風は、もうすぐ死ぬと言った。
声は元気な気がしたが、吹いた風は弱々しかった。
困ったことになった。
連れてくると約束したのだ。
なんとかならないかと聞くと、君が運んでやればいいと笑う。
そういう問題ではない。
私は思わず声を張る。
私では意味がない。
彼はずっと待っているのだから。
彼は私でなくおまえを、ずっと待っているのだから。
いつかに届けたあの風を、もう一度届けてやってくれないか。
先の短いあの彼にどうか。
どうせ行くところは同じだ。
ほうっておいたところで、彼はすぐに再会を果たす。
私の知らないところで。
無事に済んだかは、私には確かめようもないけれど。
だからきっと、この約束を果たして救われるのは私だ。
私のための約束だ。
私のための約束を、彼は叶えてくれと言ったのだ。
約束も救いも、お願いも祈りも
直線のようでいて、蛇行し絡み合い、重なり合う。
エゴか善意か、自己満足か配慮か
遠くにあるようで、共存する。
同じ目には見えずとも存在する。
つまり、ともかく叶えてくれ。
彼が健やかに進めるように、
安心したい、この私を満たして。
風は調子のいい声で、愛しているんだねと言った。
それだけ言って風は死んだ。
一吹き、彼の痩せた体を撫でて。
私は安心した。
間も無く、彼はその短い生涯に幕を閉じた。
瞬間、彼の周りは騒がしくなって、すぐにみんな彼を忘れた。
新しい風が私の梢を揺らした。
作品データ
コメント数 : 5
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作成日時 2025-10-01
コメント日時 2025-10-19
#現代詩
#縦書き
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2025/12/05 22時52分48秒現在
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こんばんは。 >>私のための約束だ。 という一文が刺さりました。 自分を満たすことの上に他人を満たすことが存在しているんじゃないか、とよく考えるので この詩の中に散りばめられた考えは刺激を頂ける文でした。
1こんばんは。風と木とのロマンチックな邂逅の物語。とても沁みました。 これこそ詩であり、物語であると言いたくなるような一品。 風に出逢いたいのは樹木だけではないでしょう。小鳥もそうだし、人間だってそう。 私はいつも風に出会っています。日々新しい風に。
1風が死ぬ、というのが独特ですね。私とおまえとの関係が主な内容のようですが、すこし、代名詞が何を差しているのか、混乱する感じがしました。もう少し書き方を詰めた方がいいと思います。何となく記憶に残るものはあるのですが、もう少し具体的、直接的に書いた方が、より読者に伝わって、作者の感慨が形になると思います。
1導入のメルヘン的な部分と後半のドラマティックな(ドキュメンタリー的な?)感じが相まって全体を通してよかったです
1ふと、北風のうしろの国を思い出しました。マクドナルド牧師の。「彼」の存在が大きいですね。早く死んでしまう。既に風になって居たのかもしれません。彼も死ぬし、風も死ぬし。新しい風と言う言い方が、皮肉ではなくて、現実の過酷さを象徴して居る様でした。
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