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グラウンド・ゼロ
巡り合わせるはずのなかった、歴史の河の最果てを引き受けた両脚で、 僕らは走るけれど、 長い間、降りしきった雨が固めていた土を、 ほんの少しの助走さえ付けずに蹴り飛ばして生まれる、 最高時速をもってさえ、 時間の支配下で燃える太陽に追いつく事すら、 およそ不可能な、夢見る熟れたい雛たちだ。 そして、東の空を染め抜いた馬鹿でかい火の玉に温められて、 ただ、海を目指し歩いていく。 後ろから、"早く行け"と急かされて踏み出したから。 それだけの僕らに与えられた場所が、 どれだけ、見放された生命の吹き溜まりのような谷底でも、 いつだってそこが地球の中心でないわけがなく、 点々と大地に散らばり、ぽかんと空に向けて口を開け、 流れる雲を睨みつけているその陥没とは、 呪いみたいに、"泣いたら負けだ"と呟いて、 誰も慰めてくれない人生の虚しさに思い当たる、 胸中の節穴? 毛布の中に冷たい隙間風を招き入れる、 退屈な日々の惰性にぽっかり空いた、 まだ塞がれていないだけの、鉄臭い風穴? たかだか人間風情な僕の、しぶとくて拭えない自業自得が、 すっぽり収まる形に掘り進められた墓穴? いずれでも、ほんの一寸先で光る一秒だけを追いかけて、 勢い余っても滑落せずに済むくらいの身のこなしで、 野良育ちの純情が埋まる地雷原を走り去り、 惑星の自転周期に追いつく速度で、 地球の軌道を逆走して、 正午の日差しが僕らの頭上で永遠になったら、 僕らを長い事悩ませてきた日付や季節にまつわるどさくさの片付けを、 ようやく僕らは始めるんだ。 ************ 天国まで積み上げられるほどにあり余る美徳なんて、 僕らは誰にも頼んでいないから、 次の宇宙へ連れていく記憶の断片を一つ選ぶ時、 昨日以前しか覚えていられない僕らには、 要らないものが多すぎる。 そして、地平線の淵の端のさらにへりの両側からそれらを、 寝付けない文明の長い夜の歴史や、 諍いの合間に忘れ去られた希望の塵芥を、 まとめて一思いに放り捨てて、 汚泥と疲労の詰まった爪先が向く方角だけが常に、 僕らにとっての、 止まるべきじゃない"前"になる。 そこから距離にして4万キロ先まで、 多くの無念と数多の罪を見下ろして滑走し、 この場所にまた帰り着いた時はじめて、 一切の憎しみにも敗れる事のない、愛の上に立っていられたりするのだろうか。 この時空で最初の爆発のあとに生まれたまだ別れる前の歴史、 汲みたてのソーラーエネルギーが満ち満ちる水源地の若草や、 惑星自転の遠心力に負けて、 大気圏の風穴から銀河系外へ放り出され、 星屑になった産業廃棄物とか、 君の不在を見落として今日も世界を回し続ける、 節穴みたいな神の眼。 これらはどれも、僕らの生命が事切れて、 膨らみ続ける宇宙に浮かぶ星雲の砂となって、 何百何万という星団のどれに加わったかも知れない、数億年先の夜空に浮かび上がり、 初めて瞬いて見せるのだろう。 僕らの懐かしさに書き記された、138億語にわたる物語とは、 次元の狭間に詰め込まれた無数のその煌々から、 この宇宙をかっ広げてみせた奇跡の名残。 それでも、これはまだ序章にすぎない。 聞き覚えある声と、あらゆる無音、 見つめざるを得ない現実と、街の視界から芽を摘まれてきた真実、 つまり、ここにある全部と、ないものの全てを、 陸海空、隙間なく張り巡らされた万物の方程式に、 代入して。演算して。 この昼夜を流れる分子や粒子の、 不規則で、複雑な"模様"としての僕は、 放射状にその解を放つ等号。
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グラウンド・ゼロ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 243.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-12-10
コメント日時 2025-12-10
| 項目 | 全期間(2025/12/13現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文

