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星と共に歩く隠者の唄
Song of Ⅸ Who Walks with ⅩⅦ わたし、話すときに台本とか 吹き出しとか持たない人なんですけど カウンセリングって言うなら確かにそうですね こんな雑用押し付けてすみませんね えーっと、死神からは わたしが異動してきたところまで 聞いてたんですよね? 話したいことはアマゾン河 みたいにあるんですが 異動当時、いじめかと思いました わたしの分のマウスがなくて 仕方なく個人のマウスを持っていっても 翌日にはどっか消えてて 犯人、星でした 訴えようと思いました 野郎、無刻印のキーボードで 優雅に働いていやがってて 「マウスがないと働けない」 とわたしが言うと 「キーボードでもいいじゃん」 と言われ 訴訟ゲージが一段階上がりました 野郎の使っていたエディタは ペアプロダクションに向いていない プロ用の怪しいソフトウェアでした 「よく練習されましたこと」 と扇子を仰いで、わたしが言うと 「ごめん」 と言われ、マウスを戻してくれました 訴訟ゲージが一段階下がりました そうですね、わたしが星に告白されたのは この頃だったと思いますが なんででしょうね? わたし、何かやらかしましたか? 「愛してるよ、君の欲しいものは何?」 に対して 「付箋とスティックのり、あと修正液を3本ずつ。ボールペンの替芯5本。黒のエナージェル0.5で」 と要求したところ、 「あっ、ごめん」 と謝られました 一応物は運んでくれたんですけど わたし、何かやらかしました? 話を聞くと、頑張っている人が 報われて欲しい、というだけでした あの執着とかけ離れて爽やかだ、と思いました 悪魔とハルさんとで 昼食の弁当をつつきます、 ロアちゃんは回復してきてて はつらつかわいい笑顔が見れました ハルさんも友達が楽しそうで しっとりとした笑顔が見れました これ、わたし特等席ですからね 誰にもヴィジョンは渡しません 昼食後、また仕事、 憂鬱を吹き飛ばす衝撃が 隣の席に座っていました なんと星は、茶色いヤギのぬいぐるみを 膝に乗せて、撫でていました まるで子どもを撫でるかのように やさしいその目線は…… まだ、ロアちゃんを、 悪魔を諦めていない、 ということなのでしょう 「かわいいよね」 「かわいいですよね」 「悪魔の背中ってどんな手触りなのかな」 やばいな、と思いました わたしは話を急転換しようとしました 「すいません、そのぬいぐるみってどこのメーカーですか? 毛並みが良くて造りが丁寧ですよね、わたしも欲しくなってきました」 星は急な話に、ちょっと嬉しそうに、 「卓上サイズしか今在庫ないけど、いい?」 と聞いてきました わたしはうなずき、カードが決済されました 誰かの肌に飢えているわけではなかった、 ただ話を受け止めて欲しかっただけ、 星の印象は、わたしからはこうでした 届いた荷物に、届いた荷物 ハルさん、ロアちゃんを守って そう願いながら 卓上にわたしのヤギと、サソリのフィギュア 星にはちょっと驚かれましたが 星の抱えるものと、気温が一致して 魚を安心して放てるぐらいに 彼が馴染んだころに わたしは質問したのです、 「あなたは、誰かに幸せになってほしいだけですよね?」 あっけなく、「そうだよ」と、 星は返しました わたしは質問したのです、 「あなたは幸せなんですか?」 星は目を逸らしました 逸らした先にいたのは、 悪魔と死神、 彼らは星に気づかずに 下の階で笑い合っている 話に花を咲かせている彼らを 星は善し、と認めたのでしょうか 「僕の好きな人が幸せでいてくれたら、僕も幸せになれるよ」と、 星は言ってのけたのです 彼はここまで見通していたのでしょうか だから悪魔を追い詰め、転勤するまで 愛したのでしょうか 自己犠牲もはなはだしい、 他人の幸せのために、 致命傷を負われると困るから、 「じゃあ次はそのヤギのぬいぐるみを幸せにしてあげてくださいね」 と、わたしは提案したのです それから、星の引き出しには 異常な量のシャンプーやリンス 夥しい量のチモシーなどが 詰まって、わたしが困ってるんですよ 何もそこまでやる必要ないですよね? わたしも対抗してハエトリグサを デスクに導入してからは 拮抗するようになってきたのですが わたし、ときどき怖くなるんです チモシーを食べているような音がして まるで生きているみたいなんですよ ヤギのぬいぐるみが ブラッシングもされて毛並みもいいし ぬいぐるみで済んでるだけマシというか 今後、牧場にでも異動させましょうかね ご静聴、ありがとうございました
星と共に歩く隠者の唄 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 389.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-10-27
コメント日時 2025-10-31
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


ヤギのぬいぐるみが印象的なのですが、やはりビジネス、オフィス街、会社の中の、サイバー環境の中のすったもんだ。一貫したわたしの語り。スイートな印象はないのですが、透明な自我が、空気を調理しているような、そんな感じを持ちました。実際は、人形にしても、マウスのエピソードにしても、具体的な内容を持っているので、あくまで感じを持ったと言う事で、具体的な内容にはそれなりに具体的な内容に即して感じるものがありました。
0いつもコメントありがとうございます。 >ヤギのぬいぐるみが印象的なのですが 作中のヤギのぬいぐるみ、隠者が言及していたように「まだ星が悪魔を想っている証拠」のようなものです。 そもそも、なぜ一動物のヤギが悪魔と結び付けられたかと言うと、聖書の影響(従順な人をヒツジ、あまり従わない人をヤギに例えている)からなんですよね。実在のヤギはぐいぐい山を登って山上の塩を舐めに行くところがあります。あと1頭だけだと寂しがってめちゃくちゃメーメー鳴きます。可愛くて賢い生き物です。
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