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季節の忘れ物 ver.1.05
冬の後 鯨が海を破るように そこかしこから 春がぬうっと顔を出す 春に触れた分だけ雪は静かに溶けていく 春の通った跡から 冬の忘れ物達が顔を出す 折れた枝 潰れた木の実 落ち葉達 片っぽだけの手袋に 点字タイルのカケラ タバコの吸い殻 中には変わったものもある 髪飾り 錆びた看板 アイスの棒 路傍の溶け残った雪達は 揃いも揃って 薄汚れた小石の宝冠を被り うつむきながら立ち尽くす いずれ滅びる王族達の様に いつしか それらも春に呑み込まれていく そして 夏が来る頃には 春の忘れ物達が顔を出すのだ 春が去ると 夏が獅子のごとくまかり通る 堂々と ただ堂々と 何の遠慮もなく 激しい雨と雷を纏って歩んで往く 春の柔らかさを 夏が塗りつぶしていく 発芽しなかった木の実 風に落とされたマスク 花見の跡の酒瓶 あるいは 切手の無い手紙 夏の獅子はそれらを気にも留めず ただ堂々と通り過ぎて往く その後に続く 秋の気配に気づきもせずに 夏の気配が離れると 秋が影の鹿の様にやって来る 長雨と草木の赤を身にまとい 夏の火照りを足元から冷ましていく 夏の足跡に残された アスファルトにめり込んだリングプル 誰かが捨てた祭り屋台の串 折れたサングラス それとも 片方だけのイヤリング そんな夏の匂いを嗅ぎながら おっかなびっくり枯葉を踏んで かさかさと秋は 影のように歩む 夏が完全に立ち去った事を確認すると 秋は足早に通り過ぎて行く 冬が迫っている事を 何度も振り返って確認しつつ 秋が離れると 冬が神話の巨人のように 高い山から降りてくる 身を切る風を身にまとい 秋の名残の数だけ涙をこぼし 大気の温度を下げていく 秋が落としていった 少し色あせた落とし物 風に砕かれた落ち葉の破片 枝ごと落ちたナナカマドの実 リボンのついた本の栞 もしかしたら 誰かへの届かない伝言 それらを冬は拾いもせずに 冷たく白いため息で覆い隠す そうして 冬は全てを覆いつくしてゆく そして冬が去れば 春が海を割る様にやって来るのだ
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季節の忘れ物 ver.1.05 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 118.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2026-02-13
コメント日時 2026-02-13
| 項目 | 全期間(2026/02/14現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


移りゆく季節を追い駆けるのも良いですが 時に足を止めて足元にある季節の忘れ物に 想いを馳せるのも良いのではと感じる作品でした。
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