別枠表示
闇の住人
たぶん、こんな僕でも人を愛することができると思うんだ。邪魔し てるのは僕自身の精神と心だ。精神病患者の僕が言うんだから間違 いないよ。 今日もまっくらやみの部屋で眼が覚めた。 孤独な僕の部屋は自分の部屋も心の部屋もまっくらだ。 僕には友達はいない。もちろん恋人もいない。 でもそれが不満なわけじゃない。 かといって満足してるわけじゃない。 仕方ないなって思ってるだけだ。 光は信用できない、他人も信用できない。 どちらも僕を傷つけるだけの存在だ。 信用できるのはママとパパだけだ。だから毎日、僕はママとパパに 殺してもらう。ママはいつもナイフを使う。ママに心臓をゆっくり と刺されているときのあの至福の時間は何者にも代えられない。パ パはだいたいいつも首をゆっくりと絞める。パパの逞しい腕で窒息 していくのは最高のエクスタシーだ。 僕は殺されないと眠りにつけない。実際に殺されるわけじゃない。そ うしないと眠れないのだ。重度の不眠症だ。薬も飲んでるけどそれだ けじゃ不十分だ。先生もときどきは両親に殺されなさいと言ってくれ ている。 僕はその日もママに殺されようとしていた。ママは薄暗い部屋のなか でダミーナイフを取り出した。今日は僕の性器を切り取るらしい。そ れでも死ねるのだろうか。ママはダミーナイフでゆっくりと僕の性器 をなぞった。性器が切り取られていく感覚。薄暗い部屋のなかでこの 感覚は僕にとっては本物だ。血がどんどん溢れ出る。こうして何リッ トルかの血がなくなると僕は失血死するのだ。そうしないと僕は眠れ ないのだ。まだ毛が生え始めたばかりの性器をママがすっかり切り終 えるころ、僕にもやっと眠りがおとずれる。 眩しい、朝だ、光の幻覚だ。僕の部屋には光が入らないようになって いるから、これは眠りから覚めるための幻覚だ。 部屋から出て、リビングに来た。リビングのカーテンが開いていて、 光が入って来ていた。僕はその光を避けるようにキッチンへ向かった。 僕は光を浴びると火傷する。正確には火傷する幻覚を見る。 今日の朝の食卓はハムエッグを乗せたパンと紅茶だった。チャイと言 われるインドのスパイス入りミルクティーだ。 僕の父はインド人で、母は日本人だ。今はインドの日本人学校へ通っ ている。 全身を覆うカーテンのような服装が僕の日常だ。光を通さないように 真っ黒な色で出来ている。そんな僕はみんなから死神の子供と噂され ている。僕には極度の被害妄想があるので、それがいじめなのかどう か正確な判断はできない。 孤独が好きなのもそれが原因のひとつだ。 とくん、心臓がわずかに鼓動した。とくんとくん、そのまま鼓動が少 しずつ早くなる。クラスメイトの紗季がそこにいた。紗季は僕に気づ いて振り向くと笑顔で挨拶してくれた。僕の心臓は早鐘のように鳴っ た。こんな僕でも人を愛せるかもしれないと考えさせてくれるのが彼 女だった。 僕は彼女と一緒に死にたい。僕はママに殺してもらうから、君はパパ に殺してもらうといい。そうして安らかな夢の世界で生きていこう、 それが僕の妄想であり理想の関係だ。 光だ。紗季、君は暗闇の世界でしか生きれない僕を光へと導いてくれ る女神だ。僕は君のためなら死神だって悪魔だって何にだってなる。 僕の病気は治る見込みが今のところない。 紗季、君を僕の世界の住人にしたい。 そのためには何が必要なのだろうか? 夕暮れが訪れた。これから世界は徐々に闇に染まってゆく。心身も闇 に近づくにつれ元気になってゆく。早く部屋に返ってこのうっとうし いカーテンみたいな服を脱ぎたい。 紗季がさよなら! と声をかけてくれた。ああ、もうさようならなの か、君をこの手で絞め殺したい。そして悪夢のような(僕にとっては天 国のような)世界で共に目覚めたい。 たぶん、こんな僕でも人を愛することが出来ると思うんだ。 根拠はないけど、何かを信じて生きることが僕には必要だと両親も医 師も先生も言ってくれている。紗季、僕には君が必要だ。いつか迎え にいくから待っていて欲しい。
ログインしてコメントを書く
闇の住人 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 322.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 140
作成日時 2025-11-15
コメント日時 2025-11-16
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 10 | 10 |
| 前衛性 | 3 | 3 |
| 可読性 | 8 | 8 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 114 | 114 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 5 | 5 |
| 総合ポイント | 140 | 140 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 10 | 10 |
| 前衛性 | 3 | 3 |
| 可読性 | 8 | 8 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 114 | 114 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 5 | 5 |
| 総合 | 140 | 140 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


構想はおもしろいですね。 短編小説のように読みましたが、読みやすい文章もお上手に書けてます。 あと、スペースに余裕があるので改行はできるだけ句読点に配慮してください。笑(希望。見た目のスタイルを気にされているのかも) クラスメートの紗季も唐突に出現するので、少し不満。 後は終わり方ですね。 このままの状況で終えてしまうんだ。 何気ない朝食のシーンとかで日常風景に帰らないのか? と思ってしまった。 まあ、描写的にはスタンダードですが、 一捻りしても委員会。 いいんじゃないのかと思いました。
0メルモsアラガイsさま コメントありがとうございます。 詩というよりは掌編小説のようになってしまいました。 特に見せ場もなく終わってしまうので、そのへんは作者も反省しています。 もっと形を変えてちゃんとした詩か連作小説にでもしたいと思ってます。
0