目の前に一本の道が現われた。
この道を行けば、海に出る。
ほら、かすかに波の音が聞こえる。
見えてきた。
海だ。
だれもいない。
天使の耳が落ちていた。
また、触れるまえに毀れてしまった。
錘のなかに海が沈む。
この海を拵えたのは、天使の耳だ。
忘れては思い出される海の記憶だ。
生まれそこなった波が、一本の道となる。
この道を行けば、ふたたび海に出る。
*
月の夜だった。
わたしは耳をひろった。
月の光を纏った
ひと揃いの美しい耳だった。
月の渚、
しきり波うち寄せる波打ち際。
どこかに耳のない天使がいないか、
わたしはさがし歩いた。
*
──どこからきたの?
海。
──海から?
海から。
──じゃあ、これを返してあげるね。
すると、天使は微笑みを残し、
*
月の渚、
翼をたたんだ天使が、波の声に、耳を傾けていた。
月の渚、
失くした耳を傾けて、天使は、波の声を聴いていた。
月の渚、
波の声は、耳の行方を、耳のない天使に囁いていた。
月の渚、
もう耳はいらない、と、天使が無言で呟いていた。
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 731.0
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投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-03-08
コメント日時 2025-03-11
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
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| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
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2025/12/05 22時12分07秒現在
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月のない夜だった。 わたしは天使の耳を付けたウサギに囁いたわ ~どうかモン.サン=ミシェルの地までわたしを運んでください.と.. すると月の夜が目覚めて 降りてきた耳のない天使が手を差し出しのよ 月の渚 わたしは城の上に導かれ お礼にわたしの耳を差し出したわ 天使は聞こえないふりをして 指先でわたしの眼を差した ~そう、眼が欲しいのね、いいわ、 わたしがそう言って眼を閉じると 天使の気配は消えていた モン.サン=ミシェルの城壁に佇んでいる もう何年も何年も 眼を開けば裸のわたしがいて 底の暗闇から三日月が眺めていたのよ。
1お読みくださり、ありがとうございました。
1こんばんは。 天使は何で >もう耳はいらない、と、天使が無言で呟いていた。 のでしょう? 死んでしまうからでしょうか? ありがとうございます。
1お読みくださり、ありがとうございました。 さてさて、どうしてなのでしょう。 もう35年ちかくむかしに書いたものなので 思い出せません。
1「月の渚、」が繰り返される最後の部分ら辺が結構好き。 あと、どことなく寂しい雰囲気も。 なんか、どことなく僕の書く抒情詩に雰囲気が似てるのもあって、読みやすい。
1お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
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