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むむむむむむむむむむ
#1 小学校の体育館のど真ん中に侍が十人、白装束を身にまといこれから切腹を順番にしていくことになる。私は外国で外交官をしている旦那と一緒に馬に乗り道を歩いていると、野良犬が現れて私の馬に吠えかかった。私の馬はそれに驚き暴走してしまったのだが、そこに十人の侍が助太刀という形で馬を斬った。私はその際に転倒し腕の骨を折る怪我をしてしまったのだ。旦那はそれに怒り「国際問題にするぞ!責任を取れ!」と言ったことが現在の状況を作っている。最初の侍は「…フン。」と私達を見下すような目をしながら無言で腹を切り介錯された。次の侍は大声で私達に向かってこう言った。「良いか!俺は決してお前らのために死ぬのではない!この国のために死ぬのだ!」そう言い残すと直ぐさまに介錯された。旦那も私も気分が悪くなり「この辺でお止め下さい…気持ちは十分に伝わりました。国際問題にはいたしません。」と言ったが、介錯人は「今更そんなことを言ってももう止まりませぬ。是非、この者達の最期を見届けて頂きます。」と言われてしまった。後、八人…。 #2 錆びた鉄に身体を擦りつけたような汚れが多数ある、そんなウサギの着ぐるみが私の机の周りをクルクルと回る。たまに私の顔をジーッと覗き込む。皆、見えないふりをしているのか…それとも本当に見えていないのか…。ウサギの存在は私以外には見えていない。私もウサギの存在を見えない物として扱っているのだがどうやらバレているみたいで、「無視なんて酷いな~」「良いこと思いついた!聞きたい?」なんてしょっちゅう話しかけられる。ある日、トイレをしていると上から水が降ってきた。私の身体はびしょ濡れになり、ドア一枚を隔てて笑い声が聞こえた。私はドアを勢いよく開け直ぐにウサギの胸ぐらを掴んだ。「あんた、そこまでして私に構ってもらいたいわけ?」ウサギは戯けた感じに答える。「はひゃ!やっぱり見えてるんだね~!だ・け・ど…これは違うんだなぁ~ボクはずっとここで君の事を見ていたから分かるんだよ!」「誰がやったんだよ!」私が怒鳴り散らすと、ポッケから酷く錆びたナイフを取り出した。「教えてあげても良いけれど~このナイフを握ってもらうよ!これは恨んでいる人を必ず殺すナイフ。一度でも握ったらもう誰にも止められない。どうする?」そんなもん嘘に決まっているとウサギが持っているナイフを掴んで投げ捨てようとした時、着ぐるみの顔が歪んだ笑みになった。 #3 エレベーターに乗っている。上に向かっているのは分かるのだが、ボタンが見当たらないし何階かの表示もされていない。密室空間でありカメラも見た感じでは付いていないような古い作りだったので、もう立っているのも疲れたので身体を小さく丸めて寝ることにした。…結構な時間寝ていたと思うんだけど、エレベーターはまだ上に向かっていた。そもそも私は何処へ向かおうとしてこんな果てしないエレベーターに乗ったのだろう。理由を忘れてしまうほどに私はもしかしたら乗っているのかも知れない。スマホを覗き込む。私は確かに日時の部分を見ているのだが読めない。それ以外は分かるのに、日時だけが頭で拒否しているのか全く読めない。この空間はおかしいと今更ながら意識しだし、恐怖に支配された私は発狂した。しかし、発狂したら戻れないというのは嘘だ。体感で何年も叫んでいるなんて出来ないらしい。こうやって冷静になってしまうようだ。ずっと省エネモードのままのスマホでネットサーフィンをしていると、チン!という音が鳴った。何処に繋がっているのだろうと私は生唾をゴクリと飲み込んだ。ゆっくりと開かれる扉の向こうには、またエレベーターの狭い空間が広がっていた。 #4 雫石さんは名前の通り、涙が綺麗な石で出来ている。それはとても高く売れるそうだ。だから雫石さんは感動する映画を見てポロポロと涙を出しては、それを宝石店に持ち込んで至福を肥やしていった。この時は綺麗な青い石。だけど、そんな生活も永くは続かなかった。感動する映画にマンネリしてしまった。「はい、また死ぬんでしょ?」「はい、再開おめでとう。」「私を泣かせる価値もない駄目映画」など言うようになった。私はこの辺で嫌な人になってしまったと距離を取るようになったので噂でしか聞いたことがないが、雫石さんはその後、お笑いのDVDや劇場巡りをするようになり笑い泣きをすることを選んだそうだ。この時は黄色い石だったそうだ。だけど映画同様、見慣れてしまい何も笑えなくなってしまった。感動することも、面白い事もなくなった雫石さんは今度は怖がったりするようになった、絶叫マシーンを巡るようになった。この時は赤い石だったらしい。でもそれも慣れてしまった。もう何も感じないなと思っているある日、噂を聞きつけた外国の犯罪者が雫石さんを誘拐した。雫石さんは身体を鉄柱に張り付けられて殴る蹴るの暴行を受けた後に、熱した鉄パイプをチラつかせられた時、まずは恐怖がやって来て、次に自分はどうなってしまうのだろうとワクワクして、もうやって来ないと思った感情の蘇りに感動して七色の石を目から零した。外人の犯罪者はそれを見るなり溜息をついた。「あんた、それが出るって事は打ち止めじゃん。」たった一雫だけ石が出て、その後は普通の涙が出るようになった。「用がないから帰すって訳にも行かないから、申し訳ないけど死んでもらうは…。」そうやって雫石さんは殺されたらしい。 #5 私の家にボンテンムシが住み着いた。ボンテンムシは煙を食べて大きくなる虫で、煙であれば何でも良いらしい。うちの家族は全員喫煙者なのでボンテンムシにとっては最高の環境である。何となくボンテンムシがいると何時もよりも多めに煙草を吸ってしまう私達。一番大きいのでソフトボールくらいのサイズだ。「こいつらどんだけ大きくなるんだろうな…」とウォッカを飲みながらお父さんは言った。お父さんは結構酔っ払っており、おぼつかない手でグラスを握ろうとしたらウォッカを零してしまった。そこに小さな火種が落ちた時、テーブルを包み込むように勢いよく引火が始まった。急いで消化器を準備したけど使用期限が過ぎて使い物にならなかった。布団を被せて水をそこにぶっかけたりもしたけど火は止まらなかった。もうどうしようもなくなった私達は家から飛び出して燃え上がる家と、煙を食べてグングン育つボンテンムシが空高く飛んでいるのを眺めることしか出来なかった。 #6 真っ白な部屋の隅にボコボコにされて、頭に布を被せられ血で身体を染めている猿と思われる生き物が倒れている。私の近くにはアルバム写真があり、1ページを捲ると“この中の誰か”という汚い字のメモ紙が入っていた。あそこに居る猿みたいなのがこの中の誰かだというのだろうか…。どうして猿みたいな身体をしているのだろう。この中の誰かの顔をしているのだろうか…。覗いてみたい気もするけど、私にはあの惨い姿の更に酷そうな部分を覗く勇気がない。でも、この空間には出口という物はない。あるのは写真。居るのは私とこの中の誰かと言われる猿らしき生き物だけだ。猿?はまだ生きていて、一生懸命に呼吸をしようとしているけど吸い込む空気に対して肺が膨らまない。このまま放っておいたらいずれこの猿?は死んでしまうだろう。…それで良いのだろうか…。道具もないけど手当とかしなきゃいけない。あの布を破って止血とかに使わなきゃいけない!怖いけど私は近づいて被った布を外した。そこには猿の身体をした私が瀕死の状態でいた。私はパッパと手で顔を触る。…私は誰だ?なんで私が猿なんだ?私は誰なんだ?“この中の誰か…この中の誰か…” #7 とある屋形船に私はチバくんと乗っている。歳は大分離れているけれど私達は親友だ。チバくんは私が意識しだした2003年の姿で止まっている。変わったのは一つだけ、友達になる前の格好いい声がもう出なくなった。だから口数が極端に少なくなったし、声も張らなくなった。別に私に原因があるわけではないんだけど、もし私と友達にならなければ戻ったりするのだろうかと考える。そうだったら私は辛いけどそっと離れるだろう。だってチバくんにはステージが似合うし、待っている多くのファンがいるのだから。屋形船は老若男女、特に50代の男性が多めでなんだかとにかく騒いでいる。鐘を鳴らしたり太鼓を叩いたりしながら踊り、酒や肴をガブガブと平らげる。怒っているんだか、悲しんでいるんだか分からない笑い声がする中で、私とチバくんは黙って酒を飲み、黙って刺身を口にしていた。私がセーラムを吸おうとすると「それ…1本…ちょうだい。」とチバくんは言った。チバ君は普段メンソールを吸い慣れていないから、セーラムの弱いメンソールにもむせていた。何回か大きく溜息も混じりながら吸った後、チバくんは私に問いかける。「なぁ…。この船ってなんだと思う?」「何って、屋形船でしょ?」「昔さ、ほら…平成たぬきなんちゃらって、あったじゃん?」「ああ、ぽんぽこ?」「そう、それ。…あれにさ、ボケた立派なたぬきが変身できないたぬきを宝船に乗せて自殺しに行くシーンあったよね。」「あったね確かに。」「ここに居る奴ら皆、念仏踊りしていると思うんだよ。皆、変われないから…これから死んでしまうんだよきっと。」「え?チバくんは変われるよ!降りよう!ここから降りてやり直そうよ!」私はそう言って障子を開けるとひたすら真っ暗な海に居た。振り返るとさっきまで騒いでいた人達が居なくなっており、チバくんだけが座っていた。「もう、終わりなんだよ。俺は前に歌っていたじゃん。最果ては音のない世界だって…もう、近づいているんだ。」 #8 とても暑い外。太陽は白く輝いている。逃げ水が一本道の先で揺れている。その中に小さな男の子が手を振っている。いずれ会えるだろうと思いながら歩いているが、男の子との距離は縮まらない。別に男の子は走っているわけでもないのにこんな事ってあるだろうか?そんな疑問を抱えながら私は早歩きをすることにした。だけど全く距離が縮まらない。近くの自販機で麦茶を購入し勢いよく飲み干した。今度は走った。男の子は相変わらず遠くで手を振っている。別に走っていない。だけど距離は縮まらない、私はもっと早く、もっと早く、私はとうとう全力疾走することになった。全力疾走をしていたら突然、誰かに腕を掴まれた。振り返ると小野原君だった。「やっと捕まえた!」と感激されたが私には何が何だかサッパリだった。ふと周りを見渡すと、多くの野次馬、報道記者、警察、救急隊員に囲まれていた。救急者に私は乗せられて、同席した両親から話を聞いた。どうやら私は男の子を追いかけて3年も地元を走り回っていたらしい。色んな人が私を捕まえようとしたらしいけど、誰も捕まえることが出来なかったそうだ。男の子は何処に行ったのか聞いたが、そんなのは最初から居なかったと言われた。夕方、季節は秋、少し寒かった。 #9 博士がフラスコにネルネルネルネみたいに番号の書かれた粉をフラスコに入れてかき混ぜていく。「稲瀬さん、これはなんなんですか?」「博士と呼びなさい!これは小バエを集める匂いを放つ薬です。」「そんな作ったって、夏の生ゴミ付近でしか役に立たないでしょ?」と私は呆れながら言う。そんな発言に対して博士はとても得意げに返す。「あんねー分かってないな。君、夜の正体って分かる?なんで黒いか分かる?」「日が暮れるから…」「確かに日が暮れると夜が来るんだけど、本当は青いんだよ!夜は深い青なんだよ!だけど、月の光に惹かれて小バエが集まってるの。あれね、全部が小バエなの!」こいつ…頭がおかしいんだなと思いながら私は煙草に火をつけた。博士は気にせずに話し続ける。「私はこれでこの先の人類に本当の夜を見せてやりたい!」くだんねーと言いかけるのを押さえて私はペットボトルに入った炭酸水を飲んだ。すると博士は大慌て「それは作り溜めしておいた薬の濃縮物なんですけど~!」「稲瀬てめぇ!マジふざけんな!ファンタに入れてんじゃねえよ!」「博士と呼びなさい!どうしましょう…取り敢えず、夜が来ると小バエがあなたに集まりますので、この絶対安全カプセルに入って下さい。」そう言われ私は一軒家サイズのカプセルの中に押し込められた。「いいですか?よく聞いて下さい。この絶対安全カプセルは起動したら外部からの攻撃は勿論、内部からの攻撃にも耐える代物です。」「え?ちょっと待って、どうやって出るのさ!」「それは…その、考えていませんでした!」「稲瀬ぇ!お前!ほんと!何やってんだよ!」「あ、でも衣食住には困らないような装置も完備されていますから!暫くはゆっくり安心して過ごしたらどうですか?私がその間に解決方法を見付けるんで。」こうして私は稲瀬が解決するまでこのカプセルの中に居ることになったのだが、このカプセルの中は想像以上に居心地が良くて別に解決出来なくても良いんじゃないかとさえ思えてきた。そう言えば、本当の夜は青いのだろうか?いつも夜になると空は真っ暗になる。これは小バエの集まりなのだろうか…それとも…。 #10 顔のない女が道ばたでめそめそとしていた。多分、泣いている。近づくと女はツルツルの顔に落書きをされているのに気付いた。近所のガキどもに羽交い締めにされて油性ペンで書かれたらしい。ちょっとした強姦みたいなもんである。私は家に女を連れて行き、インクを落としてあげた後に兄に電話をした。暫くすると兄が家にやって来て希望の顔はどんなのか表情図鑑から選ばせた。兄は芸大の出身で絵画がメインだがマルチに出来る人でもあり、今回は取り敢えずお面で対応することにしたらしい。数ヶ月後、数枚のお面が出来上がり顔のない女はとても喜んだ。それから更に時が経ち、あの女の事なんて忘れかけてきてる頃、ニュース速報で残酷な事件の話が流れた。若い美人の女性が何者かに顔を剥がされ殺されるというイカレタ事件だ。この時、私はとても嫌な予感がして止めなきゃいけないと思ったが、もう女はツルツルではないし、落書きもされていない。もうどこに居るのか分からなくなってしまった。
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作品データ
P V 数 : 2437.6
お気に入り数: 1
投票数 : 6
ポイント数 : 4
作成日時 2021-05-19
コメント日時 2021-06-11
項目 | 全期間(2024/11/07現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 0 |
エンタメ | 2 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
- 心地よい絶望 (杜 琴乃)
長すぎて読む気が起きません
1別に読まなくてええんやで そんなん言わんでも分かる ここにいる奴ら皆がそう思っとるだろうな ちょっと徒労を経験しといた方が良いなと思って書いたねん
0怪奇小説的で面白かったです。良かれと思ったことが良い結果に結びつかない救いが無い感じ、ハッピーエンドに慣れてくるとこの裏切りが気持ちよかったです。人生そんなに上手くいかないよね~となんだか安心しました。
0見た夢をキーワードに書き重ねを繰り返してみました。寝かせる事で客観できてるつもりではいたのですが、投稿した後に本当の客観になったというか、全部救いがねぇなと自身に呆れも入りました。
0どの連も読みごたえがありました。
0ありがとうございます。
0気になってたけど、長くて読めてなかったんですが、今読んでみて、めちゃくちゃ面白かったんで良かったです。「絶対安全カプセル」で吹き出しちゃいました。「チバ君」も好きです。会話文がちょっと冷めてるところが雰囲気ありますね。コントみたいな。これに「む×10」とタイトルがついてるのかっこいいすね。
0ライ麦さんのコメント、それに対する筆者さんの返答。おもしろい、本当におもしろい。オレ、ヒマなんかな?! この#1~#10の作品に対して、感想書けるほどの力がありません。ただ、一気に読みました。久し振りの一気読みです!? 予定外に一気にコメント書くハメになりました。凄い作品ありがとうございます。
0タイトルがあんまりちゃんとしたの思い付かなかったので、夢(む)を並べてみました。夢日記をベースにクジで単語を引いてやりました。端々さはその影響を引き継いでると思われます。
1返答はまぁ、そりゃそうだろって内容なのであんな感じに返しました。一気に読んでくれてありがたいです。私にしては遊びもいれながらも考えながら書いた方なので。
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