紙の塔
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Blues
一日の仕事が終わって 疲れ切って畳に座り込む 目の前には思いもかけず 死んだ父が立っていた 父は生まれた時から 足が不自由であるのだが 片足を曲げたまま 立っていた目の前に 身長およそ 百六十三センチメートル 俺は聞かれてもいないのに 大衆市場の野菜売り場で 早朝から立ちづめで 重い野菜箱を運搬し 陳列し売れたら補充し たまにお客から理不尽な 扱いを受けて怒られたりの 生活をもう十年以上続けている 社員にもなれず非正規雇用のまま これで六十一歳を迎えてしまった 人はまだ若いと言うけれども 手持ちの身体の蓄電池は 枯渇しているなどと つまらない冗談を交えて 話しかけていた なんだか惨めなものだと 話しかけていた 父は俺を馬鹿にした様な 顔をして唇を歪めて舌打ちをする ほら見たことかと 十時間も笑っていた 事実十時間も経過していた もう父はそこには居なかった 居ないはずだ死んでいるもの 生きている頃の父は 決して舌打ちなどする事はなかった 厳しく口うるさい人間ではあったが むしろ優しい人間だった 父を悪い人間と 自分に思い込ませて 俺自身の生きる道を 都合良く変化させていく 俺自身の重大なる問題である 昔からのそれは昔からの 悪い癖それは今となっても 治る事も無く居座り続けていた 遠くで川が流れる音が聞こえる やおら小便に行きたくなり 畳から立ち上がると 目前の仏壇の仏がことりと倒れ 元へと戻して用足しへ 洗面所で顔を洗って 面を上げてみれば 歯磨き粉の飛沫で汚れた 鏡には父と見紛うばかりの 老いた俺が父とそっくりな顔をして 睨み付けている 思いもかけず笑ってしまう 俺はまだ生きている 優しく勁い妻と生きて行く いつまでもいつまでも 死んだって生きて行くよ お父さん 見捨てずに 見守っていてくれよ お願いです
Blues ポイントセクション
作品データ
Ｐ Ｖ 数 ： 782.9
お気に入り数： 1
投票数 ： 2
ポイント数 ： 0
作成日時 2025-10-17
コメント日時 2025-11-05
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ささやかな生活の中の、強いきずなの愛情が感じられ、胸を打たれました。
0Bluse。元々黒人たちの辛い労働から黒人霊歌へと歌われきたジャンル形式なので、 それを詩として日本人が真似るのならば、 日々の辛い労働から悲哀感も込められて当然なのですが、 これは亡き父親を偲ぶという 過去の幻想から現実への錯綜として シャッフルさせたマイナーへの流れがいいですね。 歌にするには異民族である我々にはなかなか難しい、のですが、 真似事でも、その魂の叫び声が受け手に伝わるならば、 それはBluseとしても伝わると思う。 過去から現実そして未来への希望 幻想として眺めみるだけに その語りとしての齟齬や解離性も、 詩の流れとしてハマってきます。 なかなかですね。
0作品へのコメントとありますけど、某所のアイコンの褌？姿がすべての感想をかっさらっていってしまって、落ち着いたらよく読んでみます。
0お読み下さりありがとうございます。 臭い詩ですが、かけがえのないものです。
1丁寧なご感想ありがとうございます。 余りにも個人的にならぬ様、気を付けて書いておりますが、中々に難しい作業でした。研鑽せねば、と思う次第です。
0お読み下さりありがとうございます。 アレは褌ではなく、妻のパンティを盗み履きしたものですわ、なのでもっと質が悪くショッキングですなあ。
0うわあ、なんてことするんですか！ 奥さんの下着だとはさすがに思わなかったです。 家族っていいですよね。どんな生き方をしていようと、何があろうと、家族であったことは変わらない、そういうものなのだと私も親から伝え聞きました。
0ああ、父はもう死んで居る、意外な事実だと思いました。私自身は妻帯者。子供はいないよう雰囲気。非正規雇用のまま、意外と子供は潜在的には居るのかもしれませんが、あまりこの詩では問題ではないでしょう。仏壇の仏が全てを知って居るのかもしれません。
0死んだはずの父が立っていて、自分の現状を話したら、十時間父から笑われたと言う現実に重みを感じます。決して舌打ちなどすることのなかった生前の父。歯磨きの飛沫で汚れた洗面所の鏡。死んだって生きて行くと言う決意に詩を感じました。
0お返事遅くなり、すみません。ご感想ありがとうございます。 もっと客観性を持たせ、普遍的にと思うのですが、結局、極私的。 死んでも生きていく、なんて、大袈裟な事言わねば、貧乏臭くて惨めなので、見え切ったまでです。
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