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暗い夜の思い出たちへ
ずっと昔の1月のこれくらいの時期。 東京都葛飾区小菅、東京拘置所B棟11階。ペントハウスの角部屋は確かroomNumber33. 骨身に染みわたる寒さで眠れない夜とか寒さと湿度で部屋の内部の薄いクリーム色のくたびれたコンクリートの壁に水滴が滴り落ちているのを夜間も決して消えることのない陰鬱になる常夜灯に照らされてそれを眺めては思い出したように寒気に震えて安物の粗末な布団をホットドッグのパンのように自分の体の両サイドに巻き付けて眠る。しばらくこんな夜が続くと手や足の甲に生まれて初めてのしもやけができる。 夢の現実の間では僕の頭の上をいつも誰かがゆっくり歩き靴音を響かせる。 誰かの話声、誰かの微かな寝息やどこかの部屋でトイレの水を流す音。 夢の中で僕は昔、子供のころに住んでいた広尾にあった一軒家の二階の子供部屋。 そこにはベランダというよりかは大人が一人たてるくらいのスペースの物干し台がありそこで僕は今日みたいな冷たい雨が降り空は低くて雪をたくさん含んでいるような灰色の雲が空を覆いつくしている夕方にちょっと2日くらいの近場の旅に出るような支度をする。 小さめなバックパックに洗面道具と替えの下着、タオル、その程度を入れて背負って物干し台のスペースに出る。 古い家の屋根のところにあるようなスペースは大人になった僕が座り足を延ばせるくらいのスペースはある。 そこで僕は上を見上げるといつの間にか自分の首には物干し竿を支える鉄のフックにロープがかかっている。徐々に首にロープが食い込み半身の左側が雨に打たれて段々と冷たくなるのを感じながらやっとの思いで涙を流して後悔の真似事のようなことを少しばかり思い出してじゃあね。と言って目を閉じる。 次に目を開くと陰鬱な灯りのともる壁のコンクリートから水が垂れる場所。 いつまでも円環の廃墟はあり続けて紫色ととても濃いネイビーブルーの夜空と埃まみれの床、割れた窓ガラス。 全ては壊れやすいんですね。うつろいやすいんですね。 いつまでもそこにあり続けるんですね。もういいじゃないですか。そろそろちゃんと僕たちは和解して許しあったほうがいいと思うんだ。 愛憎の果てに何があったかな?乗り越えたとかそんなものじゃないよ。 神様とか神話はもう終わってしまったし世界は壊れてしまったけどそのあとのことだよ。 beingよりもbecomeingなんだ。僕は回収されたわけでもなく否定して逃げ出したわけでもない。 それぞれを抱えたまま乗り越えてしまったんだよね。意味の不在とかとでもいえばいいかな。 別離とは少しだけ死ぬことだと言った素敵な人は誰だったかな。確か続きがあってもっと素敵で心が震えるような続きが。 あなたは「壊れやすい人」ではない。 壊れやすさを見ることができる人だったんだ。 そしてフラジャイルなものに惹かれるのは、 自分が弱いからじゃない。 世界が仮設でできていることを、最初から知ってしまった人の感性なんだろうね。 別れとは必ずその人の一部を残して去っていく。
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暗い夜の思い出たちへ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 237.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2026-01-25
コメント日時 2026-01-26
| 項目 | 全期間(2026/01/28現在) |
|---|---|
| 叙情性 | 0 |
| 前衛性 | 0 |
| 可読性 | 0 |
| エンタメ | 0 |
| 技巧 | 0 |
| 音韻 | 0 |
| 構成 | 0 |
| 総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


文章の流れに不思議な美しさがあるなあと思いました。 以前金縛りに悩まされていたことがあって、読んでいてそのときの幻覚を思い出しました。
1既視感のある世界観ではあるのだけど、ひとこと。 別れというものを人は一種の「欠損」と捉えているけど、 あるいは感じているのでしょうけど、(「さよならだけが 人生だ」) そういう常識的な哲学はもうゲップが出るほど聞かされて きたので、わたしにはどうしても「そうかな?」という 疑問があたまをもたげる。 人はどうして満月のような真円の状態が十全であると思う のだろう? ゼロが十全の状態で、そこに1でも1億でも いいが、足された状態を「十全の欠損」とみないのだろう? そんなバカなというかもしれないけど、わたしたちは思い込 みの常識を一度疑ってみたほうがいいような気がするのだが。
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