夜の東京は、湿った熱気に溺れていた。無数のネオンが、まるで電子の血のように、濡れたアスファルトに滲む。
新宿に丁目の路地裏、錆びた鉄扉の奥にある地下室で、彼は待っていた。レン。見る者を惑わすほどに美しい、男娼。
彼の肌は、まるで大理石を薄く削ぎ、月光で磨いたかのようだった。
黒い髪は、濡れたカラスの羽のように首筋を撫で、その目は深い湖の底で揺れる燐光を宿していた。
客は彼を「聖母の息子」と呼んだ。だが、レンの微笑みは、神聖なものなど微塵も含まなかった。神の失敗作。
それは、肉を裂く刃の輝きだった。
「今夜は、より深く潜りたい?」
彼の声は、低く、蜂蜜と毒が混じった響きだった。
客——名を捨てた男、ヨレヨレの黒いコートを纏った影——は、言葉を失い、ただ頷く。レンは、まるで神聖な儀式の司祭のように、ゆっくりと立ち上がった。革の
ベルトが軋み、絹のシャツが肩から滑り落ちる。その肉体は、まるで彫刻家が罪そのものを刻んだかのようだった。完璧で、穢れていた。
部屋の中央には、錆びた鉄のベッド。シーツはなく、ただ冷たい金属が剥き出しだ。
レンはそこに横たわり、膝を折り、まるで祈りを捧げるように腰を掲げた。男の息が荒くなる。空気は、欲望と恐怖の粒子で重かった。
「これが、君の望む祭壇だ」とレンは囁く。「私の坩堝に入り、燃やし尽くしてみなよ」
男は震えながら近づく。指先がレンの肌に触れる瞬間、まるで雷が落ちたかのように、時間が裂けた。肉と肉の衝突。汗と血の交響曲。レン
の体内は、まるで宇宙の深淵のように、男を飲み込んでいく。そこには光も、救済もなかった。ただ、果てしない落下と、獣のような咆哮だけが響く。
彼の肛門は、禁断の門だった。開くたびに、世界の秩序が崩れ、東京の夜空はさらに濃い紫色の煙に濁った。
男は叫び、レンは笑う。その笑い声は、ガラスを砕く音のように鋭く、聖歌のように荘厳だった。
やがて、すべてが静寂に還る。男は床に崩れ、涙と唾液で濡れた顔を隠す。レンは立ち上がり、まるで何事もなかったかのように、髪をかき上げる。
「次は、もっと深く潜れるさ」と彼は言う。「私の坩堝は、決して尽きないから」
外では、紫色の煙がさらに濃くなり、東京の街を飲み込んでいた。レンの目は、夜の果てで燃える星のように、静かに瞬く。
彼は、永遠に美しい。そして、永遠に穢れている。
作品データ
コメント数 : 4
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作成日時 2025-08-02
コメント日時 2025-08-03
#現代詩
#縦書き
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2025/12/06 02時15分58秒現在
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こんにちは、 >>完璧で、穢れていた >>彼は、永遠に美しい。そして、永遠に穢れている。 パラドックスな熱情が散りばめられた詩だなと思いました。 物語性が強く顔を出しています。
0ご感想ありがとうございます。 ポルノ作品ですが、劣情を熱情に変えてみました。
0ソリッドな味がありましたよ。 鋭角的な鋭さというか、性行為をまるで格闘のように描いているというか、深く闇に沈むレンの瞳が浮かぶようでした。
0ご感想ありがとうございます。 セックスとは戦いでもありますね。
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