浜辺に足跡のみを残して
消えてしまった彼は、
多分に、月影の下
影踏みに夢中で海に呑み込まれ消えたのだらう。
彼の影は異様に光り、
私はそれを見た途端に
それが梶井基次郎の霊と見当をつけ、
彼は自身の作品『Kの昇天』の如くに
影にどこかで落っことした吾を見つけてしまったに違ひない。
そんな影を踏む影踏みは、
夢中にならずにはゐられず、
その吾を踏み付ける愉楽は
何物にも代へがたくあり、
彼もまた、影が光りを帯びた霊性の眷属に見えたに違ひない。
さうして、死に行く彼は、
最期に潮を抱き締めるやうにしながら
――Eureka!
と快哉を挙げ、
その聲が消ゆると共に絶命したこの入水に
彼の宿痾である重い癆痎から解き放たれて、
初めて安らぎの中に没することが出来たに違ひない。
吾もまた、夜の秋の月影の下、
この吾の光る影を踏み躙り
吾を踏むといふ何物にも代へがたき愉楽の中で、
入水する欲求に身を任せてしまひ、
溺死する吾を
唯、吾は抱き締めるしかなかったのである。
作品データ
コメント数 : 4
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作成日時 2025-09-01
コメント日時 2025-09-10
#現代詩
#縦書き
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2025/12/05 19時56分10秒現在
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こんばんは。 言葉の存在は知っていて、はじめてEurekaの意味を調べてみたのですが、そう考えますと、彼が影踏みに夢中になった理由がわかる気が致します。僕も影踏みに夢中になってしまってるのかもな、と考えてみたり。勉強になりました。
0いつもながら、死に向き合って考察しておられますね。死遊び、生遊びなんて思いました。でも、いつまでも死に向き合っていると、日ごろの生は大丈夫なのかな、と思ってしまいます。恋とかするのもいいものだと思いました。
0コメントありがとうございます。私の作品が貴方の理解に少しでも役立っているのであれば幸いです。
0コメントありがとうございます。色々と心配くださりありがとうございます。然し乍ら、私は、今、人生で一番幸せな時を過ごしていますので、自死の心配はご無用です。
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