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帰宅遊泳   

作成日時 2019-07-05
コメント日時 2019-07-11

 窒息という言葉は、視線がズレを起こした車輌の繋ぎ目の隙間で産まれたそうだ。ジャンプするとレコードの針が飛んでブツっとなるので親によく怒られたのを思い出して、ああ、そうだった、と、これも確か地上十二メートルくらいのところだったはずだ。目玉焼きみたいにゆらゆらと、太陽がコンクリートを溶かしてしまいそうで気が気ではなかったのを思い出した。  「カタンカタン」も「タタムタタム」も何でもかでもこの国ではカタカナ語にして自分たちの言葉にしてしまうから、外国の言葉がいつまでたっても理解できないらしいのは、シルバーボディの一眼レフをぶら下げた、ショートボブにナイロンパーカーの子たちを沢山見ればもはや一目瞭然だったし、「眼鏡」に限っては「おかっぱ」と呼んで彼女たちが喜んでいたのはまだマシなほうだった。  「一度だけ黒いリムジンをお見かけしたことがございます。とても長いもので、住宅街の細い路地の角を一つ曲がるにも大変なご苦労をしていらしたご様子が私には気が気でなりませんでした。後のことは本当に何も存じ上げません。ただ一つ、その帰りに家の近くで電車を降りると、とても美しい女優さんのようなお方が目を細めて私を美しく軽蔑なさったのです。私は即座に窒息致しました」  あれ?黒い髪が長いあの綺麗な子。携帯なんか見るふりして実は目の前の人のこと撮ってにやけている。おまけに私の隣に座ったこじんまりしたこの子は「なぜか」というようなおかっぱで、さっきから鞄の蓋のボタンをずっとポチポチとしていて、肌に何やらぶつぶつができそうだ。ああ、この感じはそうだ、これは予兆だ。  ほら、ブツって何かがジャンプして、泳いだ視線がまたひどく横にひとつズレてしまってこれは取り返しがつかない。もう本当に窒息は懲り懲りだと思った。  地上十二メートルくらいの夕景で、みんなが空中にぷかんぷかん浮かんでいる。


項目全期間(2019/11/22現在)投稿後10日間
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閲覧指数:717.1
2019/11/22 20時19分17秒現在
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コメント数(4)
るるりら (2019-07-10):

こんにちは 不思議な作品ですね。題名が「帰宅遊泳」という世界観なのだから、不思議なのだろうなと読み進めると、結構 リアルな息づかいが感じられて 冒頭でいきなり息を呑みました。 > 窒息という言葉は、視線がズレを起こした車輌の繋ぎ目の隙間で産まれたそうだ。 なんて書いてあるのですもの、身体が大きくゆれて 電車の連列部分みたいに首が ガクつと うごいたりして、【ガシヤズゴン】とかいうような音をたてる列車の中に居るような気がしました。 息を呑むとき、意識は どっかに逝ってる感じは 確かに するものだなあと、変な感慨になりました。 息を呑むといえば、息を呑むほどの うつくしい人にであったりしたときの あの恍惚感は、具体的に表現しておられて 新鮮な気がしました。息を呑む、あの感じは、地上十二メートルくらいの夕景なのですね。結構な高さです。けど、恍惚感を リアルに可視化しておらる数字だと感じ、なぜか納得してしまいました。

花緒 (2019-07-10):

良い作品だと思った。文に緊張感と詩情がある。 > 窒息という言葉は、視線がズレを起こした車輌の繋ぎ目の隙間で産まれたそうだ。 と、最初に自分でやることを説明してから、まさしくズレを起こしていくという手法、すなわち説明を文の中に含む手法により、リーダビリティを高めていると同時に、分かりやすくなりきらない良さがこの作品にはあると思う。絶妙に良くわからない感じが心地よい。

survof (2019-07-11):

るるりらさん コメントありがとうございます!子供の頃、高速道路の上からみた東京の街に沈む大きな夕陽を思い出しながら書き始めたらなにやら不思議な作品になってしまいました。あと電車に乗るのがすごい好きです。昔はよく電車の連結部のところに乗ってたりした記憶があります。あそこだけ激しく空間が歪んでいる感じで、それがなぜか心地よく感じられたのを思い出します。それと、息を呑むときはやっぱりどっかに逝っちゃってますよね。以前にいつも使っていた駅が何かの映画の撮影現場になっていたことがあって、そこでとある女優さんをお見かけしたことがあるんですが、本当に綺麗でした。窒息してしまったのを覚えています。

survof (2019-07-11):

花緒さん コメントありがとうございます! >まさしくズレを起こしていくという手法 >すなわち説明を文の中に含む手法により 最近、こういう感じでちょっとずつズレていく文章を書くのが好きかもしれません。なんというか自分の知覚がそもそも時々ひどくズレを起こすんです。ある朝、目を醒ますと私はグレゴール・ザムザになっていました。 >絶妙に良くわからない感じが心地よい。 実は自分でもなにが言いたいのかちょっとよくわかりません、笑。「よくわからない感じ」に逃げたり安住したりしてはいけないな、という気持ちもあるんですが、やっぱり言葉にしようとしてもうまく言葉にできないことを言葉にしようとするとどうしてもうまく言葉にできないんですよね。なんかそういう感じのなかで、いかに文章の緊張感を保てるか、とか、どうしたらその中でも読者フレンドリーなものにできるか、とかそういったところ、もっと突き詰めていきたいな、とかんじている今日この頃、梅雨の頃でございます。

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