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コント原稿 怪談 廃病院
(カギ括弧はツッコミ それ以外はボケ兼ナレーター) 山の中の、真っ暗な夜の廃病院にゆっくりと近づく人影がありました。 罰ゲームとして一人の男が肝試しをすることになったのです。 「あーもう。怖いなあ。あの時すぐにハートのエースを出しとけばこんなところに来ることもなかったのに。入ったらすぐ帰ろ」 不思議と鍵がかかっていないガラス張りの扉を、ぎぃ、と錆びた音を鳴らし入って行きます。 空気が、むわりと絡みついてくる。 「うわ、なんだ。凄い湿気だ」 思わず壁をまさぐる。 「いや、電気なんか通ってないだろ」 カチリ。 ぱあっと病院のロビーに明かりが灯る。 思わず振り返ると! 「いや、何かいる!」 まずすぐそこ、先頭にホルスタイン。 それに続きましてジャージー。 診察室から黒毛和牛。褐毛和牛も続いてくる。男子トイレからは日本短角、女子トイレはガンジーだ。 おおっとレントゲン室から勢いよくブラウンスイス! ナース室から回り込んでヘレフォード、受付室から無角和種! 大穴・アンガスも食らいついてくる! そして全牛一斉に! ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 「競馬実況か!」 うしうしうしうしと大津波! 「なんで牛がいるんだよ!」 だって牛だから仕方ない! 「どんな理屈だよ!」 ふんふんふんふんふんふんふんふん、と煙り立ち鼻息がまるで加湿器だ! 「湿気の原因これ?」 好奇心任せに、全牛一斉に勢いよく匂いを嗅いでくる! 「あーもう、帰るわ!」 ばたん 開いていた扉が閉まった。 それと同時に灯りも消えた。 「え? 何?」 さっきは錆びながらもなんとか開いた扉が、鍵が何十にも掛けられたかのように、動かない。 「え、嘘だろ?」 しいんと病院は静まり返っている。 「……さっきのは?」 何もいない。 「……え?」 病院内には牛臭さだけが残っている。 「実在はしてるの?」 カツン。カツン。 地下へ、漆黒の闇の中へ。 階段を下っていく。 「あれ、懐中電灯が」 事前に点検しておいた懐中電灯が暗くなっていき、ほんの僅かな光だけを照らす。 足元さえもおぼつかない。 「でも行かないと」 何かに誘われるかのように、足がすくみつつ、全身がこわばりつつ、進んでいく。 電灯が、一つの看板を照らす。 「安置所だ」 病院内で亡くなった人を、安置する部屋。 ここに足を踏み入れる。 鍵は、かかっていない。 ぎいい、とゆっくりと開いた。 すると突然、指に何かが絡みつく。 ぬめる触手の様な湿った柔らかい物体が襲い掛かる! 「なんだこれ? 気持ち悪い!」 ちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅく と大合唱! そんな音が指に、腕に、膝に、肘に、靴に、尻に! 「てか、何が起きてるの?」 突然、懐中電灯が絶好調になって部屋全体を明るく照らし出した! 「いきなり? 眩しい!」 見れば部屋中ぎっしりと、生後間もない子牛たち! 床に敷き詰められた麦わらの上には空になった哺乳瓶が散らかり、いろんな品種の子牛たちがミルク足りないとしゃぶりついて襲い掛かる! 「何でだよ!」 頭突きも織り交ぜつつ! 「痛いわ!」 股間への頭突きは洒落にならない! 「そこはやめて!」 それでも続く、ちゅっちゅく音! 「なんで安置所に子牛を飼っているんだよ!」 だって牛だし! 「理由になっていない!」 ちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅくちゅっちゅく と子牛の食欲の進撃は止まらない! んべえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ! ミルクくれ、そんな声が元気よく轟いた! 「止めんかい!」 その声と同時に。 懐中電灯が切れた。 「え?」 何も見えない。あれだけまとわりついていた生き物の感触が、気配さえも消える。 「またじゃないか」 ただ。 「痛て!」 尻への頭突きがしつこく続く! 「明らかに何もいないのに、尻が痛い!」 延々と続く尻リフティング。 「地味に凄く痛い!」 それが誘う先は。 「手術室?」 パッと手術中の明かりが灯り、一人でに扉が開いた! するとそこには。 「牛だろどうせ!」 出産中の牛! 産道より、大きな足が二本飛び出ている! 「リアルで手術が必要そうな事態だよ! 緊急事態だろこれ!」 扉からもう一人、入って来る。 「あ、すいません。やっぱここって牛の病院」 農家の親父だ。 「医者じゃないの?!」 お前も手伝えと、親父。 「え、僕関係ない……」 親父にそんな常識は通じない。 「え、どうすれば」 いいからやれ。 親父にそんな理屈も通じない! 「ええ!」 母牛は苦しそうにいきむ。 いきみに合わせて親父と一緒に、子牛の足を引っ張り出す! 周囲にはホルスタインが、ジャージーが、黒毛和牛、褐毛和牛、日本短角、無角和種、ガンジー、ブラウンスイス、ヘレフォード、アンガスが取り囲み、フンフンフンと匂いを嗅ぐ! 「お前らこっちにいたの?」 猫の手はなくとも牛の鼻は無数にある! 「使えねぇぇぇ!」 子牛たちは尻に頭突きをまだまだし続ける! 「あっち行けぇぇぇ!」 そして各牛一斉に! ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! んべええええええええええええええええええええええええええええええええええええ! 「うるせぇえええええええええ!」 牛たちは空気を読まず、出産の状況は進んでいく! 「あ、やべ」 親父と共にタイミングを合わせ、産まれてくる子牛の足を引っ張って、足と手と背筋が限界を超えようとしている中、牛たちは懲りずにクンクンクンと鼻を近づける! 「邪魔だああああ!」 母牛の産道から、ぬるりと頭が出た。 「産まれた?」 親父の指示通り、ゆっくりと足を引いていく。 そして、後ろ足まで出た。 産まれてきた子牛。頭を上げた。 よし無事に産まれた、親父がそうつぶやいた。 その時だった。 す、っと誰もいなくなった。 「え?」 気が付けば、周囲は暗い。 しぃんと。静まり返った。 誰もいない。 音もなく手術室の扉が開いた。 朝日が、差し込んでくる。 「もう、朝か」 まるでさっきまでの出来事が嘘のよう。 「何だったんだ?」 でも匂いが、牛の濃厚すぎる湿りついた匂いがむぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっと鼻の奥を貫いた。 「だからくせぇよ!」 朝日の下、廃病院を後にします。 一体何だったのか、頭を捻りながら。 「本当に現実だったのか」 そしてその日からふと感じるのです。 うしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうしうし という牛の気配を! 「だから何この表現!」 そんな牛の存在を感じ、なんだか幸せな気持ちになりましたとさ。 めでたしめでたし。 「怪談をめでたしで終わらすな! 昔話か! 何なんだよ!」 だって農家の親父と牛だし! 「どんな理屈だよ! もういいよ!」 ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 「もー勘弁してぇ!」
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コント原稿 怪談 廃病院 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 208.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2026-01-27
コメント日時 2026-01-27
| 項目 | 全期間(2026/01/28現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
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