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⑧君の始まらない話   

カオティクルConverge!!貴音さん 
作成日時 2018-11-08
コメント日時 2018-11-10

 

時間の呪縛から解放された男は、歳を忘れる程に生きていた。彼は旅人となり、この世の果てを幾度とその目に塗り重ねた。彼の瞳はブラックダイヤモンド、または宝石の宇宙と呼ばれ覗き込むと息を忘れる程にその瞳の奥に意識は吸い込まれ、同時に処理しきれない情報がイメージとなって脳内を駆け巡る。繊細な人だと精神に異常を来すそんな瞳をしている。彼がある晩、宿泊先で寝ていると強盗が忍び込んだ。手足を縛られ猿轡された彼は助けを呼べないまま眼を抉り取られた。彼と私達の住む世界にとって最大の損失である。 ⑧はその頃、デタラメジャポンに来ていた。中心部は無駄に張り巡らされた電線が有り、隙間から日差しが漏れていた。この電線は本当に全て、電流が流れているのだろうか?確かめてみたい気持ちもあるけど、感電するので止しておこう。朝だというのに、ピンクの下品な芸者の看板が光っていて、人力車暴走族が縄張りの印を描いた和紙を号外の様にばら撒いていた。花魁の格好をした色っぽい女が日陰の方で畳を一畳敷いて客を待っていた。 「もし?…そちらの、方よろしかったら…占って、あげましょか?」 独特の息遣いと、ゆったりとした喋り方が花魁の色気を引き立たせていて、⑧は引き寄せられるかの様に畳の上に正座していた。正座したは良いものの、何も占って欲しい物がなくて、困っていると女は微笑んでこう言った。 「近々…起こる、事を占って、あげましょう…」 黒い漆塗りの木箱の中には、幾つかの小道具が入っており、その中から花札を取り出した。花札を軽快に切り混ぜ、畳の上で更にごちゃごちゃに掻き混ぜた後、丁寧に48枚を並べた。 「これと…思う物を選んで、下さいな。あなたが、自らの意思で…歩む道で、御座います。」 ⑧は真ん中辺りの札を捲る。萩に猪だった。 「萩に猪…正位置で、御座います。貴方は、猪の如く、その強い生命力で…幾多の困難を駆け抜けるで、しょう。次ぎは、私の…方から捲らせて頂きます。貴方が望んで無くとも歩まされる、回避出来ない道で、御座います。」 女が札を捲ると芒に月、⑧から見て逆を向いていた。女の顔が少し苦い表情になった。 「芒に月の…逆位置。別名、死んだ月と血染めの空、そして荒廃の地。大凶で…御座います、ね。貴方は…これから、全く関係の無いものに、巻き込まれてしまいます。下手をすると…命を落とす、事もあります。ですが、最初に選んだ札の通り、貴方は、その強い生命力で…前進して、乗り切る事が出来る、可能性が…あります。立ち止まらない、事です。脇目も振らず…一心不乱にどうか…道は、常に、前にあります。」 良い事と悪い事を同時に言われると、逆にどう受け取ったら良いのか分からない。きっちり分けて言われる事が良いのだなと⑧は思った。こうなると悪い事の方が気になってしまって、さっさと此処から立ち去りたい。不幸が来る前に竜宮ホテルの煙草バーで、静かな海を吹かしたいんだ。あれは良い。葉巻みたいに燃焼がとてもゆっくりとしている。眼を瞑れば何処までも続く遠浅な海にいるようだ。あれを吸いながら、ドロップムーンを飲みたいのだ。世界の引力が時を限り無く引き伸ばすその中に身を投げたいのだ。さっさと干支タクシーを捕まえよう。午が走っている筈なのに、何故か一台も見当たらない。困ったなぁと⑧は練り玉珈琲を舐めようとした時、人混みを強引に掻き分けて駆ける男がやって来た。 「あらー…早速、不幸が…やって来た、わね。」 ⑧は深い溜め息を付いた。


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みうら (2018-11-10):

この作品が私のことを書いているのかと錯覚してしまうぐらいに魅力的な人物として描かれている。いや、愛情が込められている作品に読めた。ややプロットにラフな感が残るも。

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