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星を享受する
師走の頭、私は精神科を訪ねていました。 そこはかねてから通っていたなじみのある病院で、初めて通ったとき私は虎の待ち構える門をくぐるような気分で、その虎に身の上を話したらあっけなく一蹴され、そのままぱくりと食われてしまわないか非常に心細かった。 私は浅くて濃い夢を見ているような気分になり、支離滅裂ながら必死に自分の身の上を語った。 どう辛いのか、いつからなのか、どんな異変が起きているのか。 すべてを聞き終えた後、医師は優しく笑い。 「複雑な症状故に判断は難しい、また後日来れば診断書を出す。」 と言ってくれた。 単純な私はこの医者が自分のくだらない不幸語りを聞いてくれたというだけで心を許してしまった。 今日ここへ再び訪れたとき、彼は以前とは違い私につっけんどんな態度をとった。 診断書は出してもらえなかった、病名は休学のために出された間に合わせの診断書に描かれた「抑うつ」のみ。 私は診察室を出てて沈むように椅子に座り込み。 「よかった、よかった」と自分が誰でも耐えうる苦痛で惨めったらしく喚いた事実、私はまだ健常であったという事実に挟まれ、徐々に地面に沈んでゆく、そんな予感がした。 帰りの電車では付き添いの祖母には何も話さなかった。 しかし家に着くなり、私は人目に付くようにわざと間に合わせの診断書を机の上に置いておいた。 私のなんとなくの予想通り、その日の夜に私を父は訪ねてきた。 どうやら私が病気でないと知りひどく安心した様子で 「よかったぁ、いや、よかったなぁ」 と情けない顔と声で言った。 その顔と声は、実に、ずるかった。 私はやはり、板挟みなのであった。
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星を享受する ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 37.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 5 時間前
コメント日時 4 時間前
| 項目 | 全期間(2025/12/18現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


う~ん。わたしは無学無知のぼんくらなので、 「星」ってものについてあまり考えたことがなかったのですが この「星」ってやつの、なんというか暗喩性というのかな、 比喩の多様性というか、かなり意味深で奥が深いものだったのだな と初めて気がついたという感じです。 正直、他人の不幸にはあまり関心がなく、 てめえが不幸のかたまりのくせに人さまの喜ぶ姿をみるのが うれしい質なので書き手が孤独だろうが板挟みだろうがどうでもいいと いうわけじゃないのですがあまりナニではなく、 むしろこの書き手の家庭というものが、かなり息子というか孫の 状態に気を使っていて祖母が精神科にまでついていくという。 精神科というのはこれは家庭にとって近所付き合いのモンダイだか らなにもなくてよかったという父親の安堵は当然、社会的な 地位が脅かされなくてよかったということにつながるわけで、そこ が身体的な病いとはちがうのでしょうけど、う~ん、 アルタイルとしての星、という意味で読めばいいのか、あるいは 真っ暗な闇だから輝く星として読めばいいのか、さまざまな解釈 のできる散文でした。ただ、描かれていたのは要するに自分のこと でもなければ医師や病気のことではなく父親の態度の、あるいは 家庭というものの在り方なんでしょうね、ボンクラなのであまりよ くわかりませんでした。
0訂正 末尾から六行目、アルタイル→アスタリスクです。 医学用語としては異常や問題があった項目の脇に つける星印のことです。 寝起きで頭がぼうっとしていました。 ご容赦。
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