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藍と幻葬のハルキズム
螢の灯りを見た でも、それはいつのことだっただろう あの果ての暗がりの中の水温 煉瓦造りの古い水門 数百の魂の火を見たはずだった 燃え盛る火の粉のように なだらかな水面を撫でるように照らす あの魂の火の群れたちを 白昼の明晰夢から醒めた夢を見た ランタンの傍に置いたのは 手作りしたサンドイッチ 水滴を纏ったビールジョッキ なぜこれらは許されなかったんだろう この藍と幻葬に満ちた思想の ほんのささやかなあり方なだけなのに パスタをやさしく啜りながら そっとすすり泣いていく なぜ藍と幻葬のその思想を追い求めることが こうも難しかったんだろうか 煌々と燃える納屋、星々のせせらぎ ただ缶コーヒーだけが温かみを有した寒さの中 その明晰夢の寂しさを今でも覚えていた 君が去っていった日を覚えています 28の番号が付いたバスに乗っていきましたね あの日、僕は君のいない世界に置いていかれました 桜草をそっと供えて喪に服す日々の余韻です この涙をどうしようというのでしょうか 四千の昼と四千の夜は過ぎ去ったのに その寂しさのためにも生きていた 霧の深い十一月 その霧の上に浮かんだ空中庭園にいた 「ケルン、フランクフルト」 目を瞑りながら それらの街の名前を呟いたあと そっと瞼を開いた 海だ、霧の ただ月の光と東ドイツのサーチライトだけが 揺れる水面を照らしているんだ 手元には瓶の中でふわふわと生きる螢 蓋を開ければ螢は何度も何度も 弧を描いたり描かなかったりしながら やがて東の向こうへと消えていってしまった でもまだ見えるんだ 螢の描いた弧が光を纏っているのを 闇の中でそのささやかな光が 行き場を失った魂のように いつまでもさまよっているのを 闇の中にそっと手を伸ばす 何にも触れることはないけれど でもその小さな光が 僕の指のほんの少し先にあるのを 確かに見たんだ 藍の星に葬られる幻
藍と幻葬のハルキズム ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 698.1
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-06-06
コメント日時 2025-06-14
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
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| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
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| 構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


「藍と幻葬のハルキズム」ってタイトルだから村上春樹が念頭にあるのは当然わかるのだけど、藍と幻葬。ざあっと読んでみれば外国の地名が出てきたり四千の昼と四千の夜、とは「四千の日と夜」田村隆一も意識されている。田村隆一といえば海軍予備教練生として兵役にも従事していたことは周知の事実で、戦後を代表する荒地派の詩人である。それに東ドイツが絡んでくると何やら紫色にキナ臭い、戦争という壮大なテーマも見えてくるような… 戦争を生き残った人たち。特に兵士たち。そしてヒロシマナガサキ。よくインタビューで流れてきますね。せっかく生き残ったのに幸せそうにコメントする人はいない。むしろ後ろめたい負い目を感じて生きている。という事実を。 「藍と幻葬の~とは、そのような戦後から四千日の暗い空虚な時間をいまに重ね合わせているのかも知れない。極右へと流れていきそうな未来への予感から。これは村上春樹作品にしても一貫して言えることだと思いますよ。もちろん文体は新しくてユニークだけど。 最後にオクタビオ.パスの一説を中抜きで添えておきます。 ~しかし詩の時間は革命の時間ではない。批判的理性のある時間やユートピアの存する未来ではない。(中略) 詩の時間とは時間に先立つ時間。少年の眼差しに浮かびあがる前世の時間。日付のない時間なのだ。オクタビオ.パス「子供たち」 まださあっと読んでみただけですが、力作でなかなかよく書けてると思いますよ。ティムくんは詩の階段を登っている。
0このタイトルは村上龍の「愛と幻想のファシズム」のパロディですね。
0藍の星は地球の事だと思えますし、藍の星に葬られると言う事は宇宙時代、もうちょっと広大な外部があると言う事を示唆しているのかもしれません。
0コメントありがとうございます! 東ドイツ:村上春樹短編集のドイツ幻想よりもってきた感じ。原作に書いてあったから、ついもってきて、あまり戦争はイメージしていない。 四千の日と四千の夜:僕「困った……何かいい表現……あっ、そういえばあったな」 この辺、いくらかの詩人と衝突する要因の一つでもあるが、テイムラー隆一という詩人はあまり社会派性を帯びない作品を書こうとすることが多い。既にメルモさんも知っているだろうけれど……。 『詩の時間とは時間に先立つ時間。少年の眼差しに浮かびあがる前世の時間。日付のない時間』はすごくいい感じというか……実際、僕の詩の大半はそんな部分があるし。中南米の詩人は以前から着目しつつはあったけれど(ボルヘスもそうだし)、いずれ本格的に読んでみるとするか……。
0コメントありがとうございます! バレたか……君のような勘の良い牡蠣はフライだよ(唐突なタッカー構文) >ランタンの傍に置いたのは >手作りしたサンドイッチ >水滴を纏ったビールジョッキ >なぜこれらは許されなかったんだろう ある意味、この部分のためにこの詩は書かれたともいえる。反ハルキズムというのを目にするたびに、僕はこの気持ちになる。僕自身がハルキストだからというのもあるけど(雑文集、短編集一冊、巡礼の旅しか読んでない人間をハルキストと定義できるかはともかく)
0コメントありがとうございます! 空の上の星を本来は指しているつもりだったけれど……その広げ方、いいかもな……ありがとう……!!!!
0村上春樹さんの作品は「蛍、納屋を焼く」の短編しか見たことないのですが(泣)、螢と一文目にあり謎の安心感を感じました笑 観光名所でも何でもない田舎の片隅に古い家屋と煉瓦の水門を発見したことがあります。あの時の記憶もふと蘇った良い詩でした!ありがとうございます!
0村上春樹が明確に神がかっていたのは80年代ー90年代だが、本当にテイムラー隆一はここらへんをおさえてハルキスト派を標榜しているのだろうか?たとえば「1973年のピンボール」とか。あれは今の若いのには受容されてるのだろうか?この作品からは、ぜんぜん春樹臭がしてこないのだけれども...
0コメントありがとうございます! 実のところ、その二つが収録されている短編集をもとに書いた詩でもあるからね……。 気に入ってくれて、嬉しい……
1読んでおいてよかったです~ 或る映画に一瞬登場して、気になって去年読んだんです~
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