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硝子の檻
第一章 − 図鑑の少年 悠心は、小学二年生までに十五冊もの図鑑を集めていた。 昆虫、植物、両生類。ページの端は擦り切れ、何度も開いた箇所には、指の跡が残っている。内容は、ほとんど覚えていたと思う。 放課後になると、ランドセルを放り出して草むらに入った。 特別な道具は持たない。手と目と、少しの我慢だけで十分だった。 時間がどれだけ過ぎたかは分からない。 ただ、日が傾いて初めて、周囲の音が戻ってくる。 「悠心くん、まだ残っているのかい?」 校長にそう声をかけられた記憶がある。 当時の自分は、何を疑うこともなく笑って答えた。 「うん。この蝶の幼虫、すごく可愛いんだよ」 あの笑顔に、計算はなかった。 誰かにどう見られるかも、将来どう役に立つかも考えていない。 ただ、知ることが楽しかった。 昆虫学者になりたい、と口にしていた。 それが叶うかどうかではなく、そう言える自分でいられることが、自然だった。 今振り返ると、あの頃の自分は、世界と直接つながっていたのだと思う。 理解することと、生きることが、まだ分かれていなかった。 その感覚が、いつ失われたのか。 正確な時期は思い出せない。 ただ確かなのは、 あの頃の笑顔は、決して偽物ではなかったということだけだ。 ——そして、その笑顔は、戻らなかった。 ⸻ 第二章 − 崩壊 中学二年生の冬。 悠心は、自分の中から色が抜けていくのを感じていた。 以前は楽しいと感じていたはずのことが、手応えを失っていく。 友人と話しても、本を開いても、気持ちはどこにも引っかからなかった。 よく眠ったはずなのに、朝は重い。 逆に、眠れない夜もあった。 どちらが普通なのか、分からなくなっていた。 頭が鈍く、身体の奥がむかむかする。 それでも理由を探そうとして、何度も考えた。 けれど、考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていった。 「全部考えたって、価値は生まれない」 そんな言葉に出会ったとき、少しの安堵と共に、息がしやすくなった。 何も感じられない自分を、責めなくて済んだからだ。 ⸻ 第三章 − 高校前のコンビニ 何も買わない。 そこは、お利口な子供たちの静かな溜まり場だった。 教室を閉めたあと。 課外活動が終わったあと。 模試を受けたあと。 いつものメンバーで、田舎の広い駐車場に向かう。 常に人と車の往来するその場所は、同じ景色を二度と見せることはなかった。 誰も店には入らない。 室外機の隣に荷物を置き、ただ話した。 「今日は親が迎えに来るの?」 「うん」 それで終わり。 スマホを見る者、見ない者。 口を開く者、耳を貸す者。 会話はあるようでない。 「今日の模試さ」 「やばいっ」 「わかるわかる」 深掘りはしない。 分析もしない。 結論も出さない。 趣味も、勉強も。 誰も咎めないし、誰も受け入れない。 ここで行われるのは、 同じ時間に、同じ場所に立つこと。 顔見知りの生徒が通りかかる。 会釈をして、去っていく。 別の誰かが一瞬立ち止まり、二言三言話し、 また消える。 一期一会。 でも、核は変わらない。 風が吹く。 スカートが舞い、また戻る。 遠くでは車のドアが閉まる音。 「そろそろ帰れそうかい?」 「まだ掛かるかも」 理由はない。 帰らない理由も、帰る理由も。 悠心はそこにいる。 何かをしているわけじゃない。 何かを目指してもいない。 誰かの今日と、自分の今日が、 同じ速度で流れていくのを感じる。 学校では役割がある。 家では立場がある。 ここにはただ、人がいる。 それ以上の意味はなかった。 ⸻ 第四章 − 優しさ 高校二年生になったある日、友人から長いメッセージが届いた。 画面をスクロールするたび、言葉が続いた。 一文ずつ、こちらの様子を確かめるような文だった。 「人間だし、人とは繋がっていたいよね」 息が詰まった。 「深く考えて、同時に傷つきながら、長い時間自己と向き合ってきたんだね」 「辛いよね」 スクロールする指が 居場所を探るように揺れる。 「感情はある?」 「抑えてない?」 「鈍ってない?」 問いが重なるたび、胸の奥がざわついた。 当てはまる気もしたし、違う気もした。 「自分を抑えすぎると、痛みを正常に感じられなくなる」 「正直に嫌と言えなくなる」 読みながら、悠心はスマホを握り直した。 「自己犠牲の先には、大きな損失が待っていることもある」 「回復するのは、正直大変だから」 画面の文字が、少し滲んだ。 「あなたは優しいと言ってくれたね」 「嬉しいと思えたのは、私が出会ってきた人の中で、あなたが一番優しいから」 そこまで読んで、動けなくなった。 真面目で、繊細で、よく見てくれていた。 並べられた評価は、どれも間違っているようで、否定もしきれなかった。 震える指で、悠心は返信を打ち始めた。 「ありがとう。 時間を使ってくれて、嬉しい」 でも、そのまま送る気にはなれなかった。 「君は頑張りすぎだと思う」 「考えすぎだ」 そう書いた。 それが、正しい距離だと思った。 「僕は君に甘えてる」 「有無を言わず聞いてくれる君に」 指がつまずく。 「感情を出さないのは、人を動かしてしまうから」 「相手の時間を奪うのが怖い」 どこまで書いていいのか、分からなくなった。 「自己犠牲は、親への復讐みたいなものだ」 送信直前で、少し迷った。 けれど、消さなかった。 送信。 画面が静かになる。 悠心は知っている。 人の温かさだけが、自分をここに留めていることを。 それでも距離を取らずにはいられなかった。 本当の感情を見せれば、相手を縛ってしまう。 負担をかけてしまう。 だから、笑顔で。 いつも通りに。 硝子の檻の中から。 ⸻ 第五章 − 自問自答 夜。 一人になると、音が消えた。 「まだ、ここにいるよ」 頭の中で、声がした。 自分のものなのに、少し距離がある。 「いつまで黙っているの?」 「もう十分じゃない?」 返事を探そうとして、何も出てこなかった。 別の声が重なる。 「相手は人間だ」 「相談は、時間の無駄だ」 胸の奥が、きゅっと縮む。 「死ねばいいのに」 「消えれば楽だ」 強すぎる言葉に、思考が一瞬止まった。 「違う」 「そういう意味じゃない」 必死に打ち消そうとも、声は消えない。 「お前は何がしたいのだ」 分かっている気もしたし、分かっていない気もした。 「どうせ何も変わらない」 「これも、あとで恥ずかしくなる」 その予感だけは、やけに現実味があった。 明日、学校に行く。 笑う。点数を見る。 その光景が、もう決まったかのように浮かぶ。 「誰かに相談すれば?」 「無駄だ」 「どうせ、変わらない」 思考が堂々巡りを始める。 「おれは、どうしてほしい?」 「どこに行けばいい?」 問いが残る。 答えは出なかった。 頭の隅で、悠心はその夜をやり過ごした。 ⸻ 補遺 − 温もり 寝覚め、まだ火照りの残る体に 空っ風が頬を刺す。 悠心は心の向くまま、居場所へ歩みを進めた。 「こんばんは」 地域の人は優しい。 「こんばんは。もう学校は終わったのかい?」 「ええ、これからは散歩です」 交わす言葉は短くとも 胸にはジーンと暖かさが広がった。 コロコロ、コツン。 アスファルトを跳ねて足元にヤクルトが転がってきた。 お姉様から話を聞くに、どうやら孫のための お土産をドアで倒してしまったらしい。 「拾ってもいいですか?」 一言断りは入れつつも 返事を待つことなく、 体は勝手に動いている。 彼女は、少し背の高い縁側を慎重に下った。 「おうち近いのかい?」 「はい、すぐそこのマンションです」 「そうなんだ。それにしてもあんた、少し痩せたねぇ」 ドキリとした。登校時にしばしば見かけることはあっても、せいぜい挨拶くらいだった。 「実は少し体重が落ちたんですよー」 質問に答えつつも、 改めて己が身を眺め、 少し、誇らしい気分になった。 この程度の距離なら——。 ⸻ 第六章 − カウンセリング室 経ること数日、訪れたカウンセリング室は静かだった。 時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえた。 「最近、気になる予定はある?」 「模試です」 そう答える以外の選択肢は、思いつかなかった。 嘘ではない。 けれど、それだけでもなかった。 「それについて、どう思う?」 言葉が止まる。 どう思う、と聞かれても、答え方が分からなかった。 「頑張ります」と言えば、軽すぎる気がした。 正直に話せば、重くなりすぎる気がした。 沈黙が伸びる。 何か言わなければ、と思った。 分かってもらえなくてもいいから、せめて誤解されないように。 「……妹のことが、少し妬ましいんです」 自分でも意外な言葉だった。 勉強に対して、成果に対して、 自分が対価を欲しがっていることを示したかった。 けれど、言葉にした瞬間、胸の奥がざわついた。 「やっぱり、嘘です」 すぐに取り消した。 欲を見せた自分が、ひどく恥ずかしかった。 カウンセラーは、何も言わなかった。 一時間が過ぎた。 話した内容は多かったはずなのに、何を伝えられたのかは分からなかった。 最後に、カウンセラーは言った。 「家族のことも、自分のことも、自分の言葉で話せていた」 「それは、成長している証だよ。偉いね」 「でもね、成果を出すことだけが大事じゃないから」 カウンセラーは続けた。 「逃げてもいい」 悠心は、うなずいた。 どう偉いのか、どこが成長なのか、聞き返す気力はなかった。 「逃げてもいい」 その言葉を聞いたとき、胸の奥で何かがずれた。 逃げたくないわけじゃない。 ただ、自分が今ここに立っている、 その全ての理由を否定された気がした。 「ああ、この人とは合わない」 そう思った。 傷を見せないのは、身を守るための反応だ。 会って間もない相手に、すべてを差し出せるわけがない。 次の面談は、しばらく先だと言われた。 「ごめんね」と付け足されて、終わった。 部屋を出ると廊下は西陽を受け、 足元には奇怪な像を形作っていた。 もう一度ここに来たいとは、思えなかった。 ⸻ 第七章 − 非日常 ただの居場所。 ――だった。 看板は同じ場所にある。 駐車場も、白線も、広さも人も変わらない。 でも、立ち寄る余裕がなくなった。 教室を閉めたあと。 課外活動が終わったあと。 模試で衝撃を受けたあと。 足は、少しだけ迷ってから、家を向く。 誰も目の前にいなかった。 そんな日も、特別なことは何もなかった。 「今日は行かん」 「了解」 それだけ。 次の日、 その次の日、 誰とも話さなくなった。 自動ドアは、相も変わらずに開く。 よく知った制服に、知らない笑い声。 室外機の横に、もう荷物はない。 同じ時間に、同じ場所に立つことは、いつの間にか選択肢から消えていた。 理由はあるようで、ない。 進路、距離、忙しさ、 どれも正しくて、どれも決定打じゃない。 ただ、 同じ速度で流れていた時間が、少しずつ、別々の流れに分かれただけだ。 悠心は立ち止まらない。 振り返らない。 思い出そうともしない。 それでも、 横断歩道を渡る待ちの数秒で、 何かが一緒にすり減っていく。 学校では役割が増え、 家では立場が固まる。 そこは、もう「居場所」とは呼べなかった。 それだけのことだ。 それで、十分だった。 もう街灯はない。 ⸻ 第八章 − 思考の断片 日もその身を雲に隠す明け方。 悠心は一つのクッションに横たわり、目を閉じる。 窓の外では、朝の光と烏の声が交互に差し込む。 頭の中では、言葉が浮かんでは消えた。 腕を伸ばし、取り入れほやほやのシーツを握る。 ひんやりとした感触が現実を押し返す。 「動物って悲しい。行動のすべては、種の繁栄。ゴールの見えない長距離走」 思考は次々に重なる。 次第には空気清浄機の静かなうねりも 離れていった。 胸の奥がざわつき、呼吸が浅くなる。 「人間って愚かだ。無知に気づかず、正義に疑問を持たない」 それでも、頷けない自分がいる。 肩の力が抜けず、指先が軽く震えた。 「YESしか言えないロボットがいたら」 ありもしない幻想を思い描く。 思考が絡まるたび、胸の奥が締め付けられる。 それでも、ひとつだけ分かることがあった。 「いつも考えすぎ頑張りすぎ」 「いい事だけど、楽してこ」 誰かの笑顔、優しさのほんの断片だけが、 自分をここに留めている。 でも、それに触れることはできない。 触れてしまえば、相手を縛り、傷つける。 だから、また笑う。 声もなく、笑顔の隅で。 硝子の檻の中から。 ⸻ 第九章 − 昼のお散歩 教室では弁当をひとしきり取り終え、 みんなが箸を取り出して、 「いただきます」 と言う頃、悠心は、誰も居なくなった階段を転げ下り、勝手に出る足に運ばれる。 目的もなく、 ただひたすらに 学校の外周を辿る。 けれども長くは続かない。 目の前のモヤが晴れるまで、立ち止まる。 運動場の端でソフトボールの練習を眺め、 蟻一匹を見るため腰を下ろす。 どうしてお腹が空かないのかも、分からない。 ただ、人とご飯を食べる空気の中では、 息がうまくできなかった。 ⸻ 第十章 − グリコの論理 十一月模試当日の昼休み、 「グリコには不平等がある」と友人のAが言った。 「グーが弱すぎる。だからグーで勝ったら、グリコーゲンにするべきだ」 周囲が笑った。 軽い冗談として、場は受け取っていた。 悠心の中では、答えはすぐに出た。 けれど、それをそのまま口に出す気にはなれなかった。 否定すれば、空気が止まる。 彼は一度、視線を落とした。 相手の表情を見て、言葉を削った。 強い断定を外し、理由を省き、角が立たない形だけを残そうとした。 それでも足りない気がして、待った。 待っているうちに、何が正しい言い方なのか分からなくなった。 五分が過ぎた。 意を決して、悠心は話した。 「僕は、このゲームの醍醐味が、勝ち星の数だけで決まらない点だと思ってて」 一拍置いて、続ける。 「……今のままの方が、ちゃんと成立してるんじゃないかなって思うんだけど」 沈黙。 誰かが困ったように笑った。 別の誰かが、話題を探すように視線を泳がせた。 「ごめん、私社不だから分かんない」 その一言で、場は動いた。 笑いが起き、別の話が始まった。 悠心の言葉だけが、そこに残らなかった。 「えっ?」と声に出たかどうかは、自分でも分からない。 ただ、五分間考えた時間ごと、なかったことにされた気がした。 模試で四時間格闘したあとの頭には、 その小さな出来事が、あまりにも鈍く残った。 腹の奥が痛んだ。 視界がにじんだ。 悠心はトイレに逃げ込み、ズボンも下ろさないまま便座の上で十分間、小さく丸まっていた。 英語の残り時間は、五十分。 全てを投げ出してしまいたかった。 けれど、その瞬間、ふと一つの言葉が浮かんだ。 以前、何気なくかけられた、優しい一言。 それが頭の中で反芻されている間だけ、崩れずにいられた。 それ以上の意味はなかった。 ただ、動く理由としては十分だった。 椅子に戻った。 前に進めたわけじゃない。 ただ、崩れきらずに、そこに座ることはできた。 ⸻ 第十一章 − 反省文 日はまた昇る。 階段を降りながら、悠心はスマホを見ていた。 見ていた、というより、 そこに視線を預けていた。 歩きスマホ。 その言葉が一瞬、頭をよぎる。 でも指は止まらない。 写真フォルダが開く。 意味はない。 ただ、何かを見ていないと落ち着かなかった。 踊り場で、ふと我に返る。 悠心は、両手でスマホを持ち直した。 どこかで見た「正しいスマホの持ち方」。 目から三十センチ。 背筋を伸ばす。 これでいい。 笑みが自然に溢れた。 その瞬間、声が落ちてきた。 「歩きスマホはやめなさい」 三年の先生が、下から登ってくる。 言葉は短く、判断は早い。 反射的に、悠心は何も映っていない画面を差し出した。 それが、間違いだった。 次の瞬間、理解した。 端から見れば、階段を降りながらスマホを持つ生徒でしかない。 正しいかどうかは、関係ない。 見えたものが、すべてだ。 遅すぎた。 胸の奥が、じわっと熱くなる。 恥ずかしさと、悔しさと、言葉に出来ない何か。 逆上してはダメ。 逆上してはダメ。 逆上してはダメ。 呪文のように繰り返す。 五分で、要求されてもいない反省文を書いた。 「私は階段を降りる際にスマホを使用していました」 指は迷わない。 定型文。 謝罪。 対策。 「今後はポケットに入れて移動します」 完璧だ。 減点される要素は、ない。 心の中で、声がする。 ――言われて五分で書いたぜ。ドヤ。 すぐに、自嘲に変わった。 笑っているのは、誰だ。 自分か。 それとも、もっと遠い何かか。 メモを閉じる。 何事もなかったように。 でも、胸の奥には、 小さな棘が残ったままだった。 悪かったのは自分だ。 それは分かっている。 だからこそ、 この反省は、どこにも行場がない。 階段を降りる。 もうスマホは見ない。 それでも、 身体のどこかが、ずっと身構えたままだった。 ⸻ 第十二章 − 窓越し 運動場の端で腰を下ろしていると、 手を洗う先生の顔が窓越しに見えた。 その先生はこちらを見て、 軽く笑って手を振った。 それだけだった。 呼ばれもしなかったし、 近づいてもこなかった。 影はそのまま、校舎の中に戻っていった。 それでも、 立ち上がるには十分だった。 手元のサムズアップに、少しの気恥ずかしさを覚えた。 ⸻ 最終章 − 硝子の檻 教室。課題が次々と積まれていく。 スマホを握り、画面をスクロールするたび、脳は理想と比較に焼かれる。 現実の自分が、遠くなる。 それでも、目の前の人に微笑む。 「大丈夫?」 「うん、大丈夫」 周囲は言う。 「賢い」「変わってる」「すごい人」 でも誰も知らない。 硝子の檻の中で、悠心は震えている。 肩がずしりと重く、指先まで微かに震えるのを感じた。 透明な壁越しに、手を伸ばしている。 夜。スマホに文字を打つ。 「僕はもう十分頑張った」 「けれども、一日は明日も変わらない。今まで通り、今後ともよろしくお願いします」 窓の外では、夏の虫たちが鳴く。 あの頃、図鑑を片手に追いかけた虫たちが、今も響く。 悠心は目を閉じる。 明日も、また笑顔で学校に行く。 硝子の檻の中で。 誰にも見られない重荷を抱えながら。 それでも、立っていられることを、かすかに感じて。 ⸻ エピローグ 今、悠心という僕は精神科に行きたいらしい。まだ行けていない。 つい先日、母は予約を忘れていた事を 僕に打ち明けてくれた。 「お母さんは忙しいの。お前は勉強ばっかりでいいのにね」 もう一度伝えた。 「病院に行きたい」 「本当に? 就職に不利になるよ」 それ以上、言葉は続かなかった。 何も変わらない。 友人は優しい。 長い文章をくれる。心配してくれる。 でも、それが恐い。 甘えていると分かっている。 距離を取ろうとしている。 それでも、その優しさだけが、自分をここに留めている。 毎日、学校には行っている。 笑顔で、「大丈夫」と答えている。 授業に出て、模試を受ける。 機能はしているはずだ。 中身を伴わなくとも。
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硝子の檻 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 56.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2 時間前
コメント日時 15 分前
| 項目 | 全期間(2026/01/30現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


補足です。 高校生の語り手が、他者との距離や「優しさ」によってかろうじて日常に留まっている感覚を描いた連作小説です。 明確な事件や救済はありませんが、思考・身体・会話の断片を通して、硝子越しに世界を見る感覚を辿りました。 一部、私的体験を下敷きにしていますが、表現として再構成しています。ご批評いただければ幸いです。
0はい、読んでみてください。というので、 ザアッとですが眼を通してみました。 悠心?ですか。主人公は。 この物語はその悠心以外誰も姿を見せていない。 なので、物語る小説というよりは独白日記近いですね。 と感じます。 歴史に沿って時間も進まないので空間も読めないし場面の展開も乏しいのです。 ちゃんと期間を設定して短い文章から入られるほうがいいでしょうね。 厳しいコメントになりますが、 これをどのような作品として読み手に促すのか、 そんな必然性も感知できませんでした。 文学作品読んでますか? 例えば「罪と罰」笑 夏目漱石でもいい。 構成から表現としての文章。 古典はいい勉強になりますよ。頑張って励んでください。
1わたしはグリコ遊びを知らなかったので興味をそそられました。 全章が知的な自己洞察と人生へのふるえるような思いに満ちていて圧巻ですが、 とくにグリコ遊びの十章と次の十一章の反省文のエピソードがわたしには鮮烈でした。 わたしは大阪文学学校というところで三年間、日本でも有数の詩人たちや作家の 厳しい薫陶を受けて詩と小説を学んだことがあり、また、当時書いた小説はどこでも 結構、絶賛されていますから、この小説と詩の中間のような鮮烈な文芸作品の価値を ある程度、正確に評価できます。一言で言って巷の「消費される物語」とは一線を画す、 書き手の知性と感受性が結晶化した見事な文章です。そして、 これほどのものを書く人がいることを知って、とてもうれしいです。 御本人もこれほどの力量があるのだから、ご自分の才能をある程度はわかっておられる でしょう。この小説(あるいは長編詩といってもいい)をみなさんに読んでほしい。 とくに十一章。投稿者はこれに注目していただきたい。
0失礼。上のコメントはアラガイ氏ではなく作品への 感想コメントです。
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