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明日は天気になりますように
誇れる物など何も無い。 鏡が割れているのかと思うほど、欠けて歪んだ私の肉は、行き交う人が掠めれば、不快に眉をへし曲げた。 頭蓋に詰まった智慧の実は、熟れて熟して腐り落ち、蝿がたかってつつかれて、蛆湧く果肉で出た汁が、絞った智慧は遅れ落ち、鼻を摘んで皆避けた。 動かす手足は木偶人形。 上から垂れる糸は切れ、大手を振ってみてみても、ろくに動かぬガラクタ模様。 育てた父には叱られて、産んだ母にも笑われて、導く師には手放され、同期の士には足蹴にされる。 私は弱い。 何処までも。 私は醜い。 いつまでも。 どうせ、世の中、不条理だ。 生まれで全てが決まるのだ。 皆が、微笑み歩く道。 そこを私は歩けない。 何処までいっても草藪で、すれて切られて虫刺され。 だから、いいだろ妬んでも。 そうだ、いいだろ恨んでも。 私は、皆とは違うのだから。 私は、変わる事など出来ぬのだから。 許してくれよ、強いのだろう? 恵まれ、愛され、求められ。 そんな甘美にいるのだろう? ならば、多少の苦味くらい。 受け入れてくれてもいいだろう? …ああ、分かっているとも。 これは甘えだ。 強い者への縋りつき。 助けてくれとの意思表示。 自分はこんなに不幸だと。 自分はこんなに哀れだと。 自分はこんなに惨めだと。 自分はこんなに不足だと。 自分はこんなに悲観だと。 自分はこんなに不満だと。 構ってほしくて、仕方なく。 愛してほしくて、仕方なく。 お稚児の駄々と同じくに、強い者へと当たるのだ。 あぁ、嫌だ、嫌だな、消えたいな。 どうして、産んでくれたのか。 こんな惨めな日々ならば、無であったほうがマシだった。 弱き己が疎ましい。 強き者が妬ましい。 廻る混濁、思考の螺旋。 あぁ、弱きは生きづらい。 手首添えたる、鋏の光。 鈍く返って瞳に映る。 あぁ、これでやっと楽になれる。 終わりを迎えて楽になれる。 苦悩の日々から逃げられる。 ……だというのに、どうしてだ。 何故、その刃を振らぬのだ。 何故、涙を流すのだ。 何故、終わろうとしないのだ。 崩れ落ちたる、我が身はそうだ。 何処まで行っても浅ましい。 そうだ。そうだ。ああ、そうだ。 ここまで、惨めを噛み締めても。 幸福の2文字を諦め切れない。 生きて、至福を味わいたい。 誰かに愛され、認めて欲しい。 それが私の真心だ。 偽り出来ぬ本心だ。 窓を眺めて空を見た。 暁色の東日は、闇を照らすに細すぎる。 今の私はそれで良い。 全てを照らすは出来はしない。 それは私に不領分。 届かぬ光はまた別の、強き者が照らす場所。 私の光を探しに行こう。 わずかに晒した陽だまりを、そこにいる誰かの元へ行こう。 この世に生まれてただ1人。 惨めに苦しみ生きるなど。 嫌だ嫌だと醜く足掻く、私の友に会いに行こう。 明日は天気になりますように。 そんな甘言、信じはしないが。 あえて、愚者になってみようか。 明日は天気になりますように。
明日は天気になりますように ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 367.6
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-07-23
コメント日時 2025-07-23
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


本当は力があるものほど、現状に満足しない自分を見付け、情念で怨んだりするものです。 能楽などを観れば、そんな話ばかりです。
1情念が圧巻。 音韻のテンポが心地よく綴られているように感じます。 ただ、視点が外から内へ移る際、テンポの変化が少し掴みにくいな…とも。 短文での跳躍は感じますが、内に潜り込むならば 是非、どうか渦のように読み手の脳をもぐるぐると混乱させ、 内側に巻き込んで(読み感の圧をかけて)欲しかったなぁと思いました。 そうすると、タイトルとラストの一文の願いどうりに読者の脳内には晴れ晴れとした空、 カタルシスがもっと広々と描けたのではないか、そう見えました。
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