二本の映画

　もう五十年も前のことになるから、僕の記憶にはかなり間違っているところがあるだろう。懐かしさから美化もされているかもしれない。ただ、心に大きく残ることであるから、少し僕の考えを書いてみたい。　それは二本の映画の話で、一つはかつて量産されたマカロニウエスタンの作品、もう一つはロマ族の盗賊（義賊）について描かれたものだ。　まず最初のものから説明すると、ある男がならず者集団によって支配された町に帰って来る。彼が向かったのは、裏通りにある粗末な小屋だ。そこには老黒人が住んでいた。二人は旧知の間柄で、男は老黒人を見て、彼のかつての雄姿を思い出す。筋骨隆々たる若い黒人男性は大きな弓を引き絞り、まだ幼かった男の前で、「坊や、俺は自由のために闘うんだ」と言う。子どもが憧憬の眼で見つめていた若き姿と、全ての希望を失った老黒人の落差に男は言葉を失うが、男は彼に一緒に戦わないかと声を掛ける。無理だと彼は答える。しかし、最後に彼は立ち上がり弓を取ると、戦いの中で命を落とす。　二本目については、僕自身幼かったことから、その内容は殆どわからなかった。でも、映画のラストシーンが僕に強い印象を与えた。警察に追われ盗賊が去ろうとする町で、ロマ族の子どもに出会う。子どもは、僕は貧しくて勉強ができないと言う。男は子どもの前で、地面に字を書く。「勉強はどこででもできる。ほら、君は字を覚えた。頑張れ！」。子どもは眼を輝かせて大きくうなずき、それを見た男は町を去っていく。　二本の映画ともに、アカデミー賞などとは縁のない娯楽映画で、評論家や眼の肥えた映画ファンなどは見向きもしないだろう。ただ、僕は若いというもおかしいくらい幼かった。だから心に響いた。　「老成した人」は冷え切った心で若き人に言うだろう。世の中の仕組みを、その偽善を。しかし純真な心はそんな高い壁など簡単に乗り越えるものだ。そして、その心に植え付けられた種が将来大きな木となり花開くことがないなどと誰に断言できるだろうか。　人生とは何だろう。戦いの中で死んだ老黒人は不幸だったろうか。ロマ族の子どもが覚えた言葉は碩学の知識に劣るだろうか。　実に生きるとは意外なもので、誰もが気に留めないことがその人の考えそのものを決定してしまうことがある。そして、それが正しいものだと思うのであれば、いかに多くの困難に当たろうとも、決して疎かにしないことだ。斜にかまえ、人間と社会を軽蔑すると人生は楽だ。しかしながら、そんな気持ちで生きるには、あまりにも人生は尊いと僕は思う。

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二本の映画　ポイントセクション

作品データ

コメント数　： 8
Ｐ　Ｖ　数　： 610.5
お気に入り数： 0
投票数　　　： 0
ポイント数　： 0

作成日時 2025-11-15
コメント日時 2025-11-24

#現代詩 #縦書き

項目	全期間(2025/12/05現在)	投稿後10日間
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2025/12/05 22時14分44秒現在
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作品に書かれた推薦文

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コメント数（8）

ぼんじゅーる

作品へ

(2025-11-23)

こんばんは。 >>実に生きるとは意外なもので、 >>誰もが気に留めないことがその人の考えそのものを決定してしまうことがある。という連が腑に落ちました。この「二本の映画」が誰かを強く動かす、何かの行動を変える、かもしれない。つまりそれは、万人に受けるかどうかとはまったく別のところで動いている小さな波動のように感じました。

takoyo2

作品へ

(2025-11-23)

作者の体臭が臭ってこない。無味無臭。 NHKの優良番組のナレーションのように、どこかで聞いたことのあるような、（だれを？　あるいはどなたを？　訓育されようとしているのか定かではないですが）「斜にかまえ、人間と社会を軽蔑すると人生は楽だ。しかしながら、そんな気持ちで生きるには、あまりにも人生は尊いと僕は思う。」と語る。読んだ方としては「はあ」と頷きながら立ち上がり、深々と作者に礼をして「今後、真面目に生きます」と身体を傾けるしかない。しかし、身体を起こしてから笑　なんでおれこいつに礼などしなきゃならんの、なんでおれこいつに説教されなきゃならんと吹き出すしかないのですよね。それがまた結構おもしろい。さすがネットです。こういう方がいるのですね。いや、おもしろい。

watertime

ぼんじゅーるさんへ

(2025-11-24)

自分以外の人にとっては他愛のないことでも、本人には大切なことがありますね。人の価値観はいろいろ、自分の感じたことを大切にしながら生きていきたいもの。それが、ぼんじゅーるさんの言う波動に繋がるのかなと私も思いました。

watertime

takoyo2さんへ

(2025-11-24)

私は、あなたに説教をする気も無ければ、礼をして欲しいとも思わないのですが。ところで、takoyo2さんの「詩」を読んでみたが、下手というかセンスナッシング。論評に値しない。私はセンスのない方に説教などしても仕方ないと思うし、礼をされるなど御免です。あなたは人間性もひねくれているようだし、はっきり言うが、センス（才能）がないやつは、いくら詩を書いても上手くならない。皮肉めいたことを書くのは、少しはまともな詩をものにしてからにして下さいね。

レモン

作品へ

(2025-11-24)

ふぅーん。偉そうな詩ですね。｢どうだ！俺はこんなに素晴らしいんだぞ！｣って声が聴こえてきそうです。こんな尊大な詩、読んで損しました。

watertime

レモンさんへ

(2025-11-24)

この投稿は詩ではありませんよ。詩と雑文の違いくらい理解してください。

レモン

watertimeさんへ

(2025-11-24)

では、｢現代詩｣と表示しないでください。

watertime

レモンさんへ

(2025-11-24)

読めばわかると思うが、それとも投稿システムのカテゴリ分けが全てだとも？その辺り把握してなかったので、まあ、これから気を付けますよ。

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