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ルシアン   

沙一 
作成日時 2019-02-12
コメント日時 2019-02-12

 

帰りの電車が止まって、しらない街の駅で降ろされた。夜の路をしかたなく、乗換駅まで歩く。疑問形をした街灯が、だいだいいろの光をなげかけていて、ゆきかうひとたちの影が亡霊のようにあわい。古いお寺をみかけるたび、ここではないどこかへ、こころをさらわれそうになる。 かえりたい けど まよいたい 桜の香りにみちびかれて踏み入れたのは、あたりいちめんの墓地。そのまんなかに、花灯りの並木路がつづいている。そちこちの墓石の影がどこか、ひとの佇まいのよう。とおくにみえるビルが、いくつもの燐光を発している。 木造民家風の珈琲店に寄り、 「ルシアン」 音に惹かれて注文した。 酔いそうなほどにあまく、いたずらずきの妖精に魔法をかけられたみたい。 つかれた顔と、あたたかみのある灯りが、暗い硝子窓にうつりこんでいる。ふれあいをしらないからだを、もたれさせてくれる椅子のやさしさに、ねむたくなる—— かえらなきゃ でも ここにいたい 燐光がとおくにみえる。佇んでいるひと。暮石の影はそちこちに。並木路の花灯り。あたりいちめん、さそいかける、桜の香り。さらわれそうになるこころ。あわい亡霊の影。ゆきかうひとたちがなげかけられている、だいだいいろの疑問。歩く、歩く、しかたなく。しらない。止まってしまった、夜の帰り。


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