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それでも「僕ら」と呼ばれた時代に戻りたい
私は詩を読む時、つい意味を追求する癖がある。ところがこの詩は意味など分からなくても心地よく脳内に染み込む詩だった。今回は普通のコメントではなくどうしても推薦文を書きたかった。そのためにはそれなりの理由がなければならないと思うので私なりの推薦理由を述べたいと思う。 まず、日本語と英語、カタカナのバランス、タイミングがこれ以上でもこれ以下でもないというくらいバランスが良い。読み手の感情に訴えかけてくるものがある。わざとらしくもなく、勿体付けてもない。 大切にしていた言葉、強調したいセリフが英語になっている。 ずっと昔の「僕ら」の時代。大切にしていた >≪shake hands≫ >≪touch your brain≫ これらの言葉が「僕ら」と共に消えていく様子が儚い。 それでも、 >一人きりで見上げた濃紺の空は、沈む気持ちを包み込んでバターみたく溶かし、胸に蕩けさせ少女を呼び戻す のは、何度も繰り返される と、どこか温かい表現で「一人」になった僕を、君を支えているのは >≪keep diving inside≫ の精神なのだろう。目まぐるしく変わる環境に於いても、常に自分を見失うことなく、自分であれと。 しかし、ここで面白いのが、第四連で再び戻ってくる >≪shake hands≫ >≪touch your brain≫ だ。成仏できないでいる亡霊が現世を彷徨っているようだ。そう簡単に「僕ら」は消えない。 >試験管の向こうの星屑 タイトルにもある「夜空」を飾る額縁が試験管というところが、決して広くなくでも二人にしか見えない星空であることがわかる。「君」の苦しみや悲しみが星を砕くほどのパワーを持ち、もし砕けたとしても二人にキラキラと降り注ぐ風景が見たい。 第五連で具体的な≪keep diving inside≫の取扱説明書のような文章がカタカナで書かれているところがより意味合いを持ち素晴らしい。「僕ら」であることは温かく、安心であるけれども、見えない何かで縛られていたのかという気もする。 第六連では、まさに「僕ら」の崩壊。既にそこには無い「僕ら」を必死で探した後に行きついた場所。一人で佇む「僕」も「君」も「透明」になったのではない。 >透明な色に染まりゆく 染まったのだ。そこにはあらゆる苦しみや悲しみを乗り越えた跡が見える。無数の亡き人とともに。 最終連では、≪keep diving inside≫自分自身を静観する「僕」の様子が伺える。そしてきっと「君」も。 >≪can I touch your brain?≫ は、今まで相手に頼っていたこと、自分でできているかを問うている。 しかし、「僕ら」でいた時代があったから、独りでも生きてゆけるようになったのではないか。初めから一人で≪keep diving inside≫できる人間はそう多くないだろう。おそらく第一連、第二連は昔を思い描いている「僕」なのではないかと推察すると、やはり「君」の存在は大きかったに違いない。 コロナ禍で人々の触れ合いが薄れてきている。一人きりの部屋であなたが思い出すのは誰ですか?ソーシャルディスタンスなど気にせずに笑い合った仲間?どうしても寂しい夜に一緒に居たい大切な人?私はやはり「僕ら」と呼ばれていた時代に戻りたいと、この詩を見て強く感じる。
それでも「僕ら」と呼ばれた時代に戻りたい ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1054.5
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投票数 : 0
作成日時 2021-10-01
コメント日時 2021-10-01
私もこの詩を読んでコメントしたのですが、もう一回読んで見たい詩でした。キープダイビングのところはキープディヴァイディングと読んで居たりして、誤読が有った訳ですが、そういうことも含めてもう一回でも二回でも読んでみたい詩かと。
1そうですね!お気に入りの曲を何度もリピートして聴くような感覚で読みたくなる詩だと思います。≪keep diving inside≫の解釈は少し難しかったですが、周りに左右されず自分のペースでって意味なのかなと。私も、日々の中で印象深かった出来事を英語にするような習慣、取り入れてみようかなと思いました。
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