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ルシアン   

作成日時 2019-02-12
コメント日時 2019-03-29

帰りの電車が止まって、しらない街の駅で降ろされた。夜の路をしかたなく、乗換駅まで歩く。疑問形をした街灯が、だいだいいろの光をなげかけていて、ゆきかうひとたちの影が亡霊のようにあわい。古いお寺をみかけるたび、ここではないどこかへ、こころをさらわれそうになる。 かえりたい けど まよいたい 桜の香りにみちびかれて踏み入れたのは、あたりいちめんの墓地。そのまんなかに、花灯りの並木路がつづいている。そちこちの墓石の影がどこか、ひとの佇まいのよう。とおくにみえるビルが、いくつもの燐光を発している。 木造民家風の珈琲店に寄り、 「ルシアン」 音に惹かれて注文した。 酔いそうなほどにあまく、いたずらずきの妖精に魔法をかけられたみたい。 つかれた顔と、あたたかみのある灯りが、暗い硝子窓にうつりこんでいる。ふれあいをしらないからだを、もたれさせてくれる椅子のやさしさに、ねむたくなる—— かえらなきゃ でも ここにいたい 燐光がとおくにみえる。佇んでいるひと。暮石の影はそちこちに。並木路の花灯り。あたりいちめん、さそいかける、桜の香り。さらわれそうになるこころ。あわい亡霊の影。ゆきかうひとたちがなげかけられている、だいだいいろの疑問。歩く、歩く、しかたなく。しらない。止まってしまった、夜の帰り。


項目全期間(2019/08/22現在)投稿後10日間
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閲覧指数:107.3
2019/08/22 14時07分39秒現在
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コメント数(1)
かるべまさひろ (2019-03-29):

女子と文豪が融合したような文体で、それでいて沙一さんの技術があるので、なんとも独特な猫町を歩かされました。 面白かったです。

投稿作品数: 1