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瓦礫の淵   

stereotype2085 
作成日時 2018-12-05
コメント日時 2018-12-09

 

モラトリアムな殻の中でうずくまっている少年が泣いたのは、夜空の果てで星が燃えたせい。カトレアの香りがする街で、膝を抱え顔をうずめたまま。行き場のない彗星が彼のもとへ墜ちる。プログラミングされた体は、弱さを見せる隙もない。いつか見た夢の中で少年は叫ぶ。 抱きしめてください。 瓦礫の淵に舞い上がるアゲハ蝶の色めいた羽根よ。彼を包み込んでたった一つだけの出口を指し示してあげて。 情欲のまま行き来する、テクノロジーの行き先は、プロテクトされた少女にさえも自由を与えない。カフェインの残る頭によぎるは、悪い過去の想い出で、痛みを加えられるだけならばと少女は言う。 「せめて眠らせて」 閉ざされたままのドームの屋根は雨を降らせないだけで、彼女は涙も拭えなくて一言だけ漏らす。 抱きしめてください。 3089通りの彼女に示された行き先から、せめて一つだけ選ぶとするならば 物語さえ奪われ、水晶の心さえ砕かれた彼女が、せめて一つだけ選ぶとするならば あの日わけ隔てられた少年の胸元に飛び込んで、泣き伏して眠ること。 それだけ。ただそれだけ。 いつか憧れたあの少年の胸元で。 2018年も終わりに近づいたある日、明日の予想図に記されたのは彼の心でも彼女の心でもなく、ビットコインが高騰する知らせで、富める者も貧しき者も等しく喜ぶニュースではなかった。恩恵にあずかれない靴磨きが舌を出して政治屋に卵を投げつけた時、笑ったのは占い師でも祈祷師でもなくて、ただただ暗いベッドに横たわるくすんだ死体だったという。いいだろ? 誰もこんなニュースに食らいつきはしない。いつか地獄を見ようが彼らの勝手だろ。僕が気になるのは少年と少女の最期だ。 瓦礫の淵で揺れる少年と少女の体よ。我がままなオーディエンスを置いたままで、愛のシーツで抱き合って。 3089通りの二人に与えられた自由を、死せる時まで味わって光の中で弾けておくれ。 この衰えかけたヒトカケラの感情さえ見せない場所で、死せる時まで口づけて光のただ中で眠っておくれ。 光の中で。 それだけが僕の望むこと。 2018年12月5日、今日も夜空には軍のヘリが飛んでいる。


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小林素顔 (2018-12-05):

拝読いたしました。 ぱっと見、素敵な詩だなと思って、熟読しても素敵な詩だったので、なぜこの詩に対して自分が素敵だと思ったのかを考えました。 「少年と少女と都市」というモチーフは、一歩間違えれば読者に陳腐な印象を与えますが、一方で、どれだけ繰り返し語っても語りつくせない魅力的なテーマであるとも言えます。それを詩の軸に持ってきたうえで、この詩の素敵な部分というのは、「2018年12月の現在進行形のはかなさ」なのだと思われます。それは、日付を明記しているだけでは語れない、2018年末の雰囲気を、この詩は十分に表現しているからだといえます。具体的に言えば「プログラミング」「プロテクト」「ビットコイン」という単語が、直裁にその役割を果たして、「少年と少女と都市」のイメージを、しっかりと時代的に更新しているのだということです。 この、現在進行形のはかなさは、いまこうして、ウェブ上で読んでいるからこそ浸れる、一種の「事件性」であり、次の瞬間には感動が変質して劣化している恐れもあります。それでも、この詩は、いま、目の前で、読む価値のある作品だと思います。 失礼ながら、講評させていただきました。

小林素顔 (2018-12-05):

×直裁→〇直截 でした。誤字失礼いたしました。

つきみ (2018-12-06):

ビットコインの現代的な所が有るけれど、なんというか。現代詩じゃないなーという印象です。近代詩的。作品に出てくる少年と少女とは違う世界の一部が私には必要です。んー。そうですね。もう一つ世界の断片を足すと良いと思いますが、幸せを具体的にして、少女と少年、 >富める者も貧しき者も等しく喜ぶニュースではなかった。恩恵にあずかれない靴磨きが舌を出して政治屋に卵を投げつけた時、笑ったのは占い師でも祈祷師でもなくて、ただただ暗いベッドに横たわるくすんだ死体だったという。いいだろ? 誰もこんなニュースに食らいつきはしない。いつか地獄を見ようが彼らの勝手だろ。 が生きると思います。自由の部分に愛情を感じさせられましたので、作者の愛情の籠った視線も感じました。作者の視線が他の全てに愛情が向けられた作品を見てみたい私です。今回の作品も好きです。3089通りの二人に与えられた自由はとても独特ですね。3089を妙薬と読んだ私ですが。多面的に見るとまた違ってきます。 そして、最後に出てくる望みですが。作者様の愛情を感じるが故に、押し付けてはいけないと私は思います。望みでは無く、私には理想を押し付けているそう思いました。

ふじりゅう (2018-12-06):

拝見しました。 良いですね。戦争の詩、と読みましたが、安易かもしれません。 さらりと素敵な事を言ってのけるのがいかす詩ですね。 戦争の詩、と読まないならば、最初のモラトリアム、が別の味を出してきます。伴って主人公の孤独なイメージも、荒涼とした世界の表現も、全くイメージが変わってきます。そこもまた中々面白いです。別件で、よく花の名前が登場しますが、花が好きな方なのだろうか、と想像しつつ、自分は花の事について全然知らないので読み解くのにググッたりしました 笑

stereotype2085 (2018-12-09):

小林素顔さん、コメントありがとうございます! この詩はスタイル的に原点回帰として書いたものです。少年と少女、都市と言ったモチーフは僕が青年期から好んでいたものです。ビーレビューに投稿したり、詩を公表したりしてる内に崩していったもしくは破棄したモチーフでもあります。だがしかし素顔さんの仰る通り、魅力的な素材であるのは変わらず、特に僕にとっては変わらないので使わせていただきました。さて素顔さんにとらえていただいた「現在進行形の儚さ」ですが、それは恐らく2018年も終わりに近づいた…の下りがあるがゆえに感じられたのだと思います。このパートは現代詩投稿サイトでコメントしたり、他の方の作品を読まなかったら、+しなかった部分かもしれません。そういう意味でこの詩は原点に主軸を置きながら、変化、進歩していると言っていいでしょう。上手く行ったと思います。「事件性」も2018年、と近年の出来事として描いたからこそ生まれたものでしょう。とにかくも中々の高評価を受けて嬉しいです。ありがとうございました。

stereotype2085 (2018-12-09):

つきみさん、コメントありがとうございます! 近代詩的。少し批判的に近代詩的と仰られたのかな? と思いますが余り詩をカテゴライズすることには興味がないので、その点はご勘弁を。3089を妙薬ですか。とても面白いですね。ダブルミーニングという手法は僕としても好きなのでそう解釈していただいて嬉しいです。さて肝心なのは「理想の押しつけ」ではないかという点ですが、これは押しつけではないのです。そう誤解される描写になっていたとしても。「それだけが僕の望むこと」の一節は、この詩の話者がギリギリの状態で、憔悴しきって、最後の願望、望みがそれ一つだったというある種の限界を表現しています。だからこの一節は苦悩の吐露でもあるのです。美しいものを眺めて、世界と自分は何て荒廃しきってしまったんだろうという悲哀も滲んでいます。この詩の少年と少女パートは今にしか、というかいつ書けなくなるのか分からないので、綺麗にまとめ上げられて良かったと個人的には思っています。コメント及び閲覧ありがとうございました。

stereotype2085 (2018-12-09):

ふじりゅうさん、コメントありがとうございます! 戦争の詩ですか。確かに最後の「軍のヘリ」は戦争をイメージさせるかもしれません。だがしかしこの詩は戦争の詩ではないのです。軍のヘリを用いたのは危機的な2010年代末期を象徴する一語として用いているのです。サイレンとか軍機。いいですよね。少年と少女というモチーフといい、その純粋さが危機に晒されるヘリやサイレンといい、僕がとても好んで使うモチーフであり、一種の暗喩でもあります。自分の純粋性が冒され、荒廃した世相に浸食されていく。そう言った点を描写するのに、凡庸句的かもしれませんがあえて用いる。いいと思います。この詩は凡庸性に陥らず、すんでのところで新規性が獲得出来たと思っています。それも少年少女パートと、2018年も終わりに近づいた…パートが絶妙に融合したからでしょう。手前味噌な返信になってしまいましたが、正直な気持ちです。ご勘弁を。ではでは閲覧及びコメントありがとうございました。

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