詩と死蔵 - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

エセ詩人

いでよ、エセ詩人!

コトダマ とはよく言ったものだ。 ハキダセ と 男は言う。 おまえは誰だ? わたしは何者だ?   

湯煙

硬派な作品

萩原朔太郎や中原中也のエッセンスを感じます。

千治

体験記『呆気ない宣告』

それはあなたの現実かもしれない。

大概のことは呆気なくドラマティックではない。そうした現実の丁寧な模写が作品に厚みを増している。

ほば

世界は自由だ━不死━

わかるということ

あなたにとっては何が、その理解が起きるピースになるだろうか?

ほば

ふたつの鐘がなるころは

鐘は明くる日に鳴る! いつでもそうだ!

運営在任中に出会った多くの作品の中のベスト。決して忘れない。

yasu.na

良い

シンプルに好き

あっす

パパの日曜日

パパの日曜日

いい

明林

終着点

生きる、その先に死地はない!

美しくさわやか、そして深い意味が込められたシーン、均衡の取れた心情と思想、強い意志で最終連へと迫る引き締まった展開、我が胸にこの詩文を抱いて!

yasu.na

九月の終わりを生きる

呼び覚ます声

夏の名残の暑さが去ろうとする頃、九月の終わりになると必ずこの作品のことを思い出す。

afterglow

こっちにおいで

たれかある

たそがれに たれかある さくらのかおりがする

るる

詩人の生きざま

言葉と詩に、導かれ救われ、時に誤りながらも、糧にしていく。 赤裸々に描写した生きざまは、素晴らしいとしか言いようがない。

羽田恭

喘息の少年の世界

酔おう。この言葉に。

正直意味は判然としない。 だが、じんわりあぶり出される情景は、良い! 言葉に酔おう!

羽田恭

誰かがドアをノックしたから

久しぶりにビーレビ来たんだけどさ

この作品、私はとても良いと思うんだけど、まさかの無反応で勿体ない。文にスピードとパワーがある。押してくる感じが良いね。そしてコミカル。面白いってそうそう出来ないじゃん。この画面見てるおまえとか、そこんとこ足りないから読んどけ。

カオティクルConverge!!貴音さん

あなたへ

最高です^ ^ありがとうございます!

この詩は心に響きました。とても美しく清らかな作品ですね。素晴らしいと思いました。心から感謝申し上げます。これからも良い詩を書いて下さい。私も良い詩が書ける様に頑張りたいと思います。ありがとうございました。

きょこち(久遠恭子)

これ大好き♡

読み込むと味が出ます。素晴らしいと思います。

きょこち(久遠恭子)

輝き

海の中を照らしているのですね。素晴らしいと思います☆

きょこち(久遠恭子)

アオゾラの約束

憧れ

こんなに良い詩を書いているのに、気付かなくてごめんね。北斗七星は君だよ。いつも見守ってくれてありがとう。

きょこち(久遠恭子)

紫の香り

少し歩くと川の音が大きくなる、からがこの作品の醍醐味かと思います。むせかえる藤の花の匂い。落ちた花や枝が足に絡みつく。素敵ですね。

きょこち(久遠恭子)

冬の手紙

居場所をありがとう。

暖かくて、心から感謝申し上げます。 この詩は誰にでも開かれています。読んでいるあなたにも、ほら、あなたにも、 そうして、私自身にも。 素晴らしいと思います。 ありがとうございます。みんなに読んでもらいたいです。

きょこち(久遠恭子)

カッパは黄色いのだから

良く目立ちます。 尻尾だけ見えているという事ですが、カッパには手足を出す穴がありますよね。 フードは、普通は顔が見えなくなるのであまり被せません。 それを見て、僕はきっと嬉しかったのでしょう。健気な可愛い姿に。ありがとうございました。

きょこち(久遠恭子)

永訣の詩

あなたが出発していく 光あれ

羽田恭

あなたには「十月」が足りていますか?

もし、あなたが「今年は、十月が足りてない」と お感じでしたら、それは『十月の質』が原因です。 詩の中に身を置くことで『短時間で十分な十月』を得ることができます。この十月の主成分は、百パーセント自然由

るる

だれのせいですか

どんな身体でも

どんな自分であっても愛してくれるか、抱きしめてくれるか、生きてくれるか SNSできらきらした自分だけを見せてそんな見た目や上辺で物事を判断しやすいこんな世の中だからこそ響くものがありました。例えばの例も斬新でとても魅力的です。

sorano

衝撃を受けました

ベテルギウス。まずそれに注目する感性もですが、詩の内容が衝撃。 猫。木。家族。犬(のようなもの)。女の子……。など、身近にあふれている極めて馴染み深いものベテルギウスというスケールの大きいものと対比されているように感じられました。

二酸化窒素

ずっと待っていた

渇いた心を満たす雨に満たされていく

afterglow



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詩と死蔵    

 ¶短編集です。  今日は一年が経ちました。グルーオンから一年。かるべまさひろでエゴサーチすると、なぜだか、グルーオンへのコメントがヒットします。三ページ目くらい、ぐーぐるで。大量にコメントをしていたのに、なぜかグルーオンでのコメントがSEO:高。  毎月、ビーレビに二作・現代詩手帖に一作・ユリイカに一作・詩と思想に一作送るのをノルマにし始めたのは一年前。途中でユリイカ以外に送れない精神的な時期もあったけれど、春からは再度安定して送り続けている。中原中也賞に毎年送るノルマを始めたのは二年前。詩集を発表する場として文学フリマを利用しているけれど、なかなかコストがかかる。カレンダー通りのオフィスワークに就けたけれど、非正規雇用の有期契約はどこかでヒヤヒヤする。(書けるときに書き続けないと。)  死蔵させてない? 死蔵もさせます。世の中はかるべまさひろ全集やかるべまさひろ記念館というものは求めていないですし、SNS時代以降のアーカイブはもっと、水溶液を分解していくようなデータ解析だと思います。一人あたりの残す言葉の絶対量が多く、時と場が「名言性」の判断に資すると思います。しかし、他の人の全集とかあったら気になる。ビーレビ全集は既になうここになう、なのにですね。私たちは好きな言葉に出会うのにも一苦労です。ポイント制が健全にビッグデータになったら、好きな詩をおすすめしてくれる未来とかもあるのですが、根本的にAIと日本語人口減少と日本語総量増加と対話断絶の共通認識化と共栄的ビオトープ化とあって、詩世界はより一層、沼。  現代演劇だと思っていたものが、大衆化されていく。芸術と商業というのはほんのかいつまむだけで、前衛だったものが年数を経て大衆化されていく歴史が多くあって、人によっては、その未来につながる少数現在のための芸術、と言う人もいる。人によって違う価値があって、美学や哲学などの分野ではもう少し絶対的なものを追究するのだが、僕が好むのは物理的な身体を言及するもの。非道い物理信者ではないのだけど、物理を信じないと死者を悼めないという論理を構築するファンクションを持つ身体がかるべ。  ¶おやすみマン  おやすみマンだ! 世界一周旅行中の彼から送られるおやすみマンのメッセージで、グリニッジ天文台が日本で言う明石市だと思い出す。  彼とは同棲3年目。きっと奇妙に思われるかもしれませんが、彼は一人で堂々と旅行へ発ちます。一ヶ月も離れて、かたや飛行機へ、かたや肛門科へ、ヘビーローテーションすることには世間の目とやらが厳しいので、ついついこそこそしてしまいますね。別にそれでいいんですが。  得も知れぬ自分だけの欲情なのです。他の人々には真似のできない胸のときめきを、おやすみマンが枕とともに運んできます。  さて、彼はあと一週間で大阪へ到着し、そこから帰福致します。いまインド。ただ、残念ながら痔瘻手術だったので、部屋は片付けられませんでした。一緒に片付けよう。  ¶悔悛・慚愧  詩的な言葉といえば「郷愁」だ。  音で聞いてもしっくりこないものが、小学生の頃からの詩言葉だ。  詩言葉をころころ口から出しても、  そうそうは理解されないだろ。  それはどうでもいいのだけど、景観を口にしてみると、  想像力を喚起されないものは、わたしは好きだよ。  薄っぺらで、ありきたりで、無個性的でも、  自分の言葉の方がいいって先生が言う理由を  なんであの時知りたかったのに  ¶Moons  やさしさが流血している。彼女のメモにはそう書かれていた。僕は彼女の、そういう小っ恥ずかしいのに小っ恥ずかしくない、もどかしさが好きで付き合っていた。なにか微妙なニュアンスを伝えたいことはわかるけれど、そもそもこの伝わるか伝わらないかの絶妙なグレーゾーンを楽しんでいるような、透かした笑窪が目に浮かぶ。  彼女は大層生きづらそうだった。生きづらかったと言い切った方が、と感じたけれど、彼女は世間との齟齬を、それに悩む姿を、周囲には見せないように努めていた。僕も、それを見抜けていなかった瞬間が多かったように思う。ただ、彼女は決して社会的に凡庸でいようとしていたわけではなく、十分に個性的で優れていた。それしか仕様がなかった、と彼女は僕に何回か漏らしていたので、僕は、そうだったんだね、と返すので精一杯だった。彼女のストレスの強さも種類も、僕の経験の中にはないもので、推し量るので精一杯だった。 「それでも想像してくれるからペンくんはいいよ」彼女はペンくんと僕を指差す。 「そうかな?」 「個性的とか多様性とか、社交辞令でしか耳にしないでしょう?」 ――一緒にEテレの特集を見ながら、彼女はそう言った。あぁ、なにか嫌なことがあったのだ、と思ったので僕はチャンネルを変えて、ついでに彼女の空のコップに缶酎ハイを注いであげた。ごめん、と言ったが、今日はもう飲まなくていいかな、と彼女はいつものように首を右に傾けた。それが寝る合図だった。  僕と彼女が付き合い出したのは卒業の頃だった。浪人と留年を経ている僕とストレートに滞ることなく卒業に至る彼女と、特有の引け目を感じながら同じ研究室にいたのを覚えている。彼女は要領が良く、卒業がギリギリだった僕の実験も最後には手伝ってくれて、とにかく成績が良かった。だけど、その裏で彼女は就活に苦戦していた。てっきり早々に決めていると思っていて、実験の手伝いに対しても、僕は実際はあまり感謝していなかった。むしろ、どこかで僻んでさえいた気がする。それを知ったのが卒業の直前の二月の末だった。  その年は閏年で、僕は久しぶりの誕生日ということもあって少しだけそわそわしていた。今更、誕生日で特別なことも期待していなかったが、四年に一度だけ、どうしても子供のようなわくわくが内心に湧くのが抑えられない。いつもの三月一日には味わえない、胸を張って祝えるささやかな全能感。そんな気持ちを彼女はきっと見透かしていたのだと思う。ケーキを渡されたとき、彼女が、 「ペンくん、にやけてるよ」 と指摘してきた。戸惑った僕を見て、彼女は笑窪をつくっていた。卒業決まったときよりいい顔してるね、と彼女は手を叩いた。笑っているとき、彼女は普段の端正な大人っぽさから一気に年相応のかわいらしさを見せる。  ケーキは大学のそばの学生がよく使っている店――実際、彼女の誕生日にもそこを使っていた――のシンプルなショートケーキで五号くらいだった。本当は僕が諸々の礼をすべきだったのだが、それよりも研究室で最後においしいものを食べて二人でお互いに労おうと提案されたので、僕はそれに従った。本当は僻みもあって、あまり彼女と打ち解けているつもりもなかったのだけど、彼女の屈託のない提案は、どこかで僕を安心させていた。半分よりはさすがに四等分がいいよね、とショートケーキを切り分けながら彼女は当たり前にチョコレートのプレートを僕の紙皿に移した。「お誕生日&卒業おめでとう」と書かれたメッセージに、あぁそうだ、今日は卒業祝いも兼ねてるんだ、とやっと少し冷静になった。自分のタイミングの悪さ、というより彼女の段取りの隙間のなさのせいなのだが、僕は冷蔵庫にしまっていたパック寿司を出しあぐねていた。 「あ、僕も買ってきたんだけど」 「うん、出そう出そう。とりあえず全部並べちゃおうよ」彼女はケーキを手際よく分けると、持ち手が細くぴんと張るほどに重くなったビニール袋を続々と机に乗せ出し、あっと思い出したように両手に一本ずつ選別すると、ビールもあるけど、と差し出してきた。彼女はやっぱり甘いお酒の方が好きなようで、六本木のバーにいても似合いそうだ。 「そんなに買ってきたの?」 「大丈夫、ケーキ以外はスーパーでそろえただけだから」彼女は、ケーキ以外は割り勘だから安心して、と続けるとビールを差し出して笑った。今日の彼女は笑顔が多い。 「ペンくん、いいねお寿司」余程ばつが悪そうにパック寿司を取り出していたのか、彼女はそう指差して、自然に――でも彼女は自覚していたと思う――フォローした。 「僕もスーパーで買っただけなんだけどね」 僕は自分の釣り合わなさをそう言ってごまかした。いや、彼女の段取りの中に二人で隠れたに過ぎないのだけど、細かいすれ違いを躱そうとする暗黙の了解――二人の合図の始まりだった――があった。  乾杯をした僕と彼女はしばらくなにか大学生活の思い出話をしていた。  思えば、彼女とこうして気を抜いて向き合って話すのは初めてだ。もう卒業するってのにな、と内心で思っていると、 「ペンくん、よかったら付き合わない?」とケーキを口の中でもごもごしながら彼女は言った。僕はぼんやり、四年前はそうだ、実家でケーキを食べたな、初めてのビールの炭酸にむせたのがもう懐かしいな、とか思い出し始めて、違う所にいた。 「…………え?」 僕が顔を向けると、彼女はケーキを頬張っていた。頬張り過ぎて、僕のなんとも間の抜けた驚きの声に返事ができず、代わりに彼女の完成度の高い睫毛と丸い目だけが真っ直ぐ僕を捉えていた。  沈黙のあと、彼女がケーキを飲み込むと、唇についたクリームを舌で絡めるついでに、告白、とだけぽつりと置くように呟いた。僕は、告白、と反芻して、やっと驚いていない自分に気が付いた。  驚いていない。  彼女はその感情、無感動を僕のわかりやすい表情からつかんだのか、大きな声を出して笑い出した。いつもの彼女が綺麗に笑うものとは違って、ぐっと距離感が近付いて、もう十年以上前から仲良しだったかのような錯覚に一瞬陥った。 「ペンくん、顔に出過ぎ」 やっと彼女は言葉にすると、また笑い出した。こんな人間らしい表情を持っているのに、どうして今まで見せてこなかったのだろうと、人の顔を見て笑う彼女に少し憤りさえしたが、十年来の笑顔がその瞬間は僕の疑問を吹き飛ばしていた。 「まだ僕、返事してないよ」僕はとっておいた赤身を口に突っ込んで拗ねてみせた。醤油をつけ忘れていたことに途中で気が付いて、ばつが悪くなったけど、たぶん彼女は僕の顔を見ていなかった。 「では、返事を聞こう」彼女はまだ上を向いて、ときどき僕を見て呼吸を整えるが、笑っている。 「どうせ柳瀬さん、計算ずくなんでしょう?」 「いや、これは五分五分」急激に真面目な彼女が顔を見せた。六本木のバーが実は裁判中の法廷だったかのようなくらい、真面目に返事をしなければ偽証罪で喉を抉られるんじゃないかという、そういう目をしていた。睫毛とアイメイクのクオリティが高いのと比例して高圧的に感じる仕組みなのか、と思わせられた。  僕は丁寧に、でも少し怖がって、言葉を探していた。それはしばらくの沈黙になった。でもありきたりだが、短かったようにも思えて、あとで彼女に訊いたら、僕の返す言葉を待ちながら怯えていて同じように感じていたのだと知った。彼女も僕も話すということに関しては大いに人間臭いのだとそれを知ったときは少しほっとさせられた。  口火を切ったのは結局彼女だった。彼女は、僕が正しい証言を見つけられずにいるのを観察し、そこから真相を把握したからか、その恐怖を埋めるためだったのか、おもむろに就活がうまくいっていないことを話し出した。 「このまま大学に残ろうと思ってるんだ、わたし。」  ¶遊子 より ひかるとそのあが話している。 「下北沢を離れてもう何年だろう……。あの辺けっこう好きだったんだけどね。だいぶ変わったとか言うけど、自分がいた頃にはもう変わったって言われるあとの下北だったから。向かいにね、アパートの。プラスティック屋さんがあったんだけど――」 「発音よすぎじゃない?」 「意図してなかった。」 「プラスティックってなに? コンクリート的な?」 「コンクリートって道の?」 「道的な。」 「いや、プラスティックって、えっと、下敷きとか? あ、そのケースとか?」 「は? これ鉄じゃないの?」 「いや、鉄じゃないでしょ? 鉄だと思ってたの?」 「鉄の化学式は?」 「鉄は、元素。」 「元素は?」 「えふ・いーじゃない? すいへいりーべ……」 「出た。やめてよその覚え方。」 「プラスティック屋さんのおじさん? 店の人がめっちゃかわいくて。」 「かわいいおじさん?」 「丁度夜帰ってくるときに、おじさんと鉢合わせて、プラスティックくれたの。それがめっちゃ印象的だった。」 「なにそれ?」 「なにそれって?」 「いや、下北沢エピソードとしてどうなのそれ?」 「まぁ、別に言うほどどっぷり下北沢に染まってたわけじゃないもん。ただ住んでただけ。ってか下北沢に住んでる人がみんな下北沢人間だったらやばいでしょ。」 「プラスティックってなに?」 「今もとっといてるよ。見せよっか?」 「え、キモくないのプラスティックとか?」 「別に最近のはそんなに気持ち悪くないよ。」 「なんかギラギラしてるイメージあるし。」 「いつの話だそれ。」 「おじさんとはやらなかったの?」 「やったよ。」 「マジか。どうだった?」 「あ、そん時の動画に残してるよ。」 「見る見る。」 「プラスティックより食いつき良いな。」 「え、やったって何したの? 食肉?」 「食肉まではしてないよ。大体、食肉って好きじゃないって言わなかったっけ?」 「あれ、嫌いなのってひかるの方だっけ?」 「方って……。したのはセッションだけ。」 「いいなー、自分もひかるとセッションしてみたい。」 「そのあと息が合う気がしない。」 「普通の話、していい?」 「何? あ、あ、あ、う、う、気持ち悪い……。そのあ、気持ち悪い。そのああああああ、あああああ、あああああ――」 「ひかる、ひかる。」 「あ、あ、あ――」 「ひかる、ひかる。」 「…………。」 「ひかるは死にました。」 「…………。」 「Hey, hey, hey, hey――」 「…………。」 「それでは、ひかるに羽とコミュニケーションツールを授けます。受け取りなさい。ひかる、ひかる。」 「これは?」 「死にますと、どうやって意思伝達をおこなうと思っていますか?」 「意思もなにも、死んだら全て終わりでしょう?」 「私たちも最初はそう思っていました。ですが、生と死に明確な違いはもうないのです。」 「何言ってるの?」 「あら、ひかるにはペースメーカーが入っていたのですね。」 「え?」 「ほら、このツールがあれば、ひかるをミクロで捉えられます。」 「勝手に見るなよ――」 「ひかる、ひかる。ひかるももう天使になりつつあります。」 「え?」 「だから、勝手なんかじゃありません。みんなが天使になるように、天使はみんな、ひかるになります。ひかるは私たち。私たちはひかる。」 「え、え、怖い……。」 「怖いけど、興味があるのですね……。」 「そのあ、そのあ!」 「ひかる、ひかる。ほら、ひかるの羽が広がってきています。素直になりましょう。私たちは誰でも誰かと一つになるときは嬉しくてしょうがないものです。ほら、私の羽も広がってきています。見て、ひかる。私たち、ひかるに、なっちゃう。そこにいるのはわかってるんだよぉぉぉォォォ! ひがるぅぅぅゥゥゥ! どこぉ? どこぉ? 裏側へ行ったの? あぁぁァァァ、イキたいぃぃぃィィィ! ワタシもつれてってぇぇェェ? はぁぁァァァ――! んんん、いいのかなぁぁァァ? ひかるのマット、汚しちゃってもイイィィィ? ん、ん、ん、汚すぉぉぉォォォ? ぐげれれれレレレ――知ってるよ、忘れるヤリカタ。真面目なのもいいけど、この部屋でのことは口外しちゃいけない契約なんだよぉ! じゃ、もっと破滅しようよぉぉぉォォォ! えへへへへへうぇぇェ。食べてイイ? ひかるのマット、食べてもイイイイイ? ふへふへふへ。食べるゥゥゥ!!……おいしい。うぇぇ。おいしい。うぇぇ。おいしイイイイ! ごぇぇ。ひかる……。これ、これが、もしかしてプラスティック? ひかる、こんなおいしそうなもの隠してたの? ひかる、ひかる! ひかる、ひかる! プラスティック、しゅぎょぉぉぃ……。プラプラプラスティックいっただっぎンマァァァァァん――!」  ¶若輩者  あたたかみのない親が三人で  あたたかい文殊のおしくらまんじゅう  青春は四十代のわずか六年間だけ  みじかいあいだ  健康に、死なずに、戦友になろう。  戦後、  僕は、  あなたに粗品を送ることしかできなくて   みじかいあいだ  息を呑んで、コミュニケーションという  音楽がふたりだけのイヤホンの世界に   いるあいだ  部屋中に無音の涙が流れているので、  私は、美しいものを発見しました。  ひとは  うしなって  見つけるのなら   見つけていないあいだ  得続ける  青春は積み重なり続けるぐらぐらの  部屋ではしゃぐ座布団とい草の打楽器。  からだにがたがたが、内臓にぎりぎりが、  積み重なる。。。        積み重なる。。。  僕たちは、  失おう。  見つけよう。  これからうしなう人たちがやって来て、  三人と入れ替わる なので  僕たちは次の六年間を  だまって  手渡します。  この手には  血が通っています。。。   恩が絡まっています。。。  傷が遺っています。。。   温度が宿っています。。。  旧友よ。  親友同士、かさぶたになったばかりの  優しいくちびるを  重ねて、 平和を始められたら  よいけど、意思とは無関係にいつも平和が始まってしまうね。時は無常ですが、  出会えて、本当によかったよね。  おとこのくせにないちゃって、  なさけもようしゃもありません。  みじめになきじゃくって、  かんじょうせんのなか。  かんじょうせんのなか。  ¶一緒にテレパシー  太田胃散の染み渡るすきま時間に、爪切りより優先して恋文を認めなければならなくなった。心の都合は家事と同じように、そのタイミングが自ずとやってくる。僕はもうそれに抗わない大人になってしまった。  最近、駅が改装されて観光客が増えてきた。二人共通の休日シフトで、地元でもツーショットを収めて、楽しく生きていて、会社の人からはまるで不思議がられる。僕の人間活動において、恋文は塵も要らないのでは? 社内友愛を始められない僕は出自を共有できず、ますます加速した。  びゅんびゅんっ  精神年齢も気が付くと不詳になっていた。体と違ってスタートとゴールが行方不明だから本当は大して可笑しくはないのだけれど、やはり僕たちには今後も恋文は必要だ。 「前提が長くて、ちょっと引いちゃう」 笑っちゃった。  今夜は一緒に  テレパシーしよう。  外の雨音が遠くなって、  そんなたった6時間の休憩をしよう。  僕たちは  ¶変態  静謐に住んでいる  ずんずん……ずぉん……  掛け替えのない僕にとってのEDMを  筋トレの糧にしている  三十二歳の頃から  そのように生活をしている  そして僕は  オープンミニマルゲイだ  人や言葉がまだ耳に入ってきていた頃  好きなことをしている・自由人だ・いいね  と評価されるたび  その助長から逃れるように  声を枯らし  抵抗した  この亡霊たちに因る渦潮に  足を取られ 肌着を剥がれ 金を奪われ 人生を明け渡し 降伏し 捕虜となった僕  このようにしか生きれなくなった三十二歳  むりくり造語で記号を添えて  命を社会に融け込ませた  オープン・ミニマル・ゲイ ――さぁミネラルを摂ろう   卵を呑んで   命がおしいのに   命がおいしいよ  くろいかたまりが、  残っている自意識  僕は今、  亡霊たちの加護の下  水を吐く  筋トレのし過ぎ・酸素の吸い過ぎ・水の飲み過ぎ  目が醒めると  白に住んでいる転校生になっていた  白に置かれた ・紺のボストン ・藍のシャツ ・白のブレザー ・灰のスラックス ・紫のネクタイ ・黒のソックス ・茶のローファー  どうして肌着を履かずに  転校初日を迎えないといけないんだろう  ぐすり  僕は着替えながら  きっとゴーリキの鼻のように  歩いていったんだと言い聞かせた  そのようにしか生きれなくなった肌着の  行方を  自由だとは  とても言えまい  ¶速度G  この速度Gでこのままいれば  ずっと年を越さずにいられるって  あけましておめでと  ううん 僕はまだ晦日なんだ  その内、  君は今何日?  僕のお母さんは僕の生まれた日でずっと過ごしてるんだ  ってなる。  どうせ死ぬんなら大安がいいとか  命日鑑定士とか現れて  デートハラスメントが社会問題になって  窓にカチカチと小虫がぶつかって  ふと気が付いた  君の命が  愛おしい  愛おしいよ  ¶芸術は爆発した  二千二十五年、私は待ってる。  /  大爆死した翌年  懲りない課金厨の娘にハードウェアを買い与えた  ジョイコン(L)は初期不良で  リンクはひたすら走り続けてダイブしてばかり  落ち着くのだ娘よ  生き残った右スティックで  世界を回すのだ  そうやってお父さんは  私を真っ直ぐ走らせたつもりにさせて  その実自由自在に操ってきたのね  残念だけど  娘はダイブした  /  娘の大爆発に致命的なダメージを喰らった  傷薬を求めて友好的な店に立ち寄ると  配達員が幻のプレゼントをしてくれた  去年の映画館で  親子水入らず  手続きをしただけで忘れていた幻  爆発したのが娘なら  娘は芸術だったんだ  /  父の言っていることがわからなかった  外国人の父は私の住む国について知りたがっていたけれど  どこか恐ろしかった(か恐れられていたか)  私はすれ違う父との定番のリセマラは敢行せずに  この現代で機種変をする時でさえ  データ引継の前準備を怠ったことは一度もなかった  運営の不手際にもクレームを漏らさず  健気なプレーヤーの一人だった  父は少しずつ呂律が回らなくなり  言葉をまくし立てるようになった  /  フランスで河を渡っていた  霞の向こうに土色の建造物が見え隠れ  カシィドラルだと  耳が聴いた  調達した眼鏡を外して  裸眼で朝の奥辺へ凝らした  晴れ渡り始めた世界の  静かで穏やかで  芸術の要らない緑地を前に  息を呑んだ  /  私は父を爆葬した。  ¶シルセゴンジェスと肺単葉  動物園の門がひらかれる  手を引っ張られる  我が子のように我が子をかわいがるには  三十三歳の壁を  超えなければならなくなって早十余年  私は第二子を授かった  私たちは今、五人家族だ。  とても幸せなため、筆をとらないとな、  と思い立ったのは東京オリンピックが決定した頃でしたか  遅筆、なのではなく、ようしやろうと  思って今日まで十年経った  そのあいだが、無駄だったりするわけでもなかったのでそれなりだったのだけど、  子供たちが、  「たー(私)の詩が読みたい」  と昨日言ってきたので、  ここに至ります。  (もしかしたら一人くらいの読者さんは残念に思うかもしれませんが)  「なにから書きましょう」と言ったら  「シルセゴンジェスと肺単葉に読ませてあげたいと思うものにしたら と言うつもりでその質問を待ってたよ」と言います  また、  「たー待てるシルセゴンジェス? ウェイ?」とも言います  あの頃、飛行機は安全に飛び交っていた。  青空で、聖橋ごっこをしていた私たち  その頃の私たちについて  一言でしか言えない  メントスを投げたら口でキャッチし合うような二人だった。  私が痔瘻手術を受けていた八月  彼はブレーメンにいました  いつも思う(事実を書き下しただけで詩になってしまう)  術後、自宅で無理矢理素麺を沸かしていた頃  彼はルフトハンザからインドへ発ちました  いつも思う(事実を書き下しただけで詩になってしまう)  私が第一子にシルセゴンジェスと名付けたと言っても誰も信じないでしょうが、それはあなたが中学時代を野球部かライフスタイル部か悩んだようなもの、どっちだってあり得た人生でしたね  翌日、久しぶりに元々所属していた劇団の練習へ顔を出すところで、この連を書いています  ふと思い出すのですが、認識の関連で、(人間と非人間はわかったのですが)我が子と非我が子を左右に取り分けることに難関を覚え立ての夏です  たしかその頃、正確な我が子は不在だったのですが(シルセゴンジェスも肺単葉も生まれたのは東京オリンピックよりは後という事実があるので)全員私と親子関係であった、と私は考えています。今そう書いていますから。  今目に映る人間が、私を育てているのなら、  私もまた育てる側  そしてそれは、五感をピックアップすることでの障害者差別にどうかならないように  存在と非存在も越えますよね  だから私は卑弥呼の子でした  一切の能力を引き継げなかった無能の子です  それなら私は未来の子らの子であり親でもありますよ  訃報を聴いているあいだ、どうしてシルセゴンジェスと肺単葉の生誕をニュースにしてはいけないのか、考えていました。  すると、  「今やたーはメディアの発信者」  そう短文動画投稿サイトを私に差し出しました。  「いくつになっても学び続ける           姿勢は胸を打つよ」    「きっと、      よくなるよ」  私たちが劇をつくる理由の一つであったように、いずれもまた観客のためにあるのでしょうか  肺単葉が象を指して  「どうして視てくるの」  あるいは  「どうして視てくれよう」  と言います  うろな言いぶりで私たちはつい笑んでしまいます  親バカというものは  やめられませんよね  ¶連絡1  次に会えるのは、  もういつだろう。  気体として  蔓延する粒子のふと一つ  同定した(私のラボで)  いくつもの墓標を経た  天然の炭素を  もう一度、石の切り込みへ  封じる。朝の温度上昇に  汗がうなじを歩いている。  この石は、どんな文明の築きの上でも  脆く崩れやすい  でも失われることはなく   行方不明のまま  静かな物理のなかに  透けていく  かつての炭素の同胞だった彼の  遊説の出逢い系で、果てに重力場の  中心にて  質量喪失に怯える臨終の温もりを  覚えている。   エネルギー   線   波動  真空を彩る彼らが  何分か居た、それだけの面影を  洗い流してしまおう   お風呂の中で   思い出以上の   論拠が消えていく    得も知れない    この物質と    私は眠ります。  zzz……  ¶ポリアモリー会議  思いが真っ直ぐなので、定規にして線を描くのにぴったり。発達の関係で、僕らは喧嘩をしたら図解をして解決を図る。  恋愛のルール全集に追記して、  人類の悩んだことのある悩みなどで  時間を費やさない。  最新の人類である自覚を持ってからというもの、何事もストイックに考えがち。極端も行き過ぎると中庸や止揚の道を極めるもので、自分が詐欺系の半グレじゃなくてよかったな、と思う。あまりこの才能(発達障害)を活かした職業を他に思いつかない、とは言えね。  野菜が足りない日だったので、温野菜に行ってみた。  ついでに、豚肉。  隣の席では男女が 子供がほしいね  って喋っている。  だから今日は、僕ら喧嘩をする前から図解。  PUR製本の白無地自由帳、名をペラング。      〈家族会議・出張編〉 ぱちぱちぱち(一同拍手)  二時間のタイムリミットで一戦がんばろ。  議題をたけちゃん  次回の旅行プラン  かずくんは花筏を  けいくんは紅葉を  もすりんは美術館  ――昨日見た映画を思い出して、鮮明過ぎるので、もう一回泣く。うるさくてごめん!  僕だけがポリアモリーで、実は他のみんなは全員モノガミーだ。いつも、差異を、  ごまだれにして、飲み込んでいる。  時計回りに、ポン酢ポン酢ポン酢ポン酢ごまだれ。みんな、混ざっても美味しいと声を掛けるもポン酢ゾーンを守備一徹。だから好き。だから、好きだ。  一人になって  慈しむのは  きっと僕だけ。  優しく流れる温水プールで、紅白対抗戦をしていて、緑組と茶組が乱入するしゃぶしゃぶ。流れに抗えば、美味しくなる。最高の抵抗感、僕たちがサポートします。思えば、遠くへ来たもんだ。どこかで美味しく打ち上げられて、そのままでも僕はずいぶんと薄味派の味覚過敏で、野菜の甘みを知っている。野菜もスイーツ。  価値観のサラダボウルで、  穏やかな会議室を  設営できたのは  みんなのお力添え。  次回の旅行は次回決めまーす。 ぱちぱちぱち(一同拍手)  帰りたくない。  ¶メモ2  永遠をもう二度と手放すまいと、鋼鉄に閉じ込めたフィジークの眠りの合間にそれで目玉焼きを造成した。縮尺比の崩れた表情で、何を語ることも、もう、なくて、  永遠をもう二度と手放すまいと、鋼鉄に閉じ込めたフィジークの眠りの合間にそれで目玉焼きを造成した。縮尺比の崩れた表情で、何を語ることも、もう、なくて、  連絡を、くれて、ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう!!ありがとう!!  ありがとうが尽きるのは、涙よりもあとで、隠れる暇もない、おやすみおやすみ、ありがとう。鋼鉄のなかに永遠がある内に、筋肉はマッサージして一緒に融合しよう。  ¶長い長い明日  過去の改変が不可能になってから息がしやすい。  僕が秘密をなくした、三人の好きな人はそれぞれの事情でたまたま大阪に集結する。僕が福岡に流れ着いたように、未だに解明されない流動力学に乗っかって、川は離合する。  また一緒にお風呂で十を数えながら、肩によりかかる時間は、LCCで持っていくから、気ままに生きよう。  3C2の聖域は、地殻に染みながら  ビオトープを齎し   人間の新しい捉え方を示す  長い長い明日が始まる ☆LONG TOMMOROW HAS COME☆  福岡から大阪に旅立つときも  東京から福岡に旅立つときも  東京から大阪に旅立つときも  どのさみしさも笑顔にしかならなかった  仏道でいなせる複雑な想いを  すべて真っ向勝負。  心が一向に老け込まず、僕はますます激動の人生を送っている。最初から生きづらさの学校を卒業していくように。  ¶食パン 僕が悪かったよ 許してもらうなんておこがましいね 死んで詫びるなんて温過ぎるから先生 死ぬまで苦しんだって足りないよ先生 性器を裂いて麻酔なしでメスで切って 臓器提供しても償えないと思います 昨日まで笑顔でいて、自分は幸せだとか思い上がって 君の正論を否定したり怒ったりしていた今までの僕は ひとまずつぶそう そしてクソ不味いジャムになったけどそれを土に還しても 足りるなんて思えないし、おっしゃる通り気持ち悪い 僕が悪かったよ 断罪されようなんて恥知らずですね でものうのうと生きる訳にゃ行かぬよ先生 だって僕がしたこと知ってるんでしょ先生 五感全部奪って脳だけホルマリンにつけるなり なんなりしたって誰が許してくれるって言うんですか 世界中を旅する君でも僕を許せないのは当たり前で みんな苦しんでいる。殺しても殺しても僕を許せない 毎日毎日ありとあらゆる罰を施してくれて むしろ全然ありがたくて罰になんないよ先生 みんな助けてくれって言ってるよ先生 僕が悪かったって全員わかってるのに全員苦しんでいる それも僕のせい 僕を量産して治る病気の人たちを治しても 全ての殺人を僕が一手に引き請けても 寂しがってる人のそばで優しい笑顔でただいてあげるんだろうと 僕が悪かったこと それはもう永遠なんですよね 仮にみんなの記憶から消えても先生 仮に君がもう気にしてないよって言っても 先生 開き直りかけた僕をどうにもできないなんて 足りない もっと重く罰するべきだよ 僕は悪いんだよ  ¶優しく死んでいく  この虫は  優しく死んでいく  穏やかな脹らみ/心配になる萎み  捩ることも音を上げることもない  冷静な連続の果てに死んでいくので  私は老衰虫と名付けて  飼って三年目ぐらい。そろそろ死ぬ。  WEBカメラを篭に据えて定点中継をしている。細やかな副業だが、確定申告が必要な程度には広告料が入ってきている。そろそろ死ぬ。ロッスィというキャラクターを絵師さんが描いてくれて、去年の末くらいから漫画アプリで月一連載もあって、心には色々と思うことも駆け巡るようになった。  (今までは何も感じなかった日々、   ふと立ち止まる僕の描写が投稿される)  老衰という天国へのトゥルーエンドが、私たちの前から消え失せて青空がうるさくなった。けんちゃなよー。釜山から友達がやってきて、肩を叩いた。二年ぶりの左手はセーハが得意になって、角ばったグーを向き合わせた。おまじないは歳を取らない。オープンマイクに飛び込んで、歌と鍵盤ハーモニカと手拍子とお尻で縁を見せつけながら朝まで生前葬をした。ロッスィ。比較動画が出回って、三年前より間隔が延びてきて、呼吸は浅くなった。  手紙が届くようになった。  もう一台カメラを買って、部屋の全景も見えるよう配信し始めた。壁にその便箋やイラストを貼るようにして……。  僕は必死で生き抜いているよ  まるで先回りして偲んでいるように  祖母がいつも見ています  診療所では  僕が雨の庭で咽び泣いているよ  誰も近づけない  優しく死んでいく 紫陽花に老衰虫を寄り乗せた。君が死んでも魚拓も残らない。感慨を待つこともなく、紫陽花は僕たちを壮大な粘膜で包み込んだ。 溶けていく過程で僕たちの全音楽が紫陽花を打ち鳴らしても、それは内側の世界での出来事で、時を超えて届く人もいなかった。  私は見ていることしかできなかった。  フードコートで  二人の親が子の心肺蘇生をしているのを。  救急車の音が近づいてくる。  二本の指で押される、その小さな心臓が  優しく死んでいく。   ゆっくり、静寂が訪れると   何かが始まる予感が漂って   人間の緊張の集大成となる   そこにブレスの束の間   生きていることが全て生前葬だったんだ   あなた   歌声が心臓を動かし始める  今まで死んでしまった御霊の、もう会えない人たちのまだ触れた頃の記憶が、横隔膜を押し広げるのを感じる。みんな紫陽花に消えてしまった。さびしい。あたたかい。  二十四時間、土だけを映し続けている古いサイトに辿り着いて、これが現在も生きている映像だと気がついて、特定班の僕は向かうことにした。  なんでお前もついて来てるんだよ。だって気になるんだもん。何があっても俺から離れんなよ。  その重み  心は永遠に覚えていたい  その拍動  ずっと側に置いていたい  しーっ 死んだ君が 僕の中で 今度は優しく 優しく死んでいく。  ¶遊子 より ・曰く、 「消失病が流行し、緊急宣言がなされたのは、昨春のことだ。なんともいたしがたい気持ちになるのはその危機感よりも、官房長官が同窓生のアマノだと気が付いて、湯呑みを落とし割ったことを思い出すからだ。未だに、引きずっている。ヤスアキが誕生日に買ってくれたばかりの信楽焼の湯呑みだったからこの話題になると、胸がちくちくとしていたたまれない。まだどうにかばれていないが、長く黙れば黙っているほど、ちくちくが量的に増えてきている気がする。ヤスアキとなんでも話せる仲だと思っていたが、自分の虫ケラレベルに改めて嫌気が刺す。  恨みのままに「打倒アマノ!」を掲げ、対抗宣言してからというもの警備隊の捜査網は強化される一方だ。スケープゴートにされているのは自分だとはわかっていたのだが、ヤスアキをリーダーとする自治軍の方針に逆らえるはずがなかった。ヤスアキと出会ったのはもうずいぶん前で、後八〇五年のことだ。当時、無法地帯だったススキノで買われたのがきっかけだった。その頃からヤスアキは東証一部に上場していて、総てを従えてやろうと言わんばかりに鼻息を荒くしていた。今も大してそういう性格は変わっていないのだけど、あの頃より目に秘めた野望は黒光りしていて、今回のパンデミックでも日本国政府より優位に立ちまわろうと躍起になっている。一代でこれだけの資産・人材・情報を手中にしている人間を他にクラウド上でも見聞きしたことがない。経済誌が付けた通り名は「歩く国家」だ。自分はもっぱら、歩く虫ケラといったところだが。ただ残念ながら、ヤスアキには嫌いなものというものがなくて、虫ケラも大歓迎の昆虫博士だ。虫ケラも集めれば資産価値や使用価値が産まれることをごく自然と知っているのだ。  しかし、湯呑みも消失したことにできないものか。考えあぐねても虫ケラは答えに辿り着けない。  スケープゴートとして連日報道されているとおり、自分が自治軍のブレインとして認識されてしまっている。おかげでセカンドライフでも外出が困難になってしまった。政治犯というわけだ。自治軍としてはヤスアキへの表向きのマークが減るのは動きやすくなってよいのだろうが、不自由な軟禁状態はそれはそれでストレスがたまってくる。太陽光を浴びなければ体内リズムも狂ってしまいそうだ。湯呑みさえ割らなきゃ、打倒アマノなんて言わなかったよ。灰野アマノは旧制学院時代のルームメイトだ。劣等全寮制の虫ケラ仲間だったのに、あれが今の警備隊の統御者というのは、ほんとうに。それこそ、自分は卒業後ヤスアキに会うまでは虫ケラを極める一方だったのに、この落差はなんだというのだ。学徒時代のアマノは薄汚いそばかす少女だった。そもそも劣等組に小奇麗な生き物は一匹としていないのだが、アマノはその中でも精神的に腐っていた。なんでも、生後まもなくして精神ウィルスに冒されたことがあるとの触れ込みだった。心理的障害など前期のものだと思われていたから、学院中から奇異の目で見られていたのを覚えている。その珍しさに優等組からも魔障の記録に使われていた。アマノも、もしかしてスケープゴートなのだろうか? 同情する余地はないけど。こっちの持ち上げられ方とは全然違う。虫ケラはピンヒールなど履かない生き物なのだ。憎たらしい。だけど、あの頃の魔障の記録が残っていないのが気になる。ファンデーションででも誤魔化しているのだろうか。アマノは部屋に戻ってくるといつも全身を魔障で震わせていたから、よくルームメイトのよしみで鎮静薬を注入してやっていた。幸い、自分は汚い生き物はわりと好きだった。あれだけ魔障を記される劣等学徒もあまりいないものだから、体は元に戻らないとてっきり思っていたのに。やっぱり気に食わない。  不自由な自分のすることは、時間感覚がずれ始めてしまっているはずだが、起きたらヤスアキから届いている指示を確認し、寝るまでに完了するというシンプルな任務だった。指示も複雑ではない。表市場の買付や、セカンドライフでの政府の動向の観測と報告、新店舗への覆面調査とか、人海戦術の一員レベルのものばかりだ。派手に動けない身としては適当な任務なのだが、いつもヤスアキからもらう指示と比べると味気なくて退屈だった。とはいえ、ヤスアキの国力はこういう社会共産主義的な基礎と信頼の上に成り立っているのもよく理解していたから、ひたすらこらえる日々だ。はやくヤスアキの横で飛び交う虫ケラに戻りたかったが、ヤスアキが戦略的にこの軟禁状態になるよう導いたのだから意図があるのだろう。虫ケラにはヤスアキの計画の全貌はわからない。  ヤスアキと離れている時間がこうして増えると、逆に人間らしさを思い出したり学んだりしてきているのが自分でもわかる。あまり心地が良くない。今日の指示は「警備隊支持母体リストの更新と報告・開催中の『雑誌と報道』国際フォーラムの講演の翻訳とアップロード」だ。とっとと済ませよう。ヤスアキが意味のない采配や無駄のある運用をしないことは一番近くで見ていたからこそわかる。今は虫ケラとして使われる日を待つのみだ。早速、政府の公開データと、自治軍の持つワームホールからチェックを始めた。この辺の作業は、本当に自分がやる必要があるのかは怪しいが、むしろヤスアキが自分に指示をわざわざ送り続けていることが嬉しいからやるのだ。それにススキノでのこともある。なんにせよ、ヤスアキに信楽焼のことを隠している今の自分はいつにもまして従順だと、自分でも感じる。  『雑誌と報道』国際フォーラムも計上されているが、イベントやパフォーマンス性のある経験時間をデータ化する仕組みは後七九五年から公的にも導入され始めている。今回の任務は、こちらもチェック業務ということだ。人間は多くのことについて定期的に再確認をしないとならない。だが、コストはかけられないという算段だ。国との抗争上、自治軍内でも一定の人間は知らされてないが、インフラ面のビジネスはとっくのとうにヤスアキのものだ。だから政治はよくわからない。イデオロギーは論理に敗れたのだ。配給のカレーを頬張りながら、サーバーからとりあえず会場を覗いてみた。はやくヤスアキに会いたい。映るのは虫ケラには奇々怪々な顔に見える人間ばかりだ。こういうイベントに集まる人間は大抵小奇麗なのに気持ち悪いから、反対に少し汚くて目の保養になる人間が浮き上がって見つけやすい。時間は、どうにかまだ講演前のようだ。ヤスアキは自分の時間感覚がずれてくることを予想してないはずがないのだが、こういう指示が来るのはどういうことなのだろう。どこかで、次への糸口を見つけないとならないかもしれない。」  ¶メモ1  僕だったのでしょう  生きてそこにあったものが誰になりましょうか。共に悲しむ時間を、この静謐に注いでくれて、声が出ません。どうして、人だったものは人をやめていくのですか。  靴紐を白から黒へ、入れ替えている最中、急激に友達を思い出して、いちいち生きる決心をします。  何回も、何回も、生きる決心をしながら、吐こう!  好きな人が、  この世には、  たくさん、たくさん、  増えていく一方です、  可笑しいと思われますが。  ハナタラシの坂道を駅まで登っていけば、風が僕を乾燥させていく。踏切の女体は、いぶかしげで、変身の準備。僕のカバンの中からフラミンゴを取り出して、なんかほら、犬の糞でもいけるよ。僕も女体になってみたい。ピンクの女体になって、新しい駅までかかと10cm。  歩くのも、難しい。慣れた男体からもう逃れられない。僕をゲイだと知って、なぜ告白してきたの。その際、吐いちゃうと思うけど、それでも好きだよ。っていうのわかるよ。死ぬまでの自由な時間を、かどかどテンポでハイヒールスキップいける  てってってって  愛しています。  ¶連絡2  アメリカで代理出産をするために  宝くじを買う日々を  協賛企業に、理解してもらう  日は来ませんが、  穏やかにやさしく己を営んでいきます。  たけちゃんと、  迎え来る子の名を  夜空、クジラ、窓、青  どんなのがいいかなと他愛なく  舟に乗せ、  星と共に沈むところまでお見送りを。  このたびは、  生きて出会ってくださり、  愛しています。  ¶秋分の来邦  気合を入れる  のは  やめました。気合を入れるのは  今は疲れますよ。  僕のたどたどしい日本語を  「上手だね、上手ですね」  と褒めてくだすって、うれしいね。  線の少ない  対人関係ですが  あなたしか居ません。  ¶短編集でした。  もう死蔵しているものはない? そんなはずはないです、いいえ、誰でも。量産型悲しみならいくつでもストックがあります。蔵出ししてみて……、はて。一升瓶のワインのような、役目。  実際、ビーレビを始め、蔵出しされた詩は生き始めるのでしょう。サーバークラッシュしてもTwitterやFacebookやmixiや更に旧世代サービスが終了しても、私、読んじゃったもん。ってかるべが思っているのかは怪しい。ただ、色々な人がいるという冷静な事実を元に粛々とノルマをこなすのに、そのノルマをずっと疑っている。根本的に福祉。  それでも朝起きたらタイムリープしてしまう。  落選することや評価が高くないことやコメントが来ないことや意見が合わないことや迎合できないことや、落ち込む間もなくタイムリープしてしまう。身体のファンクションに粛々と従いすぎるほど、物理的な自身も信じていない。ファンクションを冷静に選別する矛盾を、特に語りもしないのに、諦観主義でもないのです。  長い明日が始まりました。


詩と死蔵 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 2
P V 数 : 1793.3
お気に入り数: 1
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2019-06-07
コメント日時 2019-06-24
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項目全期間(2024/03/29現在)投稿後10日間
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2024/03/29 22時06分53秒現在
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詩と死蔵 コメントセクション

コメント数(2)
かるべまさひろ
(2019-06-09)

仲程 様 コメントをありがとうございます。 いえ、グルーオン記憶にも残っています。読んだ詩は、読書経験です。 沼はスラングから取りました。ありがとうございます。

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IHクッキングヒーター(2.5kW)
(2019-06-24)

>個性的とか多様性とか、社交辞令でしか耳にしないでしょう の部分が目に止まりました。 このMoonsの続きが気になる。個人的にはこれで終わりなのが納得できないというか、起承転結の転で終わってしまったような感覚でして。わざとなのかもしれませんが。

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