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少年Bは靴が履けない
少年Bは靴を履くのが苦手だった。みんなはすっすと足を入れ、滑らかに外に出る。少年は足をもぞもぞ。床にずりずり。そしてやっと履き終わる。こんな具合なので、いつも昇降口を詰まらせている。 ねぇ、早く履いてほしいのだけど あっ、えっ、うぉ、うン ねぇねぇ早くどいてほしいの あっ、とぉ、うぁ、うン 言葉と目線の責め苦。大量の靴からあふれでる皮脂や汗のにおい。うまく息もできなかった。はやくここをでたい。はやくはかなきゃ。焦れば焦るほど足は言うことを聞かなくなる。いっそ、このまま縮んで踏み潰されてしまった方がいい。少年はうううと唸って頭を丸めこむ。 「靴紐を少し緩めてみたらいいわ。」 声が降ってきた。澱んだ空気を斬る澄んだ音だった。けんけん歩きで外に出て脇にしゃがみ、言われた通りに結び直し、足を入れてみる。するりと素直に収まった。こんなに簡単なことだったんだ。早く帰ろうと駆け出しかけて、少女の声を思い出す。そういえば、ゆってない。 「ありがとう!ありがとう!」 校門に向かって叫んだ。1人、立ち止まってこちらを見た気がした。伝わったかな。ンふふと少年は笑った。それから、少年は昇降口を塞がなくなった。スニーカーは少し踵に隙間ができて、歩くたびに生地がチクチクあたってどうも気になる。どうやら、これも少年Bの苦手な感覚らしかった。それでもあの縮こまりたくなる衝動に比べればマシなので、彼の毎日は幾分か穏やかだ。ふん、ふふん。ふふん、ふん。 しあわせはぁ あるいてこないぃ だぁから あるいてゆくンだねぇえ 少年Bは今日もゆく。
少年Bは靴が履けない ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 467.8
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-09-25
コメント日時 2025-09-28
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


おはようございます。 >>言葉と目線の責め苦。 という一文が印象的です。 集団の中で自分1人がもたついてしまう時の、恐怖の汗が上手く描かれていると 感じました。
1コメントありがとうございます。 特に気持ちをこめて書いた部分を褒めていただけて嬉しいです。
0他人に迷惑をかけたくないという丁寧心の中にある保身と、それが解消された時の安堵感。とても愛苦しく描いていてほっこり心が和む文章でした。
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