、もし新種であるのなら私の名前をつける、と婦人は言った。リリーという名前だった。
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tの発光を毎秒観察しておくためのシステム。まず、空のガラス瓶の中に薄く(約1.5cm)土を敷き詰め、tの苗から土をなるべく掃い、根が完全に露出したまま、瓶の中にしまい込んだ。これまでの観察で、tは夜に発光しているという仮説(ミヒャエル説)が立ったため、瓶を小箱の中にしまい込み、小箱の側面に覗き穴をあける。というのがこれまで最適だと思われていたのだが(フランソワー方式)、これはモヤシ栽培に似ている、ということから暗室に入れておく方法が採用された(ロジエ方式)。ロジエ方式によって観察員は暗室の中で光るtを観察すること(空間が十分に確保された状態)に成功した。
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観察がはじまって数年が経つ頃、tは耳のような器官をもつ、ということが判明した。どのような進化の過程で聴覚器官が発達したのかは定かではない。しかし、tが聴いた音楽によって茎の色が変化することが確認された(イヴェール報告)。これによって、ヨハン・セバスティアン・バッハ、クロード・ドビュッシーの任意のピアノ曲を植物園に流しておくことが決定した(前者は橙色に、後者は藍色に変化することが確認済みである)。
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ロジエ方式によって観察員は十分なスペースのもと観察を行えるようになったのだが、24時間体制での観察が、労働法に違反するとされ、1日に3人の観察員が8時間交代で見ることとなった(なお、休憩は2時間、実質労働時間6時間)。どうやらtの生育において水が不要だということも判明した。それでは語弊がある言い方だが、空気中のわずかな水蒸気を吸収することによって養分が生成されている(エリック‐ハモジア説)。
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発光器官がどこにあるのか、いまだ判明していないのだが、tは数年後、絶滅する(原因は、発光する葉を押し花のように本に挟むことが一部の読書家のあいだで流行し、それによって乱獲されてしまった(tは植物園の外でものちに発見された(『プレヴィン植物記』)))。これが問題視され、植物保護の観点から条例が定められる前に、絶滅を宣言され、tは名前をあたえられないまま、なくなってしまった。
作品データ
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作成日時 2025-01-29
コメント日時 2025-02-05
#現代詩
#縦書き
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2025/12/05 17時37分10秒現在
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実証主義を主題にした詩なのだろうなと思いました。リアリティーのある書きぶりが好もしいと思いました。実際の法則とかは無視して居るのかもしれませんが。固有名詞を如何にもありそうな形で配置すると言う、方法論的な、メソッドを意識させられる詩作ぶりをいいと思いました。
0お読みくださり、ありがとうございます☺︎
0ギルバート試文、とはギルバート試薬の文字りでしょうか?ロジエ方式とは方程式。これは実名に浮かんだものを知的に異訳された書き物のように読めます。結局これは今日の検証も定かではないワクチン精製とか化学物質の研究過程を皮肉っているのでしょうか。詩文を知的な解釈で趣向する人たちには受けるのかも知れない。よく書けている。もう少し大きな登壇への投稿をどうぞ。とも言いたくなります。
1身に余るお言葉ありがとうございます 非・詩的なものを書くことで逆にポエジーを獲得する、岩成達也さんの詩法を参考に、書きました
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